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第十三話






 起きてすぐに村長の家につれてこられた俺は、そこで昼食をいただくことにした。


 作ってくれたのは村長の奥さんだ。


 良かった……村長にあっちの趣味がなくて……等とバカなことを考えながら待っている間失礼を承知で辺りを見渡していた。

 


 そして運ばれてきた食事を食べている間にも気になったことがあったので、この際色々聞いてみることにした。

 都合の良いことにこの世界の事を知らないのは記憶喪失のせいだと思っているみたいなのでその設定を利用させてもらおう。




「なあ村長さんよ、他にも聞きたいことがあるんだけどいいかな?多分普通はみんな知ってて当たり前の事なんだろうけどさ……。」

「ホッホッホッ、かまいませんよ。さて、ユージ殿は何が聞きたいのですかな?」




 俺は出されたスープを飲み干し皿をテーブルに置き両手を顔の前で合わせ軽く頭を下げた。

 そして先程から気になっていた物を指差したのだ。




「ごちそうさん!すげー美味かったよ。ところでよ、さっきから気になってんだけどあれなんだ?」

「あれ?あれと言うのはどれのことですかな?」

「だからあれだよ。さっき奥さんが飯作るときに使った石みたいなやつだよ。」

「そこの魔需品の事ですかな?」




 マジュヒン?なんだそりゃ?


 実は昨晩この村に着いたときから思っていたのだが、ここには電気もガスも水道も恐らくない。


 元々無いのならそれがここでの普通なんだし別に問題はないと思う。

 しかし村長の奥さんが料理を作るときにちょっと不思議なことがあった。


 その不思議なこととは、奥さんは俺達に出す鍋を温めるとき『まるでコンロで火を着けた』かのように一瞬で薪を燃やし始めたのだ。

 もしかして最初から着いていたのかもと思ったが、そんなはずはない。

 何故なら俺が村長の家に来てから一度も暖炉を使用していないからだ。


 俺は少し気になったので、いつしか料理を作る奥さんの動きを目で追っていた。

 すると先程とは違う、こちらもこれまで使っていない暖炉の前に立ち止まると一瞬で薪に火を着けたのだ。


 ただ先程とは違い、火が着く直前に一瞬だが奥さんの手元が赤く光っていたことに俺は気がついた。

 そして手にはさっき村長が言ったマジュヒンとかいう石が握り締められていたのだ。



 

 俺達の会話が聞こえていたのか奥さんは村長にその石を手渡した。





「ユージ殿が興味を示したのはこれですかな?」




 村長はそう言いながら石を俺に見せてきた。

 その行動に黙って頷くと村長は手にした石を見ながら話し始めたのだ。




「これは私達のように魔術が使えない者にとって今や欠かせない道具ですな。」

「魔術?」




 またここで聞き慣れない言葉が出てきた。


 魔術ってあれか?手から炎を出したり怪我したのを治したり、何処か遠くの場所まで一瞬で行けるゲームとかでよく見るやつか?


 そんなことができる世界なのかよ…。

 俺は村長の言葉を聞き、有名なゲームとかでよく見る魔術を想像した。




「ふむ…。記憶が失われているとは思っていましたが、魔儒品の事まで忘れているようでしたら本当に何も覚えてないようですな。」

「……そうなんだよ。だから手間かけさせるけどさ、簡単にで良いからそのマジュヒンってのと魔術のことをもう少し詳しく教えてくれねえかな?」




 とりあえず俺は先程決めたように記憶喪失設定に乗った。





「わかりました。マジュヒンはともかく魔術に関してはそこまで詳しくありませんが、私がわかる範囲でユージ殿にお教え致しましょう。」

「手間かけさせてすまねえな。一つよろしく頼むよ。」 





 俺はそう言うと椅子に座ったまま村長に頭を下げた。




「まず先に魔術の説明からした方が良さそうですな。魔術とは人間なら誰しもが持つ心のスピリトを消費して使う神秘の力の事です。その神秘の力を使えば手から炎を出したり、天から雨を降らせたり、地形を変えたりもできるとか…。まさに人が神から授かりし力、それが魔術なのです。」





