#3 不安が募る生徒や教師達
職員室にいた春原や秋山達と教室にいた紫苑と崇史の予想がどうやら的中したようだ。
彼女らが気配を察していたであろう黒ずくめの人物はどのようにしてこの学校に進入してきたのかは不明。
その人物は放送室に身を潜め、口元に笑みを浮かべつつ、慣れたような手つきで放送室の機材を操作している。
「みなさん、こんにちは……というかはじめまして。私の名前は怪盗ベルモンドです。以後、お見知りおきを! ついにここでの愉しいお遊びの始まりですよ! It's show time!」
突然流れた男性のアナウンスは警戒心の欠片は一つもない校舎に響き渡った。
彼は怪盗ベルモンドと名乗り、キザな印象を与えるような声をしているが、実際の容姿はいかほどだろうか。
ベルモンドは機材の電源を落とし、ふっと鼻で笑いこう呟いた。
「これからの対戦相手は誰だろう? 実に楽しみだ……」
彼は放送室から屋上に移動し、華麗に宙を舞いながら校舎から出て行く。
しかし、その姿を見た生徒や職員は誰もいない――。
*
ベルモンドの挑発的な言葉を耳にした生徒達や教師達は校舎内の至るところでざわめきを起こしていた。
「い、今のって!?」
「突然すぎて、どういうことなのか理解できないんだけど……」
「もしかして、本当なのか!?」
「例の噂のこと? 本人が話しているから、本当のことじゃん」
「マ、マジで怪盗ベルモンドがいるんだな」
「さっき放送されていたから当たり前でしょ?」
「そうだけどさ……」
彼らは不安げな表情をしており、どこか警戒しているように感じられている。
しかし、そのような状況になっているにも関わらずに、紫苑は冷静さを装っていた。
「ねぇ、崇史?」
「ん?」
彼女は彼に覚悟を持った口調でにこう呟く。
「今から放送室に行って、校庭とかに出るように呼びかけた方がいいかな?」
「うん、いい考えだ! 校舎内は危ないから放送室まで一緒に行くか?」
紫苑の呟きに崇史が反応したが、彼女は首を縦に振らなかった。
「ごめんね。一人で行ってくる」
「そうか、気をつけて」
「うん!」
紫苑の右手には出どころが不明なバトンを手にしている。
見送る崇史に手を振り、彼女は教室から出て行った。
その頃、職員室でも彼女らと同じような話をしていたのは言うまでもない。
*
この学校の放送室は職員室を経由しているため、生徒は強制的にそこに入らざるを得ないが、ベルモンドはどのようにして侵入できたのかは分からないことである。
職員室にバトンを持っている一人の女子生徒が入ってきた。
「あれ? 夏川だ」
「どうしたんだろう?」
「夏川が放送室? もしかしたら!」
彼女が姿を現した時、教師達はざわめき始める。
そのような中で、春原は紫苑に声をかけた。
「夏川。もしかして、放送で避難を呼びかけようと思ってる?」
「はい。先生も同じ考えだったんですね……」
彼女らはこの場で同じ考えをしていたということが判明する。
「危険だから、大人しく教室に戻って!」
「いや。私は例の噂に対して覚悟してきたので大丈夫です!」
「なんて無茶な……」
「ここにきてしまったからには、後戻りするつもりはありませんので!」
春原は注意をするが、紫苑はそれに従おうとしない。
彼女は放送室の扉を開こうとしている。
「じ、じゃあ、じゃんけんで負けた方が放送するということでいい?」
「いいですよ」
「「最初はグー。じゃんけんポイ!」」
彼女らはじゃんけんを数回繰り返している間、他の教師達は二人を見守っていた。
「よし、決着がついた! 私の勝ち!」
「ううっ……負けました……」
しばらくの間はあいこが続き、春原はチョキを出し、紫苑はパーを出してようやく決着がついた。
「……では、放送しに行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
彼女は放送室の扉を開けると、見慣れた機材を操作し始める。
ピーンポーンパーンポーン♪ と放送開始を告げる定番のメロディーが校内に響き渡った。
「校内にいる生徒、教職員に連絡します。たった今、校内に怪盗ベルモンドがきました。みなさん、大至急、校庭に避難してください。もう一度繰り返します。たった今……」
紫苑が即興で考えたアナウンスが何回か繰り返し放送されている。
それを聞いた生徒達や教師達は貴重品を持ち、速やかに避難を開始するのであった。
2018/12/01 本投稿