☆11☆ お姫様の憂鬱
おはようございます!
PCの方には目次に絵が貼り付いています。
見たくない!と言われても強制的に見えちゃいます。
イメージが違うと言われると違います。
いわゆる準備段階の時のイメージ絵なので本編とはずれていたりします。
昨日、私の専属イラストレーター(妹)に発注したので
ちゃんとしたヤツは近日公開予定です。
はぁ〜……。
あたしは2階にある教室の窓から中庭をなにげなく見下ろしながらため息をつく。
昼休みを迎えて、教室は明るく賑わっているのに、あたしの気持ちはどんどん暗く重くなっていくような感じがしていた。
「元気ないねー、チョコらしくないじゃん」
「あ、麻衣か……」
あたしの肩に手をかけて、顔をのぞきこんでくる美少女をチラリと見ると、また外へ目をむける。
「何? ついこの前まで、猛勉強してたかと思ったら、今度は一人でぼーっとしちゃって。何かあった?」
麻衣は心配そうにあたしの隣に立つと、一緒に窓の外に目を向けた。
「何かって程でもないけど……ちょっとね」
そう、ちょっとだけ。
少しだけ気分が重いっていうか、モヤモヤしてる。
たぶん、昨日のユキの言葉が原因だとは思うんだけど。
『チョコちゃんは、いつだって忘れるんだ』
忘れる。
あたしが、何を忘れてるって?
まるで、あたしが悪いみたいな、あの目はなんだってのよ。
あんなユキ……久しぶりに見た。
今でも、あんな怒り方するんだ。
それにしても、あたしもあたしだよ。
なんでこんなに気になるの?
ちょっと異常だよ。
あたしはもう一度、ふうっとため息をつく。
「ちょっとって顔してないんだけど。そんなに言いにくい事? あ、わかった! さっきの小テストの点が悪かったとか?」
麻衣はひらめいたとばかりに大きな声を出す。
4時間目に行われた英語の小テストは、すでに忘れてしまいたい過去だった。
それなのに、見事に思い出させてくれた麻衣は余裕の笑顔を向ける。
あたしは、その笑顔を見た瞬間、頭をぐったりと垂らす。
「あ〜……あれね。普通に悪かったよ」
英語は盲点だったな〜……。
苦手な数学ばかりに気をとられてたからな〜。
あたしは、いかにも苦しんでますと、唸ってみせた。
「あー、やっぱりテストか。そっか、普通に悪かったか。あれだけ勉強しても身にならないってキツイね」
元気のないのは『小テストの出来の悪さ』だと思ってしまったのか、同情するように、麻衣は、あたしにぴったりとくっつく。
「麻衣が羨ましいよ……はぁ〜……。もうすぐ受験なのに、家庭教師は鬼みたいだし、小テストの結果なんてとても見せられない……」
「へー、家庭教師? チョコのお母さん、ついに秘密兵器を雇ったんだ」
「ま、まあ……ね」
あたしは、こたえながら、ぎこちなく笑う。
窓から差し込む陽は暖かくて、春が近いのを感じさせる。
中庭には、寒さを恐れない男子が走り回って、廊下から先生が注意するのが見えた。
「あらら〜。アラシじゃん」
麻衣が突然言った、その名前に、身体がピクリと反応する。
「うわ、ばっかだね〜。先生に怒られてるし」
麻衣はクスクスと笑いながら、閉まっていた教室の窓を開ける。
暖かい日差しからは想像もできない冷たい空気が、全身にまとわりつく。
「うっ、さむっ」
あたしは思わず、肩を縮める。
「アラシー! バカやってんじゃないよー!」
麻衣は、窓から大きく手を振る。
下にいる男子の一人が、窓の下へ近づくと、両手を大きく振り上げる。
「ほっとけー! お前らこそ、そんな隅でイチャイチャしてんな! キモい!」
「うるさい! 大きなお世話!」
「おーい! チョコいるんだろ!」
窓から身を乗り出している麻衣の姿はよく見えても、すこし奥にいるあたしは、どうやら下にいるアラシには見えないみたいだった。
「アラシなんかと話したくないってさ!」
「うるせー!」
「報われないね〜!」
口の悪いアラシに、麻衣はそう言って、まるで悪い魔女みたいにワザとらしく笑った。
「ったく! それこそ、余計なお世話だ!」
窓から下を見下ろして、麻衣はクスクスと楽しそうだ。
そして、ゆっくりと、あたしの方を向くと、きれいな唇をすぼめる。
「ご愁傷様だよね。アラシなんて相手にしてないのにね」
「麻衣、いい加減にしないと、本性丸出しだよ」
「いいって、いいって。どうせ、アラシだもん」
言葉の最後で、麻衣は意地悪く微笑む。
どうしよう。
麻衣にアラシとの事、言ったほうがいいのかな。
でも、何て言えばいいの?
