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Welcome to Corffse Cafe!

 10月の終わり頃のある日のこと。

 シャワーのように傘越しで雨を浴びながら瑞希は歩いていた。

 1時間ほど前まで賑やかだった道に並ぶ店はどこも電気が消えている。

 まだやってる店は居酒屋やコンビニくらいだ。


 既にぐしょぐしょに濡れた靴やズボンの裾に不快を感じ、瑞希は街灯で照らされた水たまりを避けながら足を進めた。

 その時だ、彼女の真横から街灯よりも淡く、そして小刻みに揺れる光が見えた。

 瑞希にとって街中に揺れる光など見慣れない光景なので思わず光の元の方へ目を向ける。

 するとそこには一軒の建物に備え付けられている凸凹状のドア窓から光が漏れていた。


 店なのか家なのかよく分からないほど中の様子が見えない建物だ。

 不規則に固められた石の数々を持つ壁と唯一木造りと思わしきドア、その両端には植木鉢の中で咲く小さく花々。

 他にも植物が建物のあちこちを侵食していて、排気口以外で鉄や機械、コンクリートなど現代さを感じさせるような物が一つも見えないことに彼女は不思議と思ったのだ。

 まるでそこだけ時代が違うかのようだ。

 瑞希は次にドアの横にかけられている看板を見た。


『Corffse Cafe』


「喫茶店、なのかな」


 読みにくい名前は置いといて店であることは間違いがなさそうだ、と入ろうか入らないか迷っていた時だ。


「そこ、通してくれるかニャ」

「えっ。あっはい、すみません」


 突然後ろから声が聞こえ瑞希は反射的にその場からサッとどいた。

 すると黒猫が彼女の空けた道を通る。

 暗くて目立たなかったがドアの下の方は小動物が通れるような仕組みになっていたらしく黒猫はそこからするりと中に入っていった。

 その様子を眺めていた彼女は数秒間何が起こったのか分からず固まった。


「今の声は一体……」


 瑞希は黒猫を追いかけるように『Welcome』と書かれたプレートを横目にドアノブを掴む。


ガチャリ。


 ギギギと音を鳴らしながらドアはゆっくりと開く。

 中は壁にかけられるランプとシャンデリアの橙黄色の光に灯されていて、木造りのテーブルや椅子があちこちに、そして壁側には絵画や花瓶が見える。

 中世時代の西洋にありそうな喫茶店だ。

店内の奥にはカウンターテーブルの上に存在する黒い物体と、テーブルの奥、物体の左側から肘をついてそれに目を向けている金髪の女性がいた。


 透き通った海のような青い目を持ち横顔だが整った顔立ちをしていて、中世ヨーロッパの庶民が着ていそうな、木の色をしたドレスを着ている。

 一目見れば日本人ではないと誰もが思うだろう。

 

 その他に人と思わしき者は全く見えず、店内に流れるジャズのBGMがよく聞こえる。

 少し足を進めると女性が何かしゃべっていることに瑞希は気がつく。

 音楽と話し声でドアを開ける音が聞こえなかったのかな、彼女はそう考えながらスッと鼻で息を吸った。


「あのう、すみませーん」


 すると黒い物体はピクリと動いた。

 さっきまで丸い形だったものから目と耳が見える。


「あ、さっきの黒猫」


 見つけた、とカウンターへ向かう。

 女性の方もこちらに気がついたのか顔をこちらに向けた。


「いらっしゃい」

「えっ」


 瑞希は背筋が凍った。

 女性の顔右半分が黒い肌、ぎょろぎょろとした目、鋭い牙を持つ大きな口。

 まるで化け物のようだったのだ。


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