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第十話








「ユージ~!俺頑張るゴブよ!だから、またきっとまた会うゴブね~!」





 後ろで手を振り大声で叫ぶゴブ太に別れの言葉は告げず、俺は無言で親指を立てその場を離れたのが昨日の事だ。


 俺は昨日ゴブ太と別れ、湖を背にし丸一日歩き続けていた。


 別れの前の夜に俺はその日まで聞けなかった事を少し聞いてみた。

 この世界の事や神の事などだ。結果は「俺にはよくわからないゴブよ…。」って予想通りの言葉が帰ってきた。


 ただ人が多く住んでいる場所の方向だけは聞けたので、俺はとにかくそこに行くことにしたのだ。


 歩き始めたときは正直不安よりも久し振りに人と話をできる期待にワクワクしていたのだが今はとにかく




「腹減ったな………。」




 ゴブ太が言うには丸一日も歩けば着くはずだったのだが、今のところ人が住んでいる場所に辿り着く気配が全くない。

 

 正直歩いてればいつか人と出会うだろうとは思っている。問題はそれよりも食事だ。

 丸一日何も食べていないのと、ここまでに人とは出会ってはいないが野良犬みたいなのが何度か襲い掛かってきた。勿論軽く追っ払ったがそれも俺の空腹を加速させていた。

 さすがに犬焼いて食う気にはなれないしな。


 思い返せばこの一ヶ月だいたいゴブ太が食べれそうなものを用意してくれていたので一人になった今何が食べれるのか全くわからない………。


 これはマジで困った。ゴブ太に全部任せず俺も手伝っておけばよかっ……ん?あれ、人の声しなかったか?




『………にしやがれ!』




 やっぱり気のせいじゃない!野太い男の声が聞こえてきたぞ。


 これはあれか、村娘とかが悪い男に襲われてる定番のやつじゃねえのか!?


 俺は兎に角声のした方向に走った。一瞬余計なことを考えたが手遅れになったら洒落じゃすまない。


 すると、声の方向に走るとすぐ俺の目の前に人相の悪い如何にも盗賊って男が飛び出してきたのだ!

 俺は飛び出してきた男の姿を確認すると同時に無意識に拳を繰り出していた。




「てめぇ邪魔だ!そこをどきやがぐえ…」




 男を最後まで話しきる前にぶっ飛ばしてしまった。


 だが、反射的にぶん殴ったが少し様子が変だな。

『誰かを追い掛ける』って感じじゃなく寧ろ『誰かに追い掛けられている』みたいな。



 すると、自分が感じた違和感の答えがすぐに聞こえてきた。




「今度村に立ち寄ったらこんなもんじゃ済まさないんだからね!帰ったらお仲間達にも伝えなさい!」

「うっ、うるせえ!覚えてやがれこのやろう…」




 若い女の声だった。それもどうやら襲われてるわけじゃないようだ。

 俺は自分が想像したような事態ではなさそうだったので走る速度を落としゆっくりと声の聞こえてきた方に歩みを進めた。


 すると俺の前を先程ぶっ飛ばした男に似た奴等が三人逃げるように走り去っていったのだ。



 どんなやつか知らねえが女であんな男ども四人を相手して、それも追い払うなんて大したもんだな。


 俺は今だ姿を見ていない若いであろう女性に感心した。それも内容が少し聞こえだがどうやらこの近くに村があるのも間違いななさそうだ。


 やっと人と会話ができる飯が食えると思った俺は、とにかく森の少し開けた場所に行きその姿を目にしたのだが……正直驚いた。




「マジか…?ガキ二人がさっきの奴等を追い払ったって言うのかよ?」

 



 目の前にいたのは俺よりも多分年下の女の子『二人』だった。


 一人は長い黒髪を後ろで1つに結んだ手足がスラッとした女の子で、もう一人が少し背は低いが灰色の髪の毛に女性らしい丸みを帯びたショートカットの似合う女の子だった。



 この子達がさっきの奴等を追い払ったのか?


 俄に信じがたい状況に少し思考の止まった俺だが、とにかく声をかけようと近づくと、黒髪の方がこちらに振り返り…罵声と共に攻撃してきたのだ




「まだ仲間がいたの!それもそんな鳥みたいな頭して!いいわ、丁度物足りなかったしもう少し相手して上げる!」




 そう言うと同時に手にしたナイフのようなもので斬りかかってきたのだ!




「ちょ、ちょ待てよ!俺はアイツ等の仲間じゃねえっての!ってあぶね!とにかく話を聞けよ!」

「ちょこまかと逃げるのは上手いようね!アイツ等の仲間じゃないって、そんな変な格好した奴がアイツ等の仲間じゃないなんて信じれるわけないでしょ!」




 このガキ……全く俺の話を聞く気がないな…。


 この黒髪の子、確かに良い腕なんだとは思うが正直対処できないほどではなかった。仕方なく俺は先程確認したもう一人と会話ができないかと思い視線を送る。しかし灰色の髪の子は杖みたいなものを握り締め黒髪の子だけを見てオドオドしているだけだった。


 ん~、困ったな。正直女を殴る気はないし、かといってこのままじゃラチがあかねえ。

 俺は黒髪の攻撃を受け流しながらこの状況をどう打開するか考えた。


 すると俺よりも先に向こうが痺れを切らせたようだ。




「へー。アンタ今まで相手した中で一番やるじゃない。でもなんで攻撃してこないの!?まぁそんな余裕そっちにはないんでしょうけどね!」

「いや、だから聞けっての。俺はアイツ等とは無関係で…」

「いいわ!とっておきを見せて上げる!」

「だから聞けよ……。」




 ダメだ………全く話にならねえ。まだゴブ太の方が会話できたよな。

 等と考えていると、黒髪は手にしたナイフを腰に納めると両手を胸の前で重ね合わせ何やらブツブツ言い出した。

 よく見ると重ねた手がボンヤリと光っているように見える。


 何が起きるのか想像できない俺はその場に立ち尽くし様子を見ていると




「逃げないなんて余裕ね!あとで後悔しても知らないんだから!」




 少しイラついたようにそう言うと、黒髪の手がさらに輝きを増した。そして光が右手に集中した瞬間




「………早く戻ろう。村が心配………。」




 いつの間にか灰色の髪の子が黒髪に近づき服の袖を掴みながらそんなことを言ったのだ。


 言われた黒髪は一瞬俺を睨み付けたが、すぐに灰色の子に目をやると胸の前の手をゆっくりと下ろした。

 そして首をクルリと回し一度深い溜め息をついた。



 よくわからないけどこれでやっと会話ができるのかと思ったが、黒髪は再びを俺を睨み付けこちらを指差しながら




「そこの鳥頭!さっきも言ったけど今度村に近付いたらただじゃおかないわよ!」




 なんて事を言いやがる。




「だから俺は関係……って、ちょ待てよ!」




 それだけ言うと俺の話を聞き終える前に二人の女の子はその場から走り去っていったのだった。

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