第二十一話
鈍い音が鳴り、男の体は再び入り口の方に吹っ飛んでいった。
「……え!?今何があったの?」
「ん?別になにもしてねえぞ。ただニヤケ面でこっちに近付いてきやがったから、ちょっとムカついて向こうに軽く蹴り飛ばしてやっただけだよ。」
何が起きたのか理解できないと、不思議そうに尋ねてきた女性に俺はそう答えた。
俺は大柄の男が攻撃してきた剣がこちらに向かって振り下ろされる前にがら空きの腹部に軽く前蹴りを叩き込んだのだ。
男は反撃なんて予想していなかったのか、それとも反応しきれなかったのか防ぐこともなく俺の蹴りをまともに受けた。
そして蹴りを受けた男は走り出した元の位置まで吹き飛んでいったのだ。
「あ、あんた一体何者なの……?」
「ん?俺か?そうだな……記憶をなくした善良な村人様ってところかな?」
「ちょ、ちょっと!あんたバカにしてるでしょ!?」
女性はこの状況に最初は驚いていたが、自分の問いに真面目に答えようとしない俺に少し苛つき始めたようだ。
しかし俺は、目の前で苛つきだした女性を見て思わず笑ってしまう。すると女性は何が可笑しくて笑っているのか当然理解できず、そんな俺の態度を見て更に突っ掛かってきた。
「あんた何笑ってるのよ!?やっぱりバカにしてるでしょ!?」
「悪い悪い。別にバカにはしてねえけどよ。泣いたり喜んだり起怒ったりコロコロ表情変えて忙しい奴だなと思ってよ。」
「なっ、あんたやっぱりバカにしてるじゃない!」
バカにしてるつもりはないんだけどな~。
でもさっきまでこの世の終わりみたいな顔してたのに比べたらまだ怒ってる方が元気があっていい。それよりもあれどうすっかな…。
俺は大の字で横たわる男を見てそう思った。
実は先程の一撃で俺のやる気がほとんどなくなっていたのだ。
どれだけ強いのかちょっと楽しみだったが……あいつもここに来る途中に居た奴等と大差ねえな。
相手がそれほど強くないとわかり、少し期待した分興味がなくなるのも早かったのだ。
だが俺の気持ちとは裏腹に、目の前は腹を押さえて立ち上がると妙なやる気を見せていた。
「うぐぐぐぐっ……。お、思ったよりやるじゃないか。だがまぐれは二度も続かんぞ!」
「まぐれって……。つーかまだやんのかよおっさん?この辺で許してやるから黙って捕まってろよ。」
「ちょ、調子に乗るなよ小僧!!!」
「まあそうは言っても大人しく捕まる分けねえか。さてその前にと…。」
俺は男が再びこちらに向かって来ようとしている姿を見てウンザリしながらも、アイツの相手をする前に一つ思うことがあったので後ろに振り返り頭に浮かんだことを口にした。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「あんたバカなの!こんな時にいったい何が聞きたいのよ!?」
「お前さ、もう自分で動けるようになったのかよ?」
「はあ?こんな時に何くだらない事言ってんのよ?あんたやっぱりバカじゃないの!?」
「さっきから人の事をバカバカってうるせえな!いいから早く答えろっての!どっちなんだよ!?」
「あぁ、もう!まだ動けないわよ!それがどうしたの……って前!前見てって言ってるんだってさ!」
こいつさっきからちょいちょい変な話し方するよな…等と思いつつ言われて前を見てみると確かに男は目前まで迫っていた。
そして宣言通り足を狙っているのがバレバレだったので、とりあえず男の攻撃を軽く避けると俺は未だ立ち上がれない女性を抱き上げ入り口に向かったのだ。
「ちょ、ちょっと何するのよ!?ってこのバカどこ触ってんの!離しなさいよ!聞いてるの!?」
「いてっ、いててて!良いからちょっと黙ってじっとしてろ!俺も好きでこんなことしてねぇよ!ホラ、着いたぞ。」
