第十六話
俺は冒険者協会から飛び出すと声のする方に向かった。
声の主は村の中心辺りにある少し広い場所に居て、その周りには既に村長達が居たのだ。
何があったのか聞いてみると、この男が森の奥で食料を調達していると怪しい男達を見かけたらしい。
気になったので後をつけてみると、今はもう使われていない鉱山に何人もの男が入って行ったのを確認したので、これは村長に報告しなければと思い村に戻ってきたと言うのだ。
ここまでならまだそこまで慌てる必要もないと思ったのだが、どうやら村に戻ってくる途中でこの事をある二人に先に話したらしい。
するとその二人は話を聞くと躊躇うことなく怪しい男達の居た鉱山に向かって行ったのだ。
これはさすがに不味いと思った村人はとにかく急いで村長に知らせる為に走ってここまで戻ってきたと…。
「そ、村長すいません!私が余計なことを話したばっかりにポミとホミが鉱山に……」
「ふむ……。最近あの二人が森で何かを探しているとは思っていましたが……そうだとしたら、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれんな。」
「村長!俺…先日冒険者協会で聞いたんですが…アイツ等もしかして百鬼夜行の残党なんじゃ……」
「ふむ……」
ここまで黙って聞いていた俺は、突然耳馴染みのある言葉に思わず反応してしまった。
「あ!?今なんて言った?俺の聞き間違いじゃなけりゃ百鬼とか言ってたよな?」
百鬼とは元の世界で何かにつけて絡んできた因縁のあるチームの名前だった。
勿論あの百鬼とは関係ないと思いつつも俺は村長に聞いたのだ。
「今そこの者が申したのは百鬼夜行ですな。」
「百鬼……夜行?」
「奴等は数年前に王都周辺で世間を騒がしておりましたならず者の集まりでしてな。当時は王都の者達も手を焼かされておりました。」
なるほどな。……どこの世界にもはみ出し者ってのは居るもんなんだな。
でも今そこの奴が百鬼夜行の残党とか言ってなかったか?
「ただ、ある日突然奴等の話を聞かなくなりましてな。これはあくまで噂なのですが、どうやら率いてた者が死んでしまったとか。そして率いていた者が死に、奴等も散り散りになってしまったと私どもは聞いております。」
「だから残党なのか。でもよ、今さら何年も前に解散した奴等がまた集まってなにする気なんだろうな?」
「それはわかりません。ただ最近村の周辺に野盗どもが住み着きましてな。幸い村にたいした被害はまだでておりませんが、ちょうどその時に王都から以前に百鬼夜行の一員で暴れまわっていた者らしき人間達が集まっているから注意するようにと通達があっただけですので…。」
それはタイミング的にも全く関係のない別の奴等とは決めれないな。
とりあえずここまでの話を聞き、思わず百鬼の名前を耳にしたので少し興奮してしまったが全く関係ないことがわかったので俺は踵を返し冒険者協会に戻ろうとした。
すると村長はそんな俺を見て、慌てて声をかけてきたのだ。
「ユ、ユージ殿どちらへ?まさか……」
「ん?冒険者協会に戻って水路の掃除でもして日銭を稼ごうと思っただけだぞ?」
「さ、左様でございますか…。」
何となく嫌な予感がした。
これはまさか…その野盗の住みかに突っ込んでいった二人を助けてくれって流れじゃねえのか…?
別に行っても良いけどよ……正直に言うと面倒臭い。
すると黙る俺に、村長は物凄く言い難そうに
「ユージ殿お力をお借りすることは出来ないでしょうか……?」
予想は的中した……。
面倒臭いが断る理由も無いんだよな~。
寧ろ数日とは言え完全に世話になったし行く流れなんだとは思うけど……。
俺が黙っていると村長は更に申し訳なさそうにお願いしてきた。
「ユージ殿に頼むのも筋違いとは思いますが、村には若い者も少なく王都から人を呼ぶにも時間がかかりすぎます…。今この場で頼れるのは情けない話ですがユージ殿意外居ないのです…。」
「ん~、ちなみに俺にどうしてほしいんだ?そいつ等全員ぶっ飛ばしてくればいいのかよ?」
「いえ、そんな無茶は勿論言いません。ただユージ殿の出来る範囲でポミとホミの二人を助けてやってほしいのです…。」
「要するにやり方は俺任せで、出来る範囲で良いからその二人を何とか助けろってことか?」
俺の問いに村長は首を縦に振った。
本音を言うならマジで面倒臭いし、顔も見たことのない奴を助けに行くほど俺はお人好しじゃない。
でも村長には衣食住を提供してもらった恩もあるしここは無下に出来ねえか……。
それにこの世界の奴がどの程度の実力なのか知るにも良い機会だしな……。
しゃあねぇな、行くか!
俺はとりあえず行くことにしたので村長のその事を告げた。
「良いぜ村長!行ってやるよ!もう一回確認するけどよ、やり方は俺任せでとにかく二人を連れて帰ってくりゃ良いんだよな?」
「おお~。ありがとうございます!さすが私が見込んだ方…。ええ勿論やり方はユージ殿にお任せします。」
「こっちも村長には助けてもらったしよ。まあ恩返しと思って気にしないでくれ。それよりもさ、受付の姉ちゃんに聞きたいことがあんだけど……良いか?」
「は、はい!?何でしようか?」
俺が行くことを告げると村長は何度も俺に頭を下げた。
別にこっちも助けてもらったしそこまで感謝される覚えもないんだけどな。
それよりも行く前に気になったことがあったので、広場まで出てきていた冒険者協会の受付に居た女性に声をかけた。
「さっき討伐系の依頼はまだ早いって言ってたけどさ、もしこの件にその百鬼夜行ってのが関わっていたら依頼を受けれる等級ってのはどれぐらいなんだ?」
女性は俺の問いに少し考えたが物凄く言い難そうに口を開いた。
「そうですね……。正規の依頼なら最低でもフローライト級は必要ですね……。」
「ってことは普通俺の等級で行くなんて無謀ってことか。」
「はい……。ですのでこの件に関しては私からはなにも言えません……。」
そりゃ女性の立場としては行くなと言えば先に向かった二人を見殺しにするような発言だし、行けと言えば俺に死んでこいと言ってるようなもんだからな。
「ってことはよ、仮にこの件に百鬼夜行ってのが関わっていて運良くって言うのか追い払うことが出来たら俺の等級って上がんのか?」
「そうですね…。報酬もそれなりの額をお渡しすることになりますしユージ様の等級も上がると思いますが……。」
「悪い悪い。これ以上はもう聞かねえし別に最初から報酬目当てで行くつもりじゃねえからさ。ただ一応知っておきたかっただけだよ。」
俺がそう言うと女性は軽く頭を下げてその場を離れた。
よし、じゃあちょっと気合い入れて行ってみるか。
最近暴れてなかったし、突然意味わかんねえとこに来ちまったストレスをその百鬼擬きにぶつけてやる。
俺は村長に一言告げてその場を離れた。
そして家に戻り、昨日村長に貰った服から特攻服に着替えた。
やっぱりこれを着ないとイマイチ気合いが入らないからだ。
俺は着替えが終わり広場に戻ると、野盗どもを見た男にソイツ等の居場所を聞き、村を出たのだった。