☆13☆ キライキライのお姫様
書き直ししましたー><
やっぱり、時間がなくて、ちょっと不安。
重たいドアをあけると、正午の日差しとはいえ、まだ2月の冷たさを含んだ空気が、髪を揺らした。
強い冷気に、あたしは目を細める。
ただ、外の空気に触れたかった。
「頭、冷やさなきゃ……どうかしてる」
ポタン。
ポタンッ。
「つめたっ」
見上げると、校舎から滴る雪解けの水が、額に落ちる。
昼休みも残りわずかだからなのか、中庭のアラシを含めた、男子生徒の姿はなかった。
さすがのアラシも、校舎に入ったんだ。
今なら、もしかしたら、恥ずかしさもなく、アラシの言葉を受けいれたのにな。
あたしは、弱気な自分に笑う。
「なんか、嫌な気分……」
吐く息が、少しだけ白く煙る。
あー、イヤだ。
何がイヤなのかも、わかんないってのが、すごくイヤ!
どんどん、小さくなってるような自分がいやになる。
何もしていないのに、この居心地の悪さは何?
そもそも、あたしが、弱気になる理由なんてない、よね?
あたしは、もう一度、空を見上げる。
嫌な気分になるのは、何でかな。
こんなに、胸が痛むのはなんでかな。
「教室、帰れるのかな……あたし」
なんだか、不安にもなってきて、あたしは、ガックリと肩を落とした。
どーして、あたしがこんな目に……。
そう思うと、怒りがふつふつと湧き起こる。
そもそも、アラシのせいで、みんなに変な誤解はされちゃうし。
麻衣のせいで、あたしだけが親友だって思ってた! みたいに、可哀想な子になっちゃったし。
それに、ユキ。
麻衣があたしの友達だって知ってるのに、つきあってるって、一言も言わないってどーいうこと?
「ちょっと、ヒドくない?」
独り言プラス、八つ当たりで、あたしは校舎を蹴る。
「いったっ! 最悪」
足の指先から、痺れに似た痛みが、伝わってくる。
みんなして、ヒドいじゃん。
足の痛みは小さなものなのに、目が潤んだ。
悔しい。
なんで。
なんでなのよ……。
みんなキライだよ。
アラシのバーカ……。
あんたなんて、絶対に、好きになんてなんないんだから。
あたしの事が好きだって言うなら、もっとさ、こう、守るようにしろっての!
麻衣も麻衣だよ!
親友じゃんっとか言って、コソコソとしちゃってさ。
ユキが好きなら、好きって言えばよかったじゃん。
なーにが、チョコが一番大好き! だよ。
もう、口きかないんだから。
「誰だって、怒るよ」
ふんっ! と大きく息を鼻から出す。
誰だって、嫌な気分になるよ。
なんといっても、あの二重人格、凶悪王子でしょ!
最悪って何万回言っても足りないね!
お隣だからって何よ。
ユキはね! 結局、あたしが悪いって言ってるけど――――。
あ……。
あたしは、ハッとして、何か思い出しかけ、身体を硬直させた。
「あの時……、あたし……」
―――ポタッ。
一滴の水が落ちると、あたしは白昼夢でもみているように、記憶を呼び起こした。
「嫌いって言ったら嫌い! もう遊ばない! もう絶交だよ!」
そう言ったのはあたし。
最初に「絶交」を持ち出したのは、確かに、あたしだった。
「チョコちゃん! 待って!」
後ろで、ユキがあたしを止めた。
だけど、あたしは止まらなかったし、振り返らなかった。
あの時は、何も聞きたくなくて、その場から逃げ出した。
――――ユキの言った言葉が、すごく怖かったから。
あれ?
ユキの言葉ってなんだっけ?
あれ?
スッポリ抜けてる……。
肝心なところが抜けてるなんて。
あたしは、苦笑する。
だって、問題はそれからなんだ。
いくら、あたしが「絶交」を持ち出したからって、そのまま、会わなくなるなんて、あたしだけのせいってのは、おかしいな〜とは思ってたんだよね。
だから、今。
すごく、スッキリしたよ。
あれは、ユキが、会いにこなかったからだって思い出せたから。
その部分は、ハッキリと思い出せた。
あたしは、何度か、ユキの家に行った、呼んでも、ユキは部屋からでてこなかった。
だから、あたしは、ずっと待ってた。
「どうして……忘れてたんだろう。あたし、悪くないじゃん」
それから、あたしは、ユキを見かけることもなくて、避けられてることが悲しくて。
気がついたら、あたしの隣は、ユキじゃなくて、麻衣がいつもいるようになってた。
「うわ〜……情けない。子供の頃の記憶って、残酷」
あたしは、声をだして笑った。
あたしが、ユキを遠ざけたんじゃなくて、ユキがあたしを避けてたんだ。
可笑しい。
ずっと、待ってたなんて、悲惨。
今まで、ずっと忘れてしまっていた思い出だっていうのに。
今更、こんなときに、追い討ちをかけなくてもいいと思うんだけど。
「やっと思い出せたのに、もう、忘れてもいいなんて……ね」
やっぱ、キライ。
ユキも、麻衣も、アラシも……。
あたし自身も。
ピロピロピロリン♪
ポケットの中で、突然、携帯がなる。
そっと、携帯を取り出すと、待ちうけには「鬼教官」とでている。
「ユキ……」
あたしは、躊躇いながら、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『おい、今、どこにいる?』
ユキの声は、慌てているように聞こえた。
「なんで?」
『いいから、答えろよ』
「やだ」
『は?』
「だから、ヤダって言ったの。会いたくない」
ユキが無言になる。
「今は誰とも会いたくないから」
会いたくない。
会いたくない。
会いたい。
会いたくない。
ユキには、会いたくない。
あたしが、ずっと、待ってたなんて、そんなの……忘れてしまっていたほうが良かった。
「ユキ? 聞いてる? もう、切るよ?」
無言のまま、ユキは通話状態を保っていた。
『どこにいるんだよ』
低い声が、小さく聞こえる。
こういう時、幼馴染っていうのは、厄介だ。
声色ひとつで、どんな状態かわかってしまう。
何か、すごく、思いつめている?
