#25 時が止まる不思議な教室
気温が徐々に高くなってくる六月のある日のこと――
とある高校の一階の奥の方の教室から歌が聞こえてきた。
その歌が聞こえてくる教室は「3年5組」と入口のところに表札らしきものがついている。
歌っている曲は『3月9日』という曲だ。
この曲はあるドラマの挿入歌で有名になった曲であり、時が経った現在も合唱コンクールや卒業式などで歌われている。
この高校では合唱コンクールが今月下旬に控えており、この日の六限目であるロングホームルームに時間をその練習時間として活用しているクラスが多く、様々な合唱曲が校内に響き渡っていた。
*
さて、3年5組の教室を覗いてみるとしよう。
この学校の夏服は白の開襟シャツに男子生徒は黒のスラックスに白い靴下、女子生徒は黒のプリーツスカートに黒の靴下に上履きを履いている。
教室にいる生徒の人数は約三十名くらい。
男女比は男子生徒が二名いるのに対し、他は女子生徒で構成されているとてもアンバランスなクラス編成だ。
学級担任としてなのか男性と女性が一人ずついる。
指揮をしている生徒は女子生徒。
ただし、伴奏をしている生徒は女子生徒か男子生徒かは分からない。
本日、その生徒は欠席しているらしく、伴奏だけ録音されているカセットテープがラジカセと通じて流れているだけ――
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曲が終わり、指揮をしていた女子生徒がラジカセを止め、巻き戻し機能でカセットテープを巻き戻す。
教室の後ろの方には普段は生徒達が使っている机と椅子がすべて寄せられていたため、およその位置は中央より少し後ろにいる教師達に「先生、どうでしたか?」と問いかけた。
「みんな、上手になってたよ! これで本番を迎えてもいいくらい! ねぇ、秋山先生?」
「うーん……そうでしょうか?」
白衣を着た女性が生徒達を褒める。
彼女らは立ち位置からバラバラに散り、嬉しそうに喜んでいる中、秋山と呼ばれた男性は腕を組んで首を傾げていた。
「指揮をしている夏川だけが上手くなったような気がしますが……全体的に声の大きさが課題なのではないかと……」
「えー!? そうかな?」
彼は生徒達に指摘している横で彼女は少し不満そうな口調で言い返す。
彼女らの中には「キーボードとかラジカセだとその音量に合わせてしまう」と気づく者が数人いた。
よって、秋山の指摘は正論に近いと言える。
彼は白衣を着た女性に「俺はそう思ったんです!」と答えた。
「さあ、みんな。春原先生が言ったことは一回忘れて、立ち位置に戻ってもう一度!」
秋山にこう言われた生徒達は「はーい」と返事をし、わらわらと各々の立ち位置に戻った。
「秋山先生、今のはちょっと余計なんだけど……」
春原と呼ばれた女性は彼が言ったことに対してぼやきを入れる。
秋山は「そうですか?」と問うと、こくんと頷く彼女。
夏川と呼ばれた女子生徒のフルネームは夏川 紫苑。
彼女は指揮棒を持ち、ラジカセの再生ボタンを押そうとした時だった。
*
彼女らは違和感を覚えた。
いつも見慣れた教室なのに、おかしな時空間にいるような感じがしたため、周囲をよく見回す。
「時間が……」
紫苑は教室の黒板の上にかけられている壁時計を見ながら呟いた。
時計の秒針は全く動いておらず、時間が止まっている状態――
「「時間が?」」
春原と秋山は少し遅れて反応する。
彼女と同じく、壁時計を見てようやくそのことに気がついた。
「「時間が止まっている!」」
時が止まった空間の中心で三人は同時に叫ぶ。
この空間で動いているのは彼女らだけ。
時間はもちろん、人の動きも完全に止まっているのだ。
「今月もお会いできて光栄です」
三人はその声の主を視線を追う。
教室の扉に寄りかかっている男性の姿が彼女らの視界に入った。
2025/12/22 本投稿