 俺は黙って話を聞いていたが、村長の話が本当ならそれはマジですげえ。

 ここで気になったことをとりあえず聞いてみた。





「すげえ簡単に話してくれてるのはわかったし俺は頭悪いから正直助かるんけどさ、そこまで聞いて気になった事があるから質問させてもらうよ。その魔術ってのは俺でも使えんのか?」





 そんな力が使えるならなにかと便利だと思い村長に聞いてみたのだが、村長は俺の言葉に小さく首を横に振ったのだ。





「申し訳ない……それは私にもわかりませんな。通常魔術を使うには大量のスピリトが必要でしてな。何の訓練もしていない者が使おうとしても大量のスピリトを必要とする魔術にスピリトが足りず何も起きないのですよ。それともう一つ、魔術にも得手不得手があるようでして、仮に訓練をしても魔術が使えない者や自分の欲する魔術だけは使えないなど様々なのですよ。」

「じゃあよ、その訓練方法と何でも良いから魔術を使う方法ってのを教えてくれねえかな?」

「それこそ私共のようなただの村人には教えれることはこれ以上ございませんな。ここから先は魔術を使える者に教えを乞うのが一番の近道ですが……生憎村で魔術を使える者は一ヶ月ほど前から旅に出ておりましてな。とりあえずですがここまではよろしいかな?」





 俺は村長の言葉に黙って頷いた。

 とりあえず今は魔術に関してこれ以上考えても無駄ってことだけは理解したからだ。





「さて、ここからがユージ殿が気になった魔儒品の話なのですが魔術は一部の限られた者にしか使えないというのは理解していただけたと思いますが、この石……魔儒品は魔術の使えない者にも魔術に似た恩恵を授けてくれ有難い物なのですよ。」





 そう言うと石を持つ村長の手が赤く光だしたのだ。





「この石には火の魔術が施されておりましてな。と言っても火種程度の小さなものですが……これを握り火を想像すると誰にでもこんなことが出来るのですよ。」

 




 そう言うと光が消えた魔儒品を俺に手渡してきた。





「火を、小さな火を想像してくだされ。ただそれだけで魔儒品はユージ殿のスピリトに反応するでしょう。」





 俺は魔儒品を手にし村長の言うように火をイメージした。

 すると手に持つ魔儒品が赤く光だし小さな火種が浮き上がってきた。





「うまいうまい。それを暖炉の薪に近づけ火をつけてたのですよ。ご理解いただけましたかな?」

「スゲー驚いたけど理解したよ。ところでさ、この魔儒品って火を着ける以外にもあんのか?」

「もちろんございますが、正直なところ使用頻度が高いのは今ユージ殿が手にしている火の魔儒品ぐらいですな。」





 なるほどな。俺は手にした魔儒品を何度か光らせながらもう一つ聞いてみることにした。




「この魔儒品ってのはわかったよ。ただもっとよ、それこそ大きな火を出したり他に…例えばケンカ、人を傷つけるぐらいの物って…?」

「ユージ殿は仮にそんな物があれば手にいれたいとお思いですかな?」

「ん~、特に欲しいとは思わねえな。別に誰かと揉める気もねえし。ただ使う使わないじゃなくて仮にそんなものがあったら一応聞いとこうと思っただけだよ。」




 正直火を出したりとかちょっとカッコいいとは思ったけど村長にも言ったが特に欲しいってわけじゃない。


 ただこれからこの世界で生きていくしかないのなら自衛の為にも聞いてみただけだった。


 すると村長はそんな俺の答えに少し微笑みながら




「ホッホッホッ、やはりユージ殿は素直なお方ですな。さて、人を傷つける魔儒品でしたな。実際魔儒品で人に危害を加えることは出来ません…」

「そんな物はねえってことか?」

「魔儒品では無理なのですが、魔儒品よりも大量のスピリトを使用する代わりに強大な力を発揮する魔術品なら可能ですな。」

「ってあんのかよ!?」





 魔術品って……。ある意味何でもありだな。

 でも別にそこまで驚くことでもないか…。


 どんな道具でも使い方考え方次第だし、俺が想像できるってことは賢い奴がそんなもの作ってても不思議じゃないからな~。


 ホント俺のいた世界とここは全然違うんだな…。


 俺はここまでの話を聞きながら染々そう思い、この日は遅くまで村長に今の自分が想像できる限りのことを問い続けたのだった。

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