第十一話
謎の二人組に出会ったが村の場所を聞くことができず、それから更に二日かかって俺は人のいる場所に辿り着くことができた。
何故あれから二日もかかったのかと言うと。
声の方向に走ったは良いものの元の場所に戻ることができず勘で歩いていたらゴブ太と別れた湖に戻っていたのだ………。
その時はマジで膝から崩れ落ちそうになったが気を取り直してまずは食料が残っていないか生活していた小屋を覗いた。
予想通りと言うか小屋に食べれそうなものは何も残っていなかったので、俺は気を取り直し再びゴブ太に教えてもらった方向に歩き始めたのだ。
元々歩き始めた場所が小屋だったので教えてもらった方角だけは一応わかった。
しかし、昨日丸一日歩いて人の居そうな場所に辿り着くことが出来なかった俺は、ゴブ太が教えてくれた道で本当に正しいのか疑い始めていたのだ。
あー、昨日の奴等に聞ければこんな苦労しなくてすんだよな~。
あの後、目の前から早々に立ち去った二人組を追い掛けて道を聞くのは無理だと思った俺はその前にぶっ飛ばした男の事を思い出した。恐らく気絶していたので叩き起こして道案内させれば良い。そう思い辺りを軽く見渡したが姿が見当たらない。
いくら周りの景色に目立つものがないとは言え、男が倒れているのはそこまで離れた場所じゃなかったと思ったので、俺は二人組と出会った場所から少し離れ注意深く探してみたがやはり男の姿はなくなっていた。
そして、どうやらその行動が今の事態を招いた原因だったのだ。
完全に迷子になっていた………。
でもよ、あの状況で人の声が聞こえたらとりあえずそこに向かうだろう。
それにしても思い出すとやっぱりイライラしてくるのがあの黒髪の女だ。人の話を全く聞かずいきなり襲い掛かってくるし、自慢のヘアースタイルを鳥頭なんて言いやがるし!挙げ句の果てには一方的に意味のわからねえことを言ってその場から立ち去りやがった!
あれが男だったらとりあえず何発かぶん殴ってやるのによ…。
いくら考えても今更仕方のないことだが、俺は昨日の事を思いだしやり場のない怒りを紛らわせる為イライラしてることを口にしながらとりあえず最初の日と同じ道を歩き続けたのだった。
「しかし腹減ったな………」
あれから更に半日ほど歩き辺りも暗くなり始めていた。
ゴブ太と別れてそろそろ三日目の夜だ。ここまで飲まず食わずで過ごし気持ちはまだ元気だと思うが体の方がなにか食べろと五月蝿く言ってきやがる。
歩けど歩けど同じように見える景色でも途中には食べれるのじゃないだろうかと思う物もあった。
一応手には取ってみたが微妙にゴブ太が用意してくれていた物と違う気がしたので食べるのをやめたのだ。
魚や肉はとりあえず焼けばどうにかなると思うがこんな森のなかで手に入れる術のない俺は結局なにも食わずここまで過ごしていた。
だけど何故だろう……夜の方が腹が減った気がする……。
先程から俺の腹が自己主張をやめないのだ。その音を聞くたびに不思議と俺の体から力が抜けていく気がする。
「くっそ!村なんて何処にあんだよ!腹減って倒れそうだぞ!」
空腹からくる苛立ちもいい加減ピークになってきており、思わず誰も返事しないことを理解しつつその場で空に向かって叫んだ。
「あの~…誰かいるんですか?ど、どうかしましたか?」
すると誰もいないと思っていた暗闇の中から恐る恐るこちらを探るように男の声が聞こえてきたのだ。
「おっ、今誰か話しかけてきたよな!?頼む助けてくれ!もう飲まず食わずで三日もこの辺を歩き続けてんだよ!」
俺は状況をなるべく簡潔に説明した。あまり時間をかけて逃げられても困るしダラダラと話す元気も正直なかったからだ。
だがそれから先程の声が聞こえてこない。昨日の奴等の事もあるしまた誰かと勘違いして警戒しているのかと考えた俺はもう少し自分の事を説明した
「いきなり助けてくれって言われても意味わかんねえよな?でも一ヶ月ぐらい前に何故か向こうの湖の辺りで目を覚ましてよ、一昨日までその畔で魚食ったりして過ごしてたんだが人に会いたくなってその場を離れてここまで歩いてきたんだよ!って何言ってるか意味わかんねえと思うけど俺もなにもわからねえんだよ!頼む助けてくれ!」
全くうまく説明できていないとは思いつつも、とにかく俺は先程聞こえた声に向かって自分の事を話した。
だが、俺の声が消え静けさだけが増した暗闇の中から返事が来ない。
もしかして腹が減りすぎて先程の声は幻聴だったのかと思い始めたその時、俺の目の前の枝が掻き分けられてそこから若い男性が顔をだしたのだ。
俺はその姿を見て、思わず男に駆け寄った。
だが逆に男は俺の行動に驚き身を翻そうとしたのだが、とにかくこれ逃がすわけにはいかないと思い素早く男の腕を掴んだ。
「ヒィ!?」
「頼む逃げないでくれ!助けてくれ!本当に困ってんだ!」
男は最初怯えた様子で見ていたが、必死の俺を見て何か思う事があったのか
「た、たいそうお困りのようで。た、大したものはありませんがこの場所から向こうの方に少し歩いていけば私の住む村がありますのでそこで食べるものを少しお分けしましょうか?」
「マジで!?頼む!いや、お願いします!」
「あっ、はい…。ではこちらです。」
普段人に頭なんて下げることはない俺だが空腹には勝てなかった。
人間飯食わないとヤバイんだな…。
さっきまでイライラしていたのもやっと食事にありつける事と当初の目的の村にも辿り着けるかもと思ったら怒りも吹き飛び急に元気になってきた気がする。
俺は意気揚々と前を歩く男に着いていった。
会話らしい会話はなにもしなかったが前を歩く男は時折チラッと後ろを歩く俺を見ては歩を進めた。
普段なら『何見てんだこの野郎』とか『言いたいことがあるならはっきり言えよ』等と言ってしまいそうな態度も今のご機嫌な俺は気にもならない。
だが歩き始めて30分程経ち、徐々に最初の喜びも消えかけていた。
いい加減着いても良いんじゃないかと少しイライラし始めた俺は前を歩く男に声をかけようとした。するとその時、男がこちらを振り返り
「着きましたよ。さあ此方へどうぞ。」
とうとう俺は男の住む村に辿り着いたのだった。