麻衣のこと、言い出そうとしてるの?
あたしは、携帯を耳にあてたまま、冷えた身体をさすった。
「……何か用なの?」
『……』
あたしの問いに、ユキは答えなかった。
「なんか……こーいうの、懐かしいね。昔もさ、こんな無言電話、ずっと聞いてたような気がする」
『……』
「昼間のうちに計画してさ、こっそり電話してたよね。たいてい、途中で二人で寝ちゃったけど」
『……次の日は、怒られたな』
「うん。なつかしい」
『チョコちゃん……』
「ねえ、ユキ」
確認したら、もっと嫌な気分になるかもしれない。
だけど、聞かないでいたら、もっと嫌な気分かもしれない。
それに、今のユキなら、もしかしたら。
本当の事がきけるような気がした。
あたしは、そっと深呼吸する。
「どうして、あの時……会いにきてくれなかったの?」
突然で、意味が通じないかもしれない。
通じたとしても、今更な話だって、またバカにされる。
そう思った。
『憶えてるのか?』
ユキは優しい声で、聞き返す。
「え?」
『忘れてると思ってた。あー、今更だって、笑うなよな』
「笑ったのはそっちじゃない」
『そうだっけ?』
ユキは、笑いまじりに話し出す。
『あの時、オレ……何度も行った。だけど、嫌われてたからな、押しかけるのは迷惑なんじゃないかって思ったんだよ。だから、何度も行ったけど、その度に、帰ってきたんだ』
「来てた……の?」
『今更、昔の話だなんて、少しも思ってないからな。オレは、忘れてないから……まあ、嫌われてたら意味ないけど』
嫌ってなんかいない。
そんなこと……思ってないよ。
あたしの方が、嫌われてると思ってたから。
こういうの……すごく……変だけど。
『ずっと、許してもらえるチャンスをうかがってたんだ。だから……家庭教師はチャンスだって思ってた』
「バカにしてたじゃん。あたしが、昔の話すると、バカにして」
『すっかり、何もかも忘れてるみたいだったし。しかも、突然、何もかも忘れて、幼馴染に戻ろうなんて、何もなかったことにしようとして。面白くなかったんだよ』
ユキの拗ねたような声に、あたしは笑った。
「そっか。なーんだ嫌われてたわけじゃないんだ〜」
『なーんだって。それより、どこにいるんだよ』
「教えない。麻衣とのこと、黙ってたから、また絶交だよ!」
『なっ!』
「はい、じゃあ、バイバーイ」
あたしは、携帯の電源を落とす。
忘れてないから。
ユキの言葉が胸に残る。
どうしてかな?
胸がドキドキしてる。
あたし、嬉しいんだ。
何年ぶりだろう。
こんな懐かしい感じ。
いつも、あたしの隣には、ふわふわのお姫様がいた。
お姫様は王子様になっちゃった。
でも何も変わらない。
それが、嬉しい。
「ユキも、麻衣も、アラシも。みーんな、絶交!」
あたしは、携帯を握り締めながら、校舎の壁に背中をつけて、笑った。
****************************
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
◆†あとがきという名の懺悔†◆
たびたび、こんばんわーです! 本日もご来場ありがとうございます。
書き直してます。
なんだか、足りないとクレームがきたので、ちょっと話を急いで書き直しました。
確かに、自分でも、何かおかしいとは思っていたので、これでよかったんだと思います。
書き直す前を読まれた方にはご迷惑をおかけいたします。
こちらが、本当の13話になります。
さて次回♪ ☆14☆ 魔法がとける時間
やっぱり、電話じゃダメでしょう。
王子とのからみ、チョコちゃんの気持ちの変化。
少しずつ、あせらないで! と忠告されたので
ゆっくり書きます。
あせって、おかしなお話になるのも悲しいので。
でわ! 次回でまたお会いしましょう♪