第一話
こんばんは。今「なろう」内で連載している作品とは全く違うものを以前から書きたくて、本日投稿させていただきました。相変わらずの拙い表現力ですが宜しく御願い致します。
眠い…
今何時なんだ?
目を閉じていても、部屋に差し込む陽射しで夜が明けたのはわかる。
昨晩は確か……特攻服に身を包み、ノリオ達とバイクでいつもの大通りを走ってると、敵対する暴走族【百鬼】のバカ共が俺達のルート上で待ち伏せしていた。
「オラ森田ぁ!今日こそてめぇらを叩き潰してやるから覚悟しやがれ!」
「またお前かよ川西。俺の自慢のスーパーリーゼントがビッと決まってる間はてめえごときに負けるはずねえだろ。良いからそこ退けや!」
「うるせええええ!てめえら今日こそ唯我を叩き潰すぞ!やっちまえ!!!」
「まあ当然こうなるわな。しょうがねえ、やってやんよ!行くぞオラ!」
当然こちらも引く気がないので、当たり前のようにその場で衝突しそのままケンカになっちまった。
いい加減こいつらとの喧嘩にも嫌気がさしていたので、今日で二度と逆らえないように叩きのめしてやる。そう思うと拳を握る手にも自然と力が入る。
だが、俺の気持ちとは裏腹に近隣住民が通報したのだろう…ケンカが始まると、すぐにパトカーのサイレンが鳴り響いてきた。
「チッ、もう来やがったか。やっと盛り上がってきたのによ。」
「勇次マッポだ!どうする!?」
「おう……聞け唯我ぁ!マッポか来る前にここから全員散れぇ!誰一人捕まるんじゃねえぞ!ノリオ、ここは俺に任せてお前が代わりに指揮を執れ!わかったな!」
「任せとけ!お前も捕まるんじゃねえぞ!」
「誰にもの言ってんだ。良いからさっさと行け。」
ここでバカどもとの喧嘩を続けて捕まっていたらそれこそ俺達も大馬鹿だ。俺は仲間を先に逃がす為、ギリギリまでその場に残り警察の注意を惹き付ける様に派手に立ち回る事にした。そして仲間の姿が殆ど無くなり、俺もそろそろこの場を離れようと愛車に跨がったとき一台のバイクが俺の行く手を遮るように止まったのだ。
「んだ川西~、まだ居たのかよ。」
「森田ぁ~!今日のところはここで終わりにしといてやる!だが次に会った時はてめえのそのいけすかねえ面をボコボコにしてやるから覚悟してやがれぇ!」
「良いからさっさとそこ退けよ。それとも場所変えて続きやるか?俺は別にかまわねえぞ?」
「ケッ、今日はもうヤメだ。オラァ!行くぞ百鬼!」
それだけ言うと川西は仲間と共にその場から離れていった。
「なんだあいつ。さて、そろそろ俺も行かねえとヤベエな。」
そして、再び周りを見て全員の姿が見えなくなったのを確認してから、俺もその場を後にしたのだ。
当然最後まで残っていた俺を、パトカーは追い掛けてきた。さっきから怒鳴るような口調で俺に止まれと指示をしているが、それで止まるヤツもいない。
いつもの大通りを、パトカーに追い付かれないスピードで走り、目の前に差し掛かる交差点を勢いよく曲がる。
闇雲に走ってるわけじゃなく、曲がった交差点のその先にある住宅地に入り、車がギリギリ通ることの出来ない路地に逃げ込めれば俺の勝ちだ。警察も当然それを理解しているので、そこに着く前に俺を捕まえようと躍起になっている。
だけど俺に言わせればパトカーで来た時点で捕まるはずがない。まぁ白バイが来ても、ルートを変えて逃げるから結局同じだがな。
そんな事を考えてる間に、目的の路地が見えてきた。俺はスピードを落としつつ、手前にあるカーブミラーを一瞬見た。
そして、路地に誰も居ないことを確認してから、俺は曲がっる…。
あれ…?路地を曲がった…。それからどうしたんだっけ?
