第二十七話
俺達は今、村で借りた馬車に乗り王都アシミノークに向かっている。
昨日冒険者協会で王都に行くように言われた俺は、とりあえずそのことを村長に伝えにいった。
勿論村長が反対することはなかったのだが、その時にポミとホミの父親の事を聞かされたのだ。
何でも最近王都から良くない噂がこの村まで流れてきており、王都に知り合いのいる二人の父が様子を見に行ったとか。
ただその聞こえてきた噂があまり良くなかった為、二人の父は村長にだけ王都に行くと告げ娘達には少し知り合いのところに行くとだけ伝えて家を出たらしい。
今までも一ヶ月ぐらいなら何度か家を留守にすることもあったので、娘二人は現状父の戻らないことを不安に思っていないのだが王都に行ったことを知っている村長だけはその事を心配し、俺に告げたのだ。
「馬に乗れば往復一日で帰ってこれる場所に向かってもう一ヶ月か…。まあ多少気にはなるよな。」
「ユージ今何か言ったぁ~?」
「いや、なんでもねえよ。」
王都までは馬に乗れば往復しても一日ぐらい、歩いたとしても数日で行って帰ってこれる距離らしい。
別にそこまで心配しなくてもと村長には言ったのだが、本格的に探してくれとは頼まないけど気には止めといてほしいとのことだ。
ただあの時の村長の様子……何か俺に隠してる気がするんだよな。多分その隠している事のせいで村長あんなに心配しているのだろけど……まあこれ以上は考えるだけ無駄だな。
確かに二人の父親の事は多少気になるけど、それより冒険者協会で俺はなにをやらされんだろう。試験みたいなことって筆記だったらその時点で詰みだしな。マジで面倒臭い……。
「ほら、ユージ起きて!そろそろ見えてきたわよ!」
「……あと少しで到着。」
「んあ?おおー、マジか!?」
自分がこれから行く場所で何をさせられるのかなど色々想像してみたが、途中で考えることを放棄し眠っている間に俺達を乗せた馬車は目的の場所まであと少しの所まで進んでいたのだ。
俺は二人に声をかけられ体を起こすと確かに肉眼でハッキリわかる位置まで近づいていた。
「んでこれからどうすんだ?この馬車でこのまま冒険者協会に行くのか?」
「違うわよ。これは王都に入る前に預けて中には歩いて入るの。その辺は私がやるから任せといて!」
何だかいつもより憎まれ口が少なくテンションの高いポミが俺にそう告げる。
そして馬車が徐々に王都に近づき目前まで迫ったところで俺は二人の指示に従い馬車を降りたのだ。
そして、多分王都に入る前の受付みたいなところに向かい何やらポミは門兵と話をしている。
時折こちらを見ていたが、別に呼ばれていないのでその場で少し待っているとポミがこちらに戻ってきた。
「お待たせ!さあ、中に入りましょう。」
「入りましょうは良いけどよ、さっきの奴等何度も俺を見てなかったか?」
「あぁ~、そんな格好してたら誰でも見るわよ。でも安心して良いわよ。行く前にこうなることを予想した村長が身元を保証する文を認めてくれてたから、それを見せたら問題なかったわ。」
そんな格好ってなんだよ…。まあ村の中を特攻服で彷徨くと住民達が何度もこっちを見てきたし、言われて冷静に考えれば村長から貰った服が基本的な物なら多少は目立つのかもな……。
「ほら、何ボケーッとしてるのよ!置いていくわよ!」
「……ユージ行こう。」
「ワルイワルイ!すぐ行くよ。」
自分の悪目立ちを再確認している間に二人は先に進もうとしている。俺は声をかけられすぐに二人の元へと急いだのだった。
●
俺は今、以前村長に言われたことを少し思い出していた。
ここ王都アシミノークを中心に、俺達が住むザンユ村などこの周辺にある小さな村全てを含めてアシミノーク領と言うらしい。
確かにその中心にあるだけあって人の往来も店の数も桁違いに多い。
初めてここにきて、一つの場所を探すとなれば確かに苦労しそうだ。
でもその点で言えば道案内役の二人が村から一緒に来てくれているので迷うことなく目的地に辿り着けそうだ。
そいつ等が案内をしてくれていたらな……。
「あいつ等どこ行きやがったぁ!何が『ここを真っ直ぐ行くと中央広場に出るからそこを右に行くと冒険者協会よ~。』だ!広場までは迷うことなかったけど、そこから右に曲がる道が何本あると思ってんだあのバカ!つーかここ何処なんだよ!?」
そうなのだ……現在俺は絶賛迷子中だった……。
