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第三十話






「……ユージどういうこと?」



 ホミは先程の俺とラルさんの会話を聞き、意味がわからないと尋ねてきた。



「要するにさっき酒場で揉めたのも試験みたいなもんだったんだよ。」

「……あれが試験?」



 ホミだけじゃなくポミも不思議そうな顔をして居る。

 ラルさんを見ると、二人にも教えてやれと言わんばかりの態度だ。とりあえず俺は自分の思ったことを説明することにした。



「あぁ、最近何かとトラブルを起こし苦情の多い奴なら初めてここで見る顔のそれもタルト級で偉そうにしている俺に絡んでくるのは容易に想像できるだろ。」

「確かにあんた態度だけは無駄にでかいもんね。」

「うるせえよ。そこでラルさんは俺が絡まれてどうなるかを黙って見てたんだよ。」

「……ユージが絡まれるとどうなるの?」

「別にどうもならねえよ。ただタルト級が元百鬼夜行を倒したって話が本当なら、仮にあそこで揉めても簡単に倒せると思ったんだろ。もしそこで負けたとしたらその程度の実力ってことで適当な理由をつけて試験そのものを無くせば良いだけだしな。まあ俺が手を出せば成立することだから不確定だけど、ラルさん見てると俺が反撃するって予想してた気もするんだよな~。でもまあ、これで当分さっきの奴も新人いじめはしないだろうし、結果的にラルさんの思惑通りってことだわな。」



 ここまで聞くと酒場での揉め事に意図があったことに二人も理解したようだ。



「そうか!格下と思っていた新人に一度でもあんな目に遇わされたら次からは等級や見た目で容易に絡めなくなるわね。それはあの人だけじゃなく、あの場にいた全員に当てはまる。」

「……さっきの人をうまく使ってユージの試験と協会への苦情の両方を片付けたってこと。」

「他にも何か企んでそうだけど、まあ今の俺達に直接関係する理由はこんなもんじゃねえかな?そうだろラルさん?」



 ここまで黙って俺達のやり取りを聞いていたラルさんは俺の問いに答え始めた。



「まあだいたいそんなもんじゃな。最近は協会も人手不足での、悪いがお主に代わりに働いてもらったわけじゃ。すまんかったの。」

「別に気にしてねえよ。それと、俺達に関係ない部分でも役に立ったのかよ?」

「そっちはおまけみたいなもんじゃからな。でもまあ多分問題なかろう。今晩か明日にでも効果はあると見ておるよ。」

「それならよかったよ。ってことはよ、結局俺の試験ってのはもう終わりでいいんだよな?」



 まあこれに関してはこちらとしても棚ぼた的な感じはしているが、酒場の一件で昇級できたなら俺としても楽でいい。

 だがラルさんの答えは俺の予想とは少し違ったのだ。



「お主の言う通りあれで試験は終わりと言いたいところじゃが……もう少しワシに付き合えば、言うなれば追加試験を合格すれば当初の予定より更に等級を上げてやってもいいぞ。」

「いやいや。あれで終わりなら別にいいじゃねえかよ!?そんなに上げてくれとも思ってねえしよ!」



 正直あれで終わりと思っていただけにかなりガッカリした。

 別に昇級に拘っていない俺としては、今回多少でも上がって依頼が受けやすくなるならそれで良かったのだ。


 だがそんな俺の気持ちを無視して周りの三人が話をしている。



「ネウトラル様、お聞きしても宜しいでしょうか?」

「嬢ちゃんは確かポミとか言ったな。何が聞きたいんじゃ?」

「はい、ポミです!えーっとですね、先程当初の予定よりと仰有いましたが、ユージは今の時点でどの等級になるのでしょうか?



 確かにそれは俺も気になる!するとラルさんは少し考えてポミの問に答えた。



「そうじゃの~、元百鬼夜行の幹部を捕まえたことだけを正当に評価するなら最低でもフローライトぐらいかの。」

「……フローライト。タルトから3つも上がるって凄い。」

「そっちの嬢ちゃんはホミだったかな。確かに通常1つずつ上がる等級を、一足飛びで3つも上げるなんぞ前代未聞じゃ。だからこそ、ここに出向いてもらってこの目で実力を確認する必要があったのじゃよ。」



 なるほどな。まあ酒場での一件を考えても等級通りの実力ならあそこで終わっていたのだろう。あの時の新人いじめの冒険者がフローライトの1つ下のカルサイトだったしな。


 当事者の俺よりも何故かポミとホミの方が興味津々なようで代わりに色々聞いてくれている。



「私達が先日昇級したばっかりのフローライトっていうのが少し気にくわないけど…でも確かにユージは実力だけは凄いもんね。でも……ネウトラル様の仰有る追加の試験みたいなものを受けてダメだったらタルトのままなんですか?」



