第二十二話
意識を失い横たわる男を見て、とりあえず面倒事が片付いたことに俺はホッとしていた。
ただ本音を言うと、ここに来るまで多少の不安はあったが終わってしまえば結局こんなもんかとさえ今は思い始めていた。
しかしコイツ、途中で変なことを口走っていた気がする…。
でもまあその辺は俺が考えても仕方のないことだし、とりあえず後の事は冒険者協会がなんとかするだろう。
残った俺の仕事は…後ろの二人を村に連れて帰る事だけだ。
そう思い後ろを振り返ると、何が起きたのかまだ理解できていないのか女性は不安そうに尋ねてきた。
「ね、ねえ……もしかして終わったの?」
「あぁ~、終わったぞ。あとはその子が目を覚ましたら村に帰るだけだな。」
女性は横たわる男と俺を交互に見ると、やっと状況が理解できたのか今まで張り詰めていたものが切れたかのように体から力が抜けている。
まあ俺としてはそこで横たわる子を膝の上に乗せた時点で安心しきっていたようにも見えていたが……。
「ねぇ、アンタ本当に何者なのよ?」
先程までとは違う安心したような声で女性は再び尋ねてきた。
「ん~?だからさっきも言っただろ。俺は善良な村人だって言ってんの。」
「善良な村人ね~……まあ今はそれでいいわ。それよりも名前……アンタの名前教えてよ?」
「あぁ~、そう言えば名乗ってなかったんだな。俺の名前は森田勇次。気軽に勇次って呼んでくれよ。」
「ユージね……。私の名前はポミよ。そしてこの子が妹の…」
「……私の名前はホミ。宜しく……ユージ。」
「ホ、ホミ!意識が戻ったのね!」
どうやらホミと言う名の女性も意識を取り戻したようだ。
これで今度こそ村に帰ることが出来そうだな。
俺達は今、村へと続く道を三人でゆっくりと歩いていた。
あの後、ホミが目を覚ました途端ポミが大泣きしだした。
まあそれほど心配していたのだろうと、一先ず泣き止むまで俺はその場で座り大人しく待っていた。
そして散々泣いて気持ちも落ち着いたのか、ポミが村に帰ろうと言い出したのだ。
俺としてはその提案に反対する理由はなかったのだが、少し気になったので何気無く聞いてみた。
「帰るのは良いけどよ、お前ら二人とも直ぐに動けるのかよ?」
ホミはつい先程まで気絶していたし、ポミはまだ立てないんじゃないのか?
そう思った俺の素朴な疑問だった。
すると二人はお互いの顔を見ると、すぐ俺に向き直ると声を揃えて大丈夫と言い立ち上がろうとしたのだ。
しかし、ホミはふらつきながらも立ち上がったがポミはまだその場に座ったままだ。
「……ポミ大丈夫?足怪我してるの?」
「怪我はしてないんだけどね…。ちょっと腰がね……。」
見兼ねたホミが尋ねると何やら歯切れの悪い口調でポミは返事をしている。
まあ怪我じゃなくてただ腰を抜かしただけだからな。
仕方ない、助けてやるか。
それでも何とか立ち上がろうとするポミに俺は手を貸そうと思い近付いたその時、何やらホミがブツブツと言い出した。
「……大丈夫、私に任せて。……この者の傷を癒したまえ……治癒」
見るとポミの体が緑の光に包まれていた。
「えっ!?ちょ、この光なんだよ!?」
「……癒しの魔術。これでもう大丈夫。」
「お前魔術っての使えんのかよ!?」
俺の問いにホミは黙って頷いた。そして程なくしてポミを包む光が消えたのだ。
「ホミありがと!もう大丈夫よ!さっ、帰りましょ。」
まるで何事もなかったかのようにポミは立ち上がり俺達にそう告げた。
そして横で見ていた俺は、魔術を初めて目の当たりにしてかなり興奮していたのだ。
「へー、今のが魔術ってやつか!マジですげーんだな!今のってよ、どんな怪我でも一瞬で治んのか?」
「……大抵の怪我なら多分治ると思う。」
「そりゃすげーな。じゃあさ、他にも……」
「ちょっと、先にここを出ましょ!そんなの帰ってからやれば良いじゃないの!」
興奮しホミに色々聞こうとする俺をポミが止めた。
言われてみれば確かにそうだよな。別に今すぐここで聞く必要もない。
俺はポミに言われた通り今は聞くのを止めた。ただ一言余計な事を付け加えて。
「悪い悪い。初めてみたから興奮しちまってよ!でもあれだな、ポミと違って魔術が使えるなんてホミはすげえな。」
「なっ!?あ、あんた今なんて言ったの…?」
「いやー、良くできた妹だなってよ。ん?おっ、おい…?」
「……ユージ、それは言っちゃダメ。」
見るとポミは両手を前で合わせて何やらブツブツ言い出した。
あれ…?これと同じ光景を数日前も見た気が……。
「私がホミよりも劣るですって…。良いわよ…見せてやろうじゃない…。姉より優れた妹なんていないんだってさぁ!?」
「なっ!?お前も使えたのかよ!?ちょ、わかった!俺が悪かったから止めろって!」
「……今のはユージが悪い。」
あの後怒るポミを何とか宥めて鉱山を後にしたのだ。
「てかよ、あそこで魔術を人に向けて打つ奴なんているか?俺じゃなけりゃ大惨事だったんじゃねえのかよ?」
「だ、だからそれについてはちょっとやり過ぎたと思って反省してるわよ!それにあんたが余計なこと言うのが悪いんでしょ!」
別に余計なことを言ったつもりはないんだけどな~。
ただ途中で気になっていた、たまに話し方が変なのはどうやら感情が高ぶった時に無意識に出るらしくそこに関しては姉妹共通の癖みたいなものらしい。
鉱山を出てすぐはこんなやり取りをしていたが、三人とも徐々に話すことも無くなり、今は黙って村へと歩いていた。そして俺は自然と今日一日の事を思い返していた。
あの元百鬼夜行とか名乗る男……完全に俺達を殺しに来てたよな~。ここは平気で人が人を殺せる世界か……。
別に俺が元居た世界でも殺人はあった。だけどある種の非日常と言うのか一部の頭がいかれた奴ぐらいで普通の人はそんなことをしない。でもここは違うみたいだ。もっと日常的な、生活に溶け込んでいると言うか……。多分ここでも人を殺したことのない人の方が多いとは思うけど必要に迫られれば多分……。
村長に教わったどんなことよりも、この事が一番俺には重く感じた。
「……ージ。ねえユージってば?ちょっと聞いてるの?」
一人でボーッと考え込んでいると、俺を呼ぶポミの声が聞こえで我に返った。
「悪い悪い。一体どうしたんだよ?なんか用……あぁー、もう村が見えてきたか。さっさと帰ろうぜ。」
しかし二人は村まで後少しのところで足を止めると、振り返り俺を見ている。
「きょ、今日はありがとね。あんたが居なければちょっと危なかったわ…」
「……ユージありがとう。」
「い、一応お礼は言ったからね!ほらホミ帰るわよ!」
突然二人は俺に感謝の言葉を述べると、こちらの返事は聞かずそのまま村まで駆け出していた。
「アイツ等一方的に言って走っていきやがった…。でもまあ人に感謝されるってのも悪くねえな…。」
感謝されたことを少し照れ臭く、でも悪い気はしないなと思いながら走っていく二人の背中を追うように俺も村へと帰ったのだった。




