其は誰ぞ
「…やれ、是はどうした事か」
じゃらりじゃらりと首ノ輪が繋がっている鎖を弄びながら、月橋迄歩みを進めると、其処には見慣れぬ姿が在った。
行き倒れのように橋の上で倒れ込む其は、一見すると人の子にも見えるがよく見てみると如何にも違うらしい。異形の者に近いと言えば近いが、遠いと言えば遠い。人の子が作りし者。そう言った方が分かり易いか。
「あ、兄さん」
「ヒトツギよ、是は何ぞ」
「さァねえ。人の子なんざ見るの初めてだからオイラ知らねェや」
月橋で倒れ込む其を介抱する子に近寄れば、其は我の見知った顔であった。
一つ目 目一つ目科一つ目属に属するヒトツギ――我と違い名前がある。由緒正しき異形の者。
我を『兄さん』と呼ぶのには年齢の差ゆえだが、それ以前に我に名が無いからであろうな。
ヒトツギは一度だけ我を見、そして其を無理矢理起こして見せた。
「只、是が人の子と呼ぶのには相応しくないって事ぐらいはオイラでも解る」
「…」
「絡繰姫さんみたいだ」
絡繰姫――異形の者と人の子が棲むこの世界で異形の者の王として君臨する姫君。我の友人であり、幼馴染なのだが…如何せん性格が悪くてな。今も独身だ。
「…絡繰姫な」
「だが…決定的にお姫ィさんとも、オイラ達とも違う。是にはお姫ィさんと違って体温があるんだ」
「…」
「それに…心臓がある」
「心臓?」
「オイラ達には無い、存在し得ない人の子だけのモノ。心ノ臓だよ。…どう見ても是、人の子じゃないと思うんだけどなァ」
ヒトツギはこう見えて異形の者専門の医者だからな、我よりも詳しい筈なのだが…そのヒトツギが悩むとなれば是は異形の者ではないのであろう。
しかし異形の者ではないにしても、人の子にしては珍しい身なりだと思う。
陶器のように滑らかな肌と比喩する小説は、人の子の世界にも異形の者の世界にも多々あるが其は比喩でしかない。現実など有り得ぬが、目の前の是は当に陶器のような肌をしている。
触ってみた感触は陶器そのもの、コンコンと言う音も響くのだから中身がないのではと思う。




