#1 穏やかなランチタイム
それは四月のある日のことである。
午前中の授業終了を告げるチャイムが校舎全体に鳴り響く。
それと同時に人気のパンを求めるべく購買へ向かう者や親しい友人がいる教室へ行く者、中庭や音楽室などの教室以外で過ごす者と昼休みの過ごし方は様々だ。
「3年5組」と書かれた表札に一人の男子生徒がやってくる。
3年5組に属している女子生徒が彼を誘導し、机を二つ並べて向かい合うように準備していた。
おそらく彼女らは一組のカップルなのかもしれないと推測される。
「崇史、お弁当作ってきたよ」
「紫苑、ありがとう」
紫苑と呼ばれた女子生徒は崇史と呼ばれた男子生徒にチェック柄のポーチに入った弁当を手渡した。
「じゃあ、食べよう?」
「ああ」
「「いただきます!」」
彼らはポーチから弁当を取り出し、談笑を交えながら食べ始める。
「はい。崇史、口を開けて!」
紫苑は崇史に箸で摘まれたタコウインナーを口に運ぼうとしていた。
しかし、彼は「えっ!?」と思わず心の声を漏らし、こう続ける。
「ち、ちょっと! みんなに見られてるから恥ずかしいよ」
今の崇史にとっては、これから彼女がやろうとしていることはあまりにも突然のことで顔を真っ赤にするくらい恥ずかしいことなのだ。
紫苑は一旦、タコウインナーを弁当箱の蓋の上に置く。
「ふふっ、この照れ屋さん! みんなに見られてないと思うから大丈夫だよ。はい、あーん」
「あーん。ん、このタコウインナーは美味い!」
「本当? 嬉しい!」
彼は仕方なく、口を開いた。
再度彼女の箸に摘まれたタコウインナーを口に入れられ、ゆっくり咀嚼する。
それは相当美味しかったらしい。
「よかったぁ……また明日も作ってくるね」
「いつも感謝してるよ」
彼らは昼食を食べ終えたあと、ゆっくり談笑を始めた。
*
同じ頃、職員室ではたくさんの教師達が昼食を食べたり、午後の授業の準備をしたりしていた。
その時、二人の女性が話し合いをしながら、昼食を食べている。
片方は黒髪の白衣を着た理科の先生だと思われる女性。
もう片方はダークブラウンのロングヘアーでパーマをかけた少し背の高めの女性だ。
「ところで、たま(注・おそらく旧姓)のクラスは今日のロングホームルームは何やるの?」
「うーん……今日は何をやろうかなぁ? 三年生だから進路のことにしようかな。福山先生のクラスは?」
「実は私も何をやるか悩んでるんだ……たま、秋山先生がきたよ?」
「本当だ」
彼女らの前に一人の男性が姿を現す。
「あっ、春原先生に福山先生はここにいたんですね。先ほどはなんの話をしていたんですか?」
「六限目のロングホームルームのことですね。今日は「進路について」話そうかなと」
「なるほど……その内容でいいんじゃないですか? もう彼女らも三年生なので、早く感じるなぁ……」
「本当に早いですよね」
「そうですね」
彼らは自分の生徒達が入学してきた頃を思い出すかのように、しみじみと話していた。
よって、春原と秋山が受け持つクラスを含め、三年生の全クラスのロングホームルームは進路についての話に決定した。
2017/11/10 本投稿