 おー、それ大事なところだな!ナイスな質問だと横で思いながらラルさんの顔を見ると首を横に振っていた。



「さすがにそんな酷なことはせんよ。付き合う付き合わないは抜きでユージはもうフローライトに昇級じゃわい。」

「……ユージおめでとう。これだけでも本当に凄い。」

「でもネウトラル様の追加の試験を合格したら、悔しいけどもっと上がるんでしょ!?当然やるわよねユージ!」



 三人の視線が俺に集まる。とりあえず聞きたかったことはポミとホミがだいたい聞いてくれたし、それを踏まえて俺の答えは決まっていた。



「ん?当然やらねえよ?とりあえず当初の目的通り無事に昇級出来たことだしさっさと宿に戻ろうぜ。さっきから眠くてしかたねえよ。」

「「え?」」



 俺の答えは当然NOだ。何故か俺の答えを聞いて二人は驚いているが、何で追加試験なんてものを受けなきゃいけないんだ?


 まさかここまでの話を聞いて受けないと言う言葉が返ってくるとは思っていなかったのか、ラルさんが俺に尋ねてきた。



「普通は等級が上がるとなるとみんな喜ぶもんじゃがの~。ちなみにじゃが参考までに断る理由を教えてくれんかの?」

「ハッキリ言うと面倒臭い!あと今日一日歩き回って疲れたからさっさと宿にでも行って寝たいからかな。」



 俺は、現時点で思っていることをそのまま言葉にして伝えたのだ。するとその言葉を聞いたポミが俺に突っかかってきた。



「あんたホントにバカじゃないの!こんなチャンス滅多にないのよ!それもネウトラル様直々なんて私達が代わってほしいぐらいなのに、それを面倒臭いってあんた何考えてんのよ!」

「何をそんなに興奮してんだ?仕方ねえだろ、面倒臭いんだからよ。それにまだ等級だの冒険者だのの仕組みと言うかその辺がピンと来てねえんだからよ。フローライト級だっけ?それで十分稼げるなら無理に上げなくても良くねえか?」



 俺の返答にポミは頭を抱えている。すると今度はホミが俺を諭すように話してきたのだ。



「……ユージ、凄いチャンス。これを捨てるなんてとんでもない。ネウトラル様がどれだけ上げてくださるお積もりかはわからないけど一気に上級冒険者になれるかもしれない。」

「なんだその上級冒険者ってのは?」



 また聞きなれない言葉が出てきたぞ。頭の容量が少ない俺に、色々と一気に詰め込むのは止めてほしいのだが流れ的に聞かなきゃダメだよな。



「……上級冒険者はフローライトの1つ上のアパタイトより更に上の等級を持っている冒険者のこと。街とか協会とかから直接難しい依頼を受けることのできる冒険者。多分アシミノーク領内でも数えるぐらいしか居なかったはず。」

「へー、そりゃスゲーな。」

「スゲーな…じゃないわよ!アパタイトまでは上がれてもそこから更に上がるのが本当に大変なの!あんたは今そのチャンスを貰ってるのよ!わかったなら当然受けるわよね?」

「いや……マジで面倒臭いんだよな~。」



 ここまでの説明を聞いても受けようとしない俺に二人は頭を抱えて黙りこんだ。ここまで俺達のやり取りを聞いていたラルさんが口を開いた。



「お主は本当に変わった奴じゃな。普通はそこの嬢ちゃん達の言うようにみんな飛び付いてくるんじゃが。見ると試験にたいして怯えてるわけでも慎重になっているわけでもなく、ただ単純に面倒臭いと言うのが滲み出ておるわい。」

「わかってくれたかよ!じゃあ俺達はこの辺で……」

「……無しじゃ。」



 これで話しも終わったことだし、席を立ちその場から去ろうとする俺にラルさんが何か言ってきたのだ。

 ハッキリ聞き取れなかったので俺は立ち上がったままラルさんの方を見た。するとラルさんは再び口を開いた。



「それは残念じゃな。折角タルト級から上がれたのに当分そのままじゃな。」



 この爺さんとんでもないことを言い出したのだ!



「ちょ、ちょっと待てよ!さっき現時点でフローライトに上げるって言ったじゃねえかよ!?」

「はて、そんなこと言ったかの?なにぶん歳なもんでな。それにワシは頭のイカれたジジイじゃからの~。」

「うっ……き、聞こえてたのかよ……。」



 これは完全にラルさんのペースになっているのがわかる。


 そしてこれが最後だぞと言わんばかりにラルさんは俺に尋ねてきた。


「さて、それでどうするんじゃったかの?追加試験を受けないんじゃったかな?」

「くそ……わかったよ。受けりゃいいんだろ!」

「おー、そう言うてくれると思っておったぞ。」

「よく言うよ。これだから年寄りは苦手なんだよ……。」



 こうして俺は受ける以外の選択肢を潰され、渋々ラルさんの話にのることになったのだった。


 

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