道案内の為に来たはずの二人なのだが、王都に入った瞬間…いや直前からポミのテンションがおかしかった。
そして広場に一歩近づく度にそのテンションは上がっていき、最終的に弾けたのだ。
「ホミあれ見てあれ!チョー可愛くない!?あぁ~、あれもヤバイよ!もっとあっちの方に行ってみましょうよ!」
「……でも先にユージを冒険者協会に連れていかないと。」
「そんなの大丈夫よ!ユージ~、ここを真っ直ぐ行くと中央広場に出るからそこを右に行くと冒険者協会よ~。これで大丈夫!さあホミ行きましょ!」
「……えっ、あっ、うん。」
俺はあまりの一瞬のことに呆気にとられていた。そして我に返った時にはもう遅く、二人の姿は人混みの中に消えていたのだ。
とりあえず追いかけるわけにもいかないので、ポミが言い残した言葉に従ってみることにした。
今思えば途中ですれ違う人に聞けば誰か一人ぐらいは冒険者協会の場所を教えてくれたかも知れないのだが、一応教えてくれたポミの言葉を信じていたのだろう。
そして信じた結果が今の状況だった……。
とにかくさっさと目的の場所に行きたい俺は、次に人と会ったら聞いてみようと歩き続けているのだがさっきから誰とも会わない。
それどころか、どんどん街の雰囲気が寂しくなっている。
何の根拠もないがこのまま進んでも目的の場所に辿り着く気がしないので、とりあえず俺は一旦来た道を戻ることにした。
そして足を止めその場で立ち止まった時、何かが俺の背中にぶつかってきたのだ。
何が当たったのかと思い振り向くと、まだ小学生ぐらいの男の子だった。
「兄ちゃんごめんよ!じゃあね!」
「ちょっと待てガキ!」
「えっ、な、何!?」
少年は俺にぶつかると、直ぐに謝りその場から立ち去ろうとしたのだ。とりあえず俺は走り去ろうとする少年の頭を押さえてその場に止めた。
「ちょ、ちょっと離してくれよ!一体なんだってんだよ!?」
「離してやってもいいけどよ、その前に俺から取ったもん返してから行けよ!」
「取ったって何をだよ!?お、俺何もして…いってぇ!」
「おいガキ、二度目はこんなもんじゃすまさねえぞ。まだこっちが笑ってる間にさっさと謝っとけ。」
そして質問をはぐらかそうとする少年の頭を俺は軽く小突いたのだ。
直ぐに言うことを聞くかと思ったのだが、少年は自分の頭を押さえたまま黙り込んでいた。
あまり子供を叩くのは好きじゃないのだが、この手のガキは口で言っても素直に言うことを聞かないのは自分の幼少期で十分理解している。
さて、どうしたものかと考え込んでいると先程まで黙り込んでいた少年がやっと口を開いたのだ。
「……んで?」
「聞こえねえよ。男ならハッキリ喋りやがれ。」
「だからなんで俺が取ったってわかったんだよ!?自分で言うのも何だけど完璧だったんだぞ!」
「あぁ~、ってお前バカだろ?人が横に並んでも数人は歩けそうな道でわざわざ一人で歩いてる俺にぶつかってくるなんて疑ってくれって言ってるようなもんだろ。それによ、返せとは言ったけど別に取られてねえしな。」
「えっ!?」
そう言うと俺は自分のズボンから布袋を出して目の前の少年に見せたのだ。
「一体どうやって……。確かに取ったはずなのに。」
「あぁ確かに一度は抜かれたけど、お前が懐に仕舞う前に抜き返しただけだ。自慢じゃねえが俺の手癖も大したもんだろ。」
「いつの間に…。って、だったら何で俺の頭を叩いたんだよ!?」
「それはあれだ、嘘ついて逃げようとしたから人生の先輩からの有難い教えとでも思えばいいんじゃねえの?」
「なんだよそれ、無茶苦茶かよ…。」
笑う俺を見て、全く納得できない表情を少年は浮かべている。
ただいつまでもこの子の相手をしている程暇じゃないことを思い出した俺は、とりあえず目の前の少年に冒険者協会の場所を聞くことにしたのだ。
「まあこれに懲りたら相手見て悪さしろよ。それでよ、ちょっとお前に聞きたいことがあるんだけど……」
「うるせえバカ野郎!偉そうに言ってんじゃねえよ、この説教ジジイ!次は絶対にすってやるから覚悟してろよ!バーカ!」
俺が話を聞こうと一瞬目を離した隙に、好き勝手な言葉を言いながら少年はその場から一目散に走り去っていったのだ。
「いや、冒険者協会の場所をだな……。」
こうして俺は、再び人の居そうな場所まで歩くことになったのだった。