そこまでは覚えているが、そこから先が思い出せない。
確か、曲がった瞬間に、車のヘッドライトの光みたいなのを見た気がするけど…。ん~、ダメだ!思い出せない!
でもこうやって今まで寝てたってことは、覚えていないだけで無事に家には帰ってるんだし、考えても仕方ない。それよりも、どれだけ眠っていたんだ…やたらと喉乾いた…。
俺は色々考えたせいで目が完全に覚めてしまった。昨晩の思い出せない部分は多少モヤっとするものの、今はまず水分を口にしようと起きることにしたのだ。
そして、体を起こし目を開けて…そこでやっと気がついた。
ここ…何処だ?
どうやら自分は、今まで知らないベットの上で寝ていたのだ。
まてまてまてまて!?一体此処は何処なんだ!?誰かに拉致られた…覚えは本当にないし、ラリった記憶もない!
そもそもパトカーから逃げた後の記憶がないんだし…。
今の自分の状況が理解できないままとりあえず部屋を見渡すと、木で作られた小屋のような場所にいるのはわかった。長年使われていないようで、部屋中が埃臭く自分が座るベットからも少し動いただけで埃が舞散っている。
部屋に窓はなく、壁にある無数の隙間から陽の光が差し込んでいた。
体は拘束もされていなければ特に傷もなく、昨晩着ていた特攻服のままだ。よし、体に支障もなければ動けないわけじゃない。
まずは此処を出て自分の状況を確認しないと何も始まらない。
外に誰か居るかもしれないので、なるべく物音をたてないようベッドから立ち上がり、扉のすぐ近くまで歩み寄った。
そして扉に耳を当てて、外の様子を探る。…だが人の居る気配がしない。
少し待ってみたがこのままジッとしていても仕方がないし、元より考えるのが苦手な俺は、覚悟を決めて扉を開けることにした。
右手を強く握って拳を作り、誰かがいたら問答無用でぶん殴ってから、今のこの状況の話を聞けばいい。
俺は、空いた左手でドアノブを掴むと、勢いよく扉を開けて隣の部屋に飛び込んだ!
「おらぁ!……あれ?」
だが、隣の部屋には誰の姿もない。寧ろ先程まで自分が居た部屋と同様、長年人が使った形跡がない。
床一面に埃が積もっており、今つけた自分の足跡だけがくっきりと表されている。
一体どういう事なんだ?誰かが隣の部屋まで俺を運び寝かせたのなら、床にはその人間の足跡がある筈だし…。
さっきの部屋には窓もなかったし、外から出入りできる隙間もなかったよな?
だとしたら、今俺の目の前にある玄関らしき扉から中に入り、この部屋を通って隣に行く以外に道は無いと思うんだけど…。
「あ~、わっかんねぇな!」
考えても何も浮かんでこない苛立ちから、思わず声をあげ近くにある椅子を反射的に蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした木の椅子は、材質の木が腐っていたのか、俺が勢いよく蹴ったせいでバラバラになり、辺りに飛び散ったのだ。
木の割れる音が部屋中になり響き、俺はその音でハッと我に返った。
やっちまったな…。
今の音を聞き付けて、恐らく外で待機している見張りがこの部屋に飛び込んでくると思う。
でも、それはそれで問題ないか。いつかは外に出るわけだし、幸いな事に出入り口は一ヶ所しかない。相手が来るとわかっているなら、待ち構えて迎え撃てばいい。
俺はそう考えると、扉の横に移動して、相手がいつ入ってきてもいいように、再び拳を握り構えた。
だが、いくら待っても中に誰も入ってこない。それどころか、外に誰かいる気配を感じないのだ。
おっかしいな~。日が昇っていて外で寝てるとは思えないし、誰も居ないってのは余計に考えられない。