あたし、アラシに告白されちゃった! とか?
結局、ユキに邪魔されてお流れになったのに?
ユキの事も説明しなきゃだし……。
面倒だ。
あたしは、外にいるアラシをからかう麻衣の背中を見つめながら、ため息をついた。
その時、アラシがあたしを呼んだ。
「チョコーっ!」
中庭から、校舎に響きわたる、あたしの名前。
「チョコーっ!」
何度も、何度も、あたしを呼ぶ、アラシの声。
「滝沢 千代子ーっ!」
うっそー!
フルネームで呼ぶか!? 普通!
「ちょっ! バカじゃないのっ!」
無視できなくなったあたしは、麻衣の脇から窓の外へ顔を出す。
見下ろせば、すぐ真下にアラシの無邪気な笑顔があった。
背の高いアラシを見下ろす、不思議な感覚に、あたしは戸惑いながら、叫ぶ。
「あんたね! 恥ずかしいことしないでよ!」
顔を赤くして、興奮するあたしに、アラシは微笑むと、息を吸い込んでいるように見えた。
そして、次の瞬間―――。
「今日、一緒に帰ろうな!」
下から聞こえる、アラシの大きな声に、あたしは目を見開く。
アラシの周りにいた男子も、二階の教室に入りこんだ声を聞きつけたクラスメイトたちも、一斉にあたしとアラシを見ていた。
「え、ええ? なに? いつの間に?」
麻衣の上ずった声が、大勢の視線を代表してきいてくる。
「まさか、その事で悩んでたの? あ! ここでアラシを見てた? 嘘でしょ……」
麻衣は、心底、驚いた顔をして、唇を噛んだ。
その表情に、小さな違和感を感じてはいたけど、今のあたしはそれどころではなかった。
「ちょっ、麻衣っ! 違う! 違うってば! もー! 黙れ! アラシ! 勘違いされるでしょー!」
最後はアラシに向かって、大声を出した。
「気にすんなー!」
アラシは楽しそうに笑いだすと、ふざけて走り出す。
「なっ! 何なのよ! アイツー! 信じられない!」
あたしがアラシの姿を目で追いながら口を尖らすと、隣の麻衣が、小さな声でボソボソと言う。
「まさか……違うと思ってたのに……」
「ん? 麻衣? 何か言った? アラシの事なら、本当に違うんだからね」
あたしの言葉も届かないのか、麻衣は何か考えこんでいた。
「麻衣?」
「え、え? あ、ごめん……何?」
ハッとして、麻衣はあたしの顔を見つめる。
「どうしたの? 変な顔してる……」
「ひっどい。変な顔はないでしょ。ちょっとびっくりしただけ、何でもない……」
今度は、麻衣の方がなんでもないって顔じゃない。
「だから、誤解なんだって。アラシの事なんて――」
「チョコ、ごめん。用事、思い出したからさ、また後で、ね?」
「え? う、うん……いいけど」
麻衣は何かを思いついたように、あたしに背をむけると「ごめん」と言い残して、教室を出て行った。
あたしは、その姿に小さく首を傾げる。
開いた窓から陽の光と一緒に、冷たい風が入ると、あたしは身震いをした。
「さむっ」
あたしは窓を閉めるように、手を伸ばす。
何気なく見えた中庭をはさんで向かい側の校舎、薄暗い廊下に目がとまる。
誰かがこちらを見ている。
気のせいなんかじゃない。
確かに、ここの教室を見てる。
「……ユキ?」
ゆっくりと、窓を閉めながら、視線は人影からはずさない。
――――やっぱり、ユキだ。
そう確信した瞬間、胸がチクリと痛んだ。
全部、見られた。
いままでの会話を聞かれた。
何故か、あたしの心は焦っていた。
血の気が引いていくあたしと向かい合う人影。
あちらの校舎の窓から、教室の方を向いて、動かない。
ただ、前髪を掻きむしるように、掴んでいるように見えた。
ううん。
これは確信。
あの人影はユキで、きっと、また責めるような目で見ていて。
今は、あたしがユキに気がついた事もわかってる。
だから、前髪を引っ張るんでしょ?
だって、あれはユキの癖だから。
あたしは知ってるから。
悔しかったり、悲しかったり、何かを堪えている時に、必ずしてた。
『泣かないで、泣いちゃダメだよ』
ふいに、幼いあたしの声が脳裏に響く。
『大丈夫。ユキの事をキライになったりしないよ』
これは、いつの記憶……?
ユキは泣き虫だったから、泣くユキなんてめずらしくもない。
でも、そうだ。
ユキは泣く前、必ず、あんな風に前髪を強く握ってた。
それで、ひとりで泣くんでしょ。
なんでよ……。
どうして?
