3秒怪談
<ひとつめ>
「ねえ見て。わたしダイエットに成功したの」
背後から、友達の声がした。しかし、ふりむいても、誰もいない。
「ほら、わたし、すごくやせたでしょう」
また声がした。
よく見ると、目の前で、何か糸のようなものがゆらめいていた。
<ふたつめ>
朝、弟の両目がなくなっていた。初めから何も無かったかのように。
ふと窓の外を見ると、全身にたくさんの目をつけた何かが、こっちを見て笑っていた。
<みっつめ>
6歳の弟が、庭の隅で、
「痛いか?痛いか?」
と笑いながら、棒で何かをつついていた。
虫でもいじめているのかと思って見ると、
5センチくらいの小さな老人が、血まみれになって痙攣していた。
<よっつめ>
夜中、隣の布団で寝ている6歳の弟が、
「痛い!痛い!」
と泣き叫んだ。
5センチくらいの小さな老人が10人、弟の腹をむさぼり喰っていた。
<いつつめ>
次の授業は国語だ。
教科書とノートを取り出すために、少年は机の中に手を入れた。
机の中で、何かが手をつかんだ。
<むっつめ>
最近、アパートのドアの前に、虫や鼠の死骸が置かれている。まるで野良の動物たちがお供えをしているかのように。わたしの体が、最近、急に毛深くなってきていることと関係あるのだろうか?
<ななつめ>
昔、捨てた女が、自殺したと聞いた。
なんとなく、スマフォに残っていた、彼女からのメールを読み返してみた。
文面の、「愛してる」という文字が、画面から飛び出してきて、おれの喉を切り裂いた。
<やっつめ>
母親を紹介すると言われ、わたしは緊張しながら彼の家に行った。
彼に案内されて、わたしは広い部屋に通された。
そこには、三メートルくらいの身長の、乾いた血で汚れた裸の女がいた。
彼が言った。
「母さん、エサを連れてきたよ」
<ここのつ>
昼間、街で買い物をしてる途中、セールスマン風の男に声をかけられた。
「あのう、噛んでいいっすか?」
「・・・・・・え?」
「噛んでいいっすか?」
すごい力で腕をつかまれた。
<とお>
幼い頃から、顔がブサイクという理由でいじめられていた。
なので、わたしは「顔削ぎ屋」へ行った。
顔の肉を、削いでもらった。
次の日から、わたしは「かわいそうな子」として扱われるようになり、誰にもいじめられなくなった。
顔削ぎ屋さん、ありがとう。
<じゅういち>
夕方、学校からの帰り、血まみれなった男が、走ってきて、タッチ!と叫びながら、わたしの肩をたたいた。
「次はおまえの番だ」
そう言って笑いながら、男は走り去っていった。
何かが近づいてくるのを感じた。
<じゅうに>
三日前から、何も見えないのに、どこからか、
カチカチカチカチカチカチ
と歯を噛み合わせるような音だけが聞こえてきた。
その音は、少しずつ近づいてきて、今ではすぐ耳元まで迫ってきていた。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチがぶり
<じゅうさん>
近所のよく行く人気のレストランに、いつ見ても空いている席があった。
ある日、お客さんが多かったので、その席に座ると、急に店内が静まりかえった。
他のお客さんが全員、顔を青くして、無言で私の方を向いた。
ふと、寒気を感じた。
<じゅうよん>
朝、学校へ向かう途中に、後ろから誰かが肩を強く叩いてきた。
驚いて振り返ると、顔中にたくさんの画鋲を刺した男が、
「ねえ!ぼくの仲間になってよ!」
と叫びながら、私の手を強く握りしめてきた。
<じゅうご>
なんだか胃もたれがひどくて、気分が悪かった。
夜、ケータイに知らないアドレスからメールがきた。
『あなたのおなかにこっそりゲメを入れたから、おまえはもうだめだ』
胃袋が動いた。
<じゅうろく>
夜、テレビでバラエティー番組を見ていると、画面の隅にぽつんと、血走った目が映っていた。
どれだけチャンネルを変えても、その血走った目はずっと映っていた。
<じゅうなな>
夜、宿題をやろうとして、机の上でノートを開いた。
誰かの悪戯だろうか。
ノートのページに、頭を割られた女のひとの顔が描かれていた。
どのページにも。
どのページにも。
どのページにもだ。
<じゅうはち>
朝、学校へ行く途中、道路に這いつくばって、ひいひいひいと笑うおじさんを見た。
怖くなって、遠回りした。
夕方、帰宅途中、同じ場所でそのおじさんを見た。
車に踏まれたのか、ふとももがタイヤの跡の形に潰れていた。
ひいひいひいと笑っていた。
<じゅうく>
長い間、学校に来ない友達のお見舞いに行った。
友達は、パジャマ姿で自宅のベッドに入っていた。
部屋の壁に、白い棒のような塊が2つ、額に入れられて飾られていた。
「わたしの足の骨よ。きれいでしょう?」
そう言って友達は、うっとりと笑った。
彼女の腰から下は、布団に隠れていて見えない。
<にじゅう>
友達の部屋で、うごめく何かの肉片を見た。
すぐにこの世のものではないとわかったが、怖がらせるのも悪いと思ったので、黙っていた。
翌日、友達が肉片になった。