第十五話
「ようこそ冒険者協会へ!お仕事をお探しですか?」
俺は今、村長に教わった冒険者協会って場所の前に来た。
二階建ての建物で入るとすぐ受け付けになっている。
そして中に入ると目の前にはカウンターがあり、そこに立つ女性が俺の姿を見ると笑顔で挨拶してきたのだ。
こっちの世界では金がほしければ大半の人間がここ冒険者協会に登録をして仕事を請け負うらしい。
昨日村長から冒険者って聞いたときは少しカッコいいものを想像したのだが、どうやら仕事の内容はピンキリで『◯◯討伐!』『◯◯から守ってください!』等俺がイメージする冒険者っぽいものもあれば、スゴく簡単なものなら『家事代行求む!』『うちの猫知りませんか?』みたいな誰でも出来そうなものまで色々あるらしい。
成功報酬は当然難しい仕事をやった方が良いらしいが、あまり無謀すぎると冒険者協会側から止められるので最初はなるべく簡単な仕事をしろと言ってたな。
ただ自分の実力と行ってもこっちでの自分の強さが全くわからないだけに何をすればいいんだ?
勢いで建物に入ったものの、どんな仕事をするのが良いのか悩んでいると目の前の女性は悩む俺に声をかけてきた。
「あっ、昨日村長と一緒に挨拶に来られた……ユージ様ですね。確か記憶がないとか?でしたらご自分の等級もわかりませんよね?」
等級?また聞き慣れない言葉が出てきたな…。
とりあえず俺は記憶喪失の設定で話を進めることにした。
「おはよう。そ、そうなんだよな…。働きたいと思ってここに来たんだけど何も覚えてなくてさ。悪いんだけど色々教えてもらえねえかな?」
女性は笑顔で頷くと説明を始めた。
「それではご説明させていただきます。まず依頼を受ける前にこちら、冒険者協会で簡単な登録をしていただきます。それが終わればユージ様は今日から冒険者となります。あとは御自分の等級に合ったお仕事をしていただく流れとなります。」
「派遣のバイトみたいなもんか…」
「ハケンノバイト……ですか?」
「いや独り言だから気にしないでくれ。それで流れはわかったけどさ、さっきから等級って言ってるけど何だそれ?」
俺が尋ねると女性は後ろから小さな石のプレートを取り出してきた。
「冒険者の皆様には各自どの仕事が向いているのかそれまでの実績を元にこちらでランクをつけさせていただいてます。そして冒険者協会に登録した直後の方はまずタルト級から始まりますのでユージ様の現在の等級はタルト級ですね。」
そう言うと手に持っていた石のプレートを俺に手渡してきた。
「冒険者の登録をする際、そちらの石にユージ様の生体情報を記憶させますので依頼を受ける際は必ずそれを身につけて行ってくださいね。万が一ユージ様の身に何かあったときもそれで身元の確認もできますので。ここまでは宜しいでしょうか?」
「スゲーわかりやすかったよ。ここまでは理解したからさ、とりあえずその登録ってのをしてもらっていいかな?」
「畏まりました。それではこちらを記入していただき、それが終わりましたらプレートを握ったままこちらの魔儒品にその手を置いていただけますか。」
俺は女性に言われた通り出された紙に必要事項を記入し魔儒品に手を置いた。
すると握り締めていた石が突然光を放ち出したのだ。
少し驚いた俺は思わず女性の顔を見るも、大丈夫と言わんばかりの表情でこちらに微笑んでいたのでここは騒がず大人しくすることにした。
そしてその状況でとりあえず待っていると、一分も経たないぐらいで手の中の石は光るのを止めた。
「お疲れ様でした~。以上で登録は完了致しました。これで今日からユージ様も冒険者の一員です。依頼を受けたいときはいつでもここに来てくださいね。早速何か依頼を受けてみますか?ご希望の依頼がありましたらお申し付けください。」
今日から冒険者と言われてもそんな実感は全くないな。
さてと、依頼か……。やっぱり自分に向いてる事をするのが一番良いよな。そうなるとやっぱりあれしかねえよな…。
俺は自分に何が出来るのか考えたが、一つしか浮かばなかったのでとりあえず聞いてみることにした。