どうして、ユキがそんな風になるのよ。
そんな事……おかしいじゃん。
あたしの事、嫌いなくせに。
恨んでるくせに……。
だけど、もしかして、そんな事ないだろうけど、もしも、もしもそうだったら。
あたしは、何かを確かめたくて、もう一度、窓を開けようと手を伸ばす。
「チョコーっ、ねえねえ、アラシとどうなってんの?」
突然、背後がから大勢の気配がして、振り返る。
そこには、教室にいたクラスメイトが、目を輝かせて迫っていた。
「やっぱ、アラシってチョコ狙いだったんだ」
「私は気づいてたけどね!」
「あ、ずるーい! あたしも気づいてたし!」
「で、どうなの? やっぱ、つきあってるの?」
「今の時期はヤバイんじゃない?」
「先生、うるさそー」
「でも、愛に障害はつきものってね」
口々に、勝手な事を言いながら、ジリジリと確実に迫っていた。
「あ、あのさ、誤解だよ。アラシとは友達っていうか、仲間だし」
あたしは、窓に背を張りつかせて、首も、手も、ちがうちがうと振り続けた。
「なによー、隠す気?」
「か、隠すもなにも、まったくの誤解だし」
「うわー、下手な嘘ついちゃって〜。ほら、麻衣も隠してるみたいだけど、バレバレじゃない。チョコも同じくらい、バレバレ! もう、白状しな」
――――麻衣がバレバレ? バレバレって、隠してるつもりが隠れてないってことで。
つまりは、何かを隠してるって事?
「あれ? チョコは麻衣から聞いてるんでしょ? ラブちゅー彼氏」
「は? 何? ラブちゅー?」
ラブちゅーって何語?
そんな事を思いながら、あたしの首は難解な言葉で直角に曲がる。
「えー、そんなの男の事に決まってるじゃん、ね〜?」
「そうそう、最近は結構ね、堂々と一緒にいるし、ね〜? すっごいラブいよ」
ラ、ラブい?
男?
つまり、彼氏でしょ?
しかも、麻衣に?
「アハハハ……まさか〜……麻衣に彼氏?」
ありえないと笑うあたしに、目の前のたくさんの顔が「嘘じゃない」とにんまりと笑う。
うそ。
何も聞いてないよ。
あたし、麻衣から何も聞いてない……。
彼氏が誰とか、そんなのはどうでもよかった。
麻衣が何も言わなかったことに、軽くショックを受けていた。
自分の事は棚に上げて、あたしは麻衣を責めていた。
友達なのに、一番の友達なのにって。
険しい顔に、詰め寄るクラスメイトの足も止まる。
「あ、ほら! 噂をすれば!」
クラスメイトの一人が、窓に向かって指をさす。
あたしは、ゆっくりと首をまわすと、指し示されたほうを見る。
向かい校舎の廊下を走る、麻衣の姿を確認すると、心臓がドクンと鳴った。
麻衣、どこに行くの?
そんなに急いで、何の用事なの?
そこには、何もないよ?
あるのは準備室とか、普段は使われていない教室ばっかりだよ?
ねえ、麻衣、やめてよ。
やだよ……。
そっちはやめて。
だって、そっちは……。
「うそ……冗談キツ……」
喉が渇くのを感じながら、呟く。
妙な汗もでてくる。
耳の奥、目の奥のほうでドクンドクンと脈打つ。
麻衣を見失わないように見開きすぎた目が痛くなる。
見たくない。
だって、そっちには……。
―――ユキしかいない。
あたしは、ガラスに張りついた蛙みたいに、手をぴったりと窓につけた。
そして、目に映る麻衣の姿が今、向かいの校舎にいるユキの前に。
あたしは瞬きをすることもできずに、ゴクリと喉を鳴らした。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
◆†あとがきという名の懺悔†◆
本日もご来場ありがとうございます!
更新速度は、悲惨の2文字ですね。
書きたい気持ちはいっぱいですが、時間が……。
お詫びになるかどうかわかりませんが。
チョコちゃんたちを書きはじめたばかりの頃、
いただいた絵を目次ページにアップしました。
PCの方しか見られませんが、夏バージョンなのは気にしない!
でも、これって書く前だったので、イメージが違うんですよね〜。
なので、再度お願いしました!
次の更新のときに、よりイメージに近い絵を貼りたいと思います。
絵がキライって方には、残念な感じですよね……。
チョコボンは少女漫画風味なので、ご了承くださいませ。
さて次回♪ ☆12☆ キラキラ王子と噂の魔女
まだ終わりません。
全20話予定なので、下りはじめっていうところですよね。
王子と魔女、麻衣ちゃんの関係ですね。
この辺を説明するお話になるかと思います。
この辺りから、チョコちゃんが女の子らしくなってくれることを願って!
また、気長にお待ちいただけたら嬉しいです。