僕は子供です。5
次に目が覚めたとき、目の前には見慣れた天井があった。周りの明るさから、今が朝だということがわかる。
(そうか、僕は助かったのか。)
そこでハッと気づく、ランとガイは無事なのか。
僕はベッドから跳ね起きた。
「気がついたか、レーン」
隣から声が聞こえた。
「パパ」
そこには、僕の父親であるカインが椅子に座っていた。
「一昨日の夕方頃、お前は俺の同僚に背負われて運び込まれた。森を巡回中だったやつが偶々お前のお友達に会って、助けてくれた。」
たぶんお友達というのはマインとスンだろう。カインの同僚の人には感謝しないと。あと、僕は丸一日以上寝ていたことになるのか。いや、そんなことより聞かなきゃいけないことがある。
「そんなことよりパパ、ランとガイは?無事なの?」
「ああ、二人とも無事だ。ランの傷も驚くほどきれいに塞がっていたとさ。」
よかった。二人とも無事で。
そう思い、僕はほっと安堵のため息をついた。
「レーン、なんで森なんかに入った?しかも、あんなに深いところまで。」
僕はありのままにすべてを話した。魔物に興味があったこと、弱い魔物なら撃退できる自信があったこと。
「なるほどな。なあ、レーン。お前は賢い子だ。それに、相手のことを慮る(おもんばか)こともできる子だ。」
突然カインは何を言い始めたのだろう?疑問に思いながらも黙って聞いた。
「母さんな、お前が運び込まれたとき、あまりに驚いて倒れちまった。その後、目を覚ましたけど、飯も食えない状態だった。」
そこで僕はようやく気づいた。僕はガイやランの心配ばかりで、自分が傷つくことを気にしなかった。僕は自分自身が傷つくことによって傷つく人のことを全く考えていなかった。
「なあ、レーン。お前は俺たち両親の気持ちを考えたことあるか?お前はさっき“そんなことより”って言ったけどな、俺たちにとってお前が無事だったこと以上に重要なことなんてないんだぞ。」
そう言ったカインは涙を流した。そして、カインの目には大きなくまができていた。
「ごめん、なさい。」
僕は転生者ということもあって、今までどこかカインとマーレのことを実の親とは思えていなかった。
それでも、二人の子供としてうまく振る舞えていると思っていた。
しかし、僕は、両親を悲しませるようなことはしてはいけない。そんな単純で重要なことを忘れていた。
(僕は全然駄目だな。)
それに、今のカインの顔を見て、僕は確信した。
こんなことになるより前に、ちゃんと二人と話していれば、気づけていたはずだ。
やっぱり僕はこの人たちの子供だということを。
僕は泣いていた。情けないやら、申し訳ないやら。いろいろな感情がごちゃ混ぜで、涙が止まらなかった。
すると、カインに抱きしめられた。その腕が温かくて、また涙が止まらなくなった。
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ひとしきり泣いて、落ち着いたところで、カインから話しかけてきた。
「なあ、レーン。お前魔法が使えること、なんで黙ってた?」
そう言ったカインの声音は先ほどまでのものとは違い冷静なものだった。
僕はその突然の変化に戸惑いつつも答えた。
「それは、本に普通魔法が使えるのは8歳くらいからって書かれていたから、パパやママに心配をかけたくなくて、、、。」
カインはまっすぐと僕の目を見ながら、僕の言葉を聞いた。その後目を閉じ、何かを考えているようだった。
しばらくしてから、カインの口が開いた。
「そうか、ならいいんだ。母さんのところへ行こう。お前が目を覚ましたことを教えてやらないとな。」
カインの表情や声音は優しいものに戻っていた。
僕は不思議に思いながらも素直に「うん」と答えた。
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