「え~っとさ、ちなみになんだけど俺の今の等級で出来る仕事って何かあんのか?」
「タルト級のユージ様でも可能な依頼は……」
そう言うと女性は振り返り後ろの棚から数枚の紙を取り出すとそれを俺の前に並べたのだ。
「現在タルト級で受けれる依頼はこれぐらいですね。」
「へぇー、意外とあるんだな。え~っと……『庭の草むしりお願い!』『柵の補修お願いします』『話し相手になって!』『水路の掃除頼みます』………ん?こ、これで全部なんだよな?」
「はい、今この村で受けれる依頼は以上となります。」
ん~……金のない俺が贅沢言うのも何だがもっとこう派手なものはねえのか…。
背に腹は代えられねえしこれしかないならとりあえずどれか受けてもいいんだけど……いや、待てよ。
俺はダメもとで気になったことを聞いてみることにした。
「あのさ、別にこの依頼が悪いってわけじゃねえんだけどよ……もっとこう誰かを倒せみたいなものはねえのかな?さっきアンタもタルト級でって言ってたし上の等級にならあるんじゃねえの?」
俺の問いに女性は少し困った表情をしている。
多分無茶言ってるんだろうけど、聞くだけなら別に問題ないだろうと思っての質問だった。
「無いと言えば嘘になりますが……一つ間違えれば命に関わることですので最初は…」
「いや、アンタの言ってる事も十分理解出来るけどさやっぱり人には向き不向きってのがあると思うんだよ。じゃあさ、質問を変えるけど仮に今ここにあるその依頼を受けるならどうすれば受けれるんだ?」
「そうですね~…。フローライト級か最低でもカルサイト級ぐらいの方に依頼する内容ですので……。」
どうやら俺の今の等級がタルト級でその上にセレナイト級ってのがあって更にその上二つぐらいの等級じゃないと基本的に受けれないらしい。
ここでまた気になることが出てきたので更に聞いてみることにした。
「でもよ、誰も受けれない依頼を置いてても仕方ねえんじゃないの?それともこの村に強い冒険者とかいんのかよ?」
毎朝王都からこの村向けの新しい依頼があれば届くらしいのだが、現在この場所にそれがあるってことは誰か受けれる奴が居ないとその依頼自体が無駄になってしまう。
昨日村の連中と顔を会わせたがそんな強そうな奴居なかったと思うんだけどな。
俺は昨日出会った人達の顔を思い浮かべながら女性の返答を待っていた。
すると女性は少し言い難そうに話し出したのだ。
「……確かにユージ様の仰有る通り王都からの依頼はこの村に受けれるものが居なければ届くこともありません。なので現在この村には討伐系の依頼を受けれるカルサイト級以上の冒険者が……三名いらっしゃいますね。」
「はぁ!?こんな小さな村に三人もそんな奴が居んのかよ?でも昨日村のやつらと顔を会わせたけどそんな強そうな奴は一人もいなかったぞ?」
「これ以上は……あまり冒険者個人の事を私共が他の者に話すことは規則で禁じられてますので……。」
それ以上は話せませんと言われた以上、今後長い付き合いにもなるかもしれないし相手を困らせるのも良くないと思い聞くのを止めた。
しかし……三人もいるのか…。
しかし俺の中では恐らくだがその三人が誰なのか当たりをつけていた。多分昨日会えなかった村の外れに住んでいる二人と一ヶ月ほど前から旅に出ている奴を合わせた三人なんだろうな…。
さて話は少し反れたけどやっぱり地道にやっていくしかねえのかな。
さっきの感じだと今この村にある討伐系って依頼を俺に紹介してくれるとは思えないしな……。
仕方ない……。
俺は最初ってこともあり、ここは素直に雑用から始めてみようと思った。
「いやー、困らせて悪かった!今日が初日だし無理言うの止めとくよ。」
「そう言っていただけると幸いです。それで本日はどうなさいますか?」
「じゃあよ………この『水路の……』」
しかし、俺が半ば諦めて依頼を受けようとしたそのとき、建物の外から男の叫び声が聞こえてきた。
「そ、村長!た、大変だポミとホミの二人が……」
俺は建物から飛び出し声の聞こえた方に向かったのだった。