「きゃ!あ、あんたねぇ…もっと静かに下ろせないの!」
「イチイチうるせぇ奴だな。そんなことより……その子大丈夫なのかよ?」
「その子って……ホミ!!!」
女性は俺に言われて我に返ると横たわる仲間に直ぐ様這い寄った。そして最初は心配そうにしていたが、どうやら無事だった様で今は安心した表情を浮かべながら自分の膝の上に仲間の頭を乗せ寝かせている。
正直そこまで安心するのは早いんじゃないかとも思ったが……まあいいか。
さてと、あとはあそこにいる奴を片付けて終わりだな。
俺はすぐに向かってくると思い、いつでも対応できるよう身構えていたのだが、男は俺達がさっきまで居た場所で何故か下を向き立ち止まっていた。
いや、よく見ると男の体が小刻みに震えている。
「おーい、どうした?」
「ちょこまかと逃げるのだけはうまいようだな。だが次はもう逃がさんぞ…。」
「いや、お前バカじゃねえの?ご丁寧に足を狙うと言われたら誰でも警戒すんだろ?それもバカ正直に宣言通りの場所を攻撃してくるなんて…お前素直な良い子かよ!」
「なっ!?おまえ…」
「それにさっきから平静を装おうとしてのが見ててバレバレなんだよ。プルプル震えてお前は生まれたての小鹿か?立つのが辛いなら横になってろよ。」
「ぷっ…。ちょ、ちょっとアンタやめときなさいよ。」
後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
別に俺は思ったことをそのまま言葉にしただけなのだが女性は笑いだし男は何故かぶちギレていた。
「もう許さん!殺す殺す殺す殺す殺す…!」
「いや、ブツブツとこええよ。まあいいか、もう飽きたしそろそろ終わりにしようぜ。」
男は怒りの形相でこちらに勢いよく向かってきている。その行動を見た俺は、先程までとは違いその場で待つのではなくゆっくりと男の方に歩み寄っていった。
すると男は自分だけが届く間合いに入ると勢いよく剣を凪ぎ払ってきたのだ。だが俺は引くことも避けることもせず、更にそこから一歩踏み込むと迫り来る剣目掛けて拳を突き出した。
いや正確に言うと剣ではなく、剣を振るう右手の手首目掛けてだ。
そして男の剣が誰も居ない場所を斬った代わりに、俺の拳が男の手首を捉えている。すると男は握る剣を地面に落とすと、左手で折れた箇所を触り叫びだした。
「いっ、いてえええええ…。お、おまえ今何をした?」
「あ?別になにもしてねえよ?つーか骨が折れたぐらいでギャアギャア騒ぐんじゃねえよ!」
「な、何故おまえみたいな奴があそこの村に居る?こ、こんな話聞いてないぞ!」
「あ?てめえ今なんて言った?聞いてないって誰にだよ?てめえがここのボスじゃねえのかよ?」
「うっ、五月蝿い五月蝿い!そ、そんなことよりおまえはいったい何者なんだ!?」
「まあ別に良いけどよ。んっ、俺か?そうだな……俺は天下無敵のヤンキーだよ。」
「や、やんきー…?」
「あー、別にわからなくて良いや。ちょっと言いたかっただけだからよ。てか続きはやらねえのか?」
さっさと終わらせればいいのはわかっていたが、コイツが大して強くない事にガッカリしてからやる気が全く出ないのだ。
ただそうも言ってられないのでそろそろ気絶でもさせようかと思い俺は男に近付いた。
「ガキが油断したな!死ね!」
「あ~、やっぱりてめえ雑魚だわ…。てめえみたいな奴が考えそうなことなんてこっちは全部お見通しなんだよ!いいからもう寝てろ!オラッ!」
「なっ!?ぶはぁ…」
男は不用意に近づく俺に、いつの間にか左手に持っていた短剣を突き出したのだ。だがその行動を予想していた俺は、体に触れる寸前で左手を掴むとがら空きの顔面に拳をぶちこみ意識を刈り取ったのだった。