誰も見張りが居ないなら、俺をここに拉致した意味がないからだ。俺の存在を邪魔に思う奴等が、何らかの方法でここに連れてきて、閉じ込めておきたいんだろうけど…。
あぁ~!ダメだ!やっぱり色々考えても、さっぱりわかんねぇ!それに、段々腹立ってきたぞ…。
このまま、誰かが中に入ってくるのを待っているのも一つの手なんだろうけど、性に合わないな。
もう面倒だし外に飛び出して、誰か居たらぶん殴ればいいだけだ。よし、そうしよう。
考えることに疲れた俺は、とにかく小屋から出ることにした。それも、どうせ出るなら派手に出た方が相手もビビると思い、目の前の扉を蹴破る事にした。
「よし行くか…。喧嘩無敗の森田勇次様を舐めんじゃねぇぞ。」
そして覚悟を決め、扉を力の限り蹴り飛ばしたのだ。
「はぁ?」
俺は扉を蹴り、思わず間の抜けた声を出してしまった。イメージでは、蹴った扉が勢いよく前に飛び、続いて俺が飛び出す筈だったのだが、扉そのものが無くなったからだ。
無くなったと言うか…俺が蹴ったら粉々になった。さすがにそんな力強く蹴ったつもりはないし、普通に考えても蹴った扉を粉々にするなんて話は聞いたことがない。せいぜい木が腐っていて、扉をぶち抜くぐらいが限界だと思う。
だが、先程まで目の前にあった扉は、正真正銘俺の蹴りで粉々になった…。
何だかいつもと様子が違うぞ…。
まず、そもそも誰かに拉致された記憶がない。次に長らく使われた形跡の無いこの小屋に俺が寝ていた。最後に、力は籠めたが粉々になった扉…。
思い返せば、先程砕けた椅子の時も、俺は軽く蹴ったつもりだ…。
そこまで考えて、俺はハッと我に返る。結果はどうあれ俺が扉を壊したことを思い出した。
少しのタイムラグはあったものの、誰も気がつかず集まっていないことを願って、俺は叫びながら小屋から飛び出したのだ。
「てめぇらかかってきやがれ!何処の誰かは知らねぇが、この勇次様に………えっ?」
気を取り直し外にでて、俺はその光景に絶句した。
小屋を出ると目の前には、大きな湖が広がっていたのだ。
ここ、何処なんだよ…。
とにかく気を落ち着けようとその場に座り、ポケットの中にあるタバコを探した。しかしポケットの中には、【財布・百円ライター二個・スマホ】しか入ってない。
思い出した…集会途中で無くなったから、帰りに買うつもりだったんだ!
気分を落ち着かせるどころか、更にイライラしてきた俺は、ここで一つ重大な事に気がつき思わず声に出していた。
「ん?スマホ…?なんだ、スマホがあるじゃねぇか!?これで誰かに連絡すればいいんだよ!」
そして俺は、意気揚々とスマホを握り画面を見て愕然とした…。
「け…圏外だと…。」
外に居て圏外と表示されている事が、俺は信じることができず画面を見続けた。
きっと場所が悪かっただけで、少し動けばきっと電波が届くは……はぁ?今気がついた……表示されている時刻が【04時02分】になっていた。
こんなに明るくて、その時間はあり得ない…。俺は苛立ちのあまり
「壊れちまってるじゃねぇか!クソ………あああああ…。」
手にしたスマホを、地面に叩き付けてしまった。さすがにこれは凹んだ…。そして、その時一つの答えが俺の脳裏に浮かんだのだ。
その答えとは…。
「やっとわかったぜ。これは夢だ…。夢に違いない!」
先程から、自分の理解できないことが立て続けに起きている今の事態は、夢なんだと考えれば妙に納得できたのだ。
一度そう思えば、気持ちが一気に楽になった。
となれば…夢が覚めるまでは何をしても問題ないよな。でも、何をすれば良いのかわからない。
これがもっと現実に近い夢なら色々浮かんだのかも知れないが、今俺の目の前には大きな湖しかない。
とりあえず俺は、湖に視線を移した。水がとんでもなく綺麗だ…。この湖を見ただけで、自分が日本にはいないことを実感させられる…。
ガラにもなく湖の美しさに心を奪われていた俺は、静かな畔をブラブラと歩いたのだ。
しかし、いつまでも歩いているわけにはいかない。何故なら…。腹が減ったからだ…。
喉は乾くし腹は減るって、どれだけリアルな夢なんだよ。
とりあえず喉の乾きは、湖がこれだけ綺麗なら飲んでも大丈夫だろう。さすがに、夢の中で腹を下すこともないだろうしな。
空腹の方は…どうすっかな。俺は、食べれそうな物がないか探すことにした。魚でも捕れれば、火で焼くこともできるし、とにかく食べ物を探そう。
だけど、そんな物が都合よく見つかる筈もなく、結局水を飲んで空腹をやり過ごすことにした。
「しっかし、つまんねぇ夢だなおい。」
思わず言葉にしてしまう程、湖周辺は静かだった。
するとその時、初めて人影らしきものを目にしたのだ。俺は妙に嬉しくなり、声をあげそこに向かって走り出した。
「お~い。ちょっと聞きたいんだけどよ。この辺に…。」
俺は人影に近づき、声を発したがそこで言葉を止めたのだ。別に俺の見間違いではなく、確かに男性三人がそこには居たのだが…様子がおかしい。
俺の声を聞き、全員がこちらを見たが目の焦点が定まっていない気がする。
それに三人とも頬は痩けてガリガリに痩せ細り、血走った目をしながら手には刃物を握り締めていたのだ。
俺は足を止めて、明らかにこちらを警戒する三人の姿を見て考えた。
あの目は完全に正気じゃないな…。でも、シンナーや薬じゃあそこまでならないし…まさかシャ……。
俺は、視界に入る三人を見て思考を巡らせる。
だが、当たり前だが考えてわかる筈もなく、それ以上進むことが出来なかったのだ。
下手に動くこともできず、俺は三人の様子を見ることにした。すると、目の前の三人はこちらを指差しながら、何やら言い争っているようだ。
そして、話が決まったのか一人がこちらに向かってきた。だが…どうやらお話をしましょうって感じではなさそうだな。
何故なら、手にはナイフをしっかりと握りしめている。そんな状態でするのは話し合いじゃなく、ただの脅迫だろう。
さて…どうするかな。
少しだけ考えたが、最初から答えは決まっている。俺は、ナイフを持ち近寄ってくる相手がすぐ目の前に来た瞬間
「オラァ!………えっ?」
俺は相手が何かをしてくる前に、拳を叩き込んで黙らせてやるつもりだった。それが……。
いや、恐らく黙ったとは思うけど、俺の拳を受けた相手が飛んだのだ…。
まるで、ゴムボールを殴り飛ばしたかのように、俺のすぐ前まで来ていた奴が元の位置まで戻った…。
これには、相手だけじゃなく俺も驚いた。思わず、何度も自分の拳を見てしまったほどだ。
これは…うん、さすが夢だな。だって、あり得る筈がない。人が30メートル近く吹き飛ぶなんて、漫画の世界だけだろう。殴った拳にも痛みを感じないしな。
俺は気持ちを切り替えて、吹き飛んだ相手の方を見た。すると、他の二人は逃げ出したようで、大の字で横たわる一人の姿しか見えなくなっている。
ピクリとも動かない相手を見て、一瞬近付こうかとも考えた。だけど、本音を言うなら夢の中でまでこれ以上喧嘩をする気になれなかった俺は、来た道を引き返すことにしたのだ。
相変わらず、湖は波一つ立っておらず最初に見たときと同じく穏やかだ。しかし、こう静かすぎると逆に飽きてきた。
正直早く夢から覚めてほしい。しかしそうは考えても、現実の俺を起こす手段なんて、そう簡単に……そうか…。
眠ればいいんだよ!
一つ思い付いた。それは、こっちの俺も眠れば次に起きた時、いつもの俺の部屋じゃないのかと…。
さっさとこうしておけばよかったな。
この夢にも飽きてきた俺は、すぐにその場で寝転がり目を閉じたのだ。