第八話
じわじわと総合ptが伸びてきております。
ありがとうございます。
しんと静まり返った図書室の一角で、どうやら俺と話をするつもりがないらしいエイブのせいで気まずい空気が流れる中本を読むこと約30分ほど。
急に図書室内にサイレンが響き渡った。
「おわ!?」
これには俺達以外の人もびっくりしたようで、中には椅子から転げ落ちてしまった人もいる。
ちなみに、今の間抜けな声は俺の声だ。恥ずかしいが、誰も気にしていないようでホッとした.....。
ちがうちがう、今はそんなことでホッとしている場合ではない。
なぜサイレンが鳴ったのか、だ。家事でもおきたのだろうか。それなら紙と木しか置いていないここには真っ先に火が回るだろう。
だがどうやらそうではないようで。
周りの人は皆急に音がなったことに対して驚いただけで、サイレンの意味については分かっているようだ。椅子から転げ落ちた人も気まずそうに座りなおした。
いや、数人は椅子から立ち上がって図書室から出ようとしている。
にやりと笑みを浮べながら。中にはよっし、と小さくガッツポーズをとっている者もいる。この世界にもあるのか、ガッツポーズ。
何があったのかとエイブに聞こうと思い、エイブのほうを振り向く。
どうやらエイブもどこかに行く派らしく、せわしなく立ち上がっていた。
「このサイレンの音って......」
「ああ、緊急依頼が来たらしい。しかも国からのとびっきり報酬がいいやつだ。今日は付いてるぜ」
エイブが言うには、このサイレンの正体は依頼が来たという知らせのようだ。
それにしてもサイレンである必要があるのかと思ったが、普段はこんなサイレンは使わないそうだ。
本当に緊急の、国の存亡にかかわるレベルの依頼が来たときだけサイレンが鳴るんだとか。危険も多い分、国も報酬を出し惜しみしないらしい。だから今すぐ金が欲しいエイブにとっては渡りに船ということだ。
まあ、恩があるとはいえついさっきあったエイブのために一緒に危険な場所に行くなんて事はしたくない。というか、行っても迷惑なだけだろう。
だが、俺はこの世界の金を持っていない。
エイブに教えてもらったおかげで稼ぐ方法は教えてもらったが、お金の価値がわからない。
町を案内してもらったが、生憎宿の場所は教えてもらえなかった。
それに、ギルドで金を稼ぐといってもノウハウがないため、危険があるかも知れない。
つまり、俺1人だと異世界生活が一瞬で詰むということ。
危険だという場所に行きたくはないが、エイブにまだまだ教えてもらわねばならんこともいっぱいある。
できれば、恩返しもしたい。
「付いていっても、いいですか?」
「え?お前戦えるのか?」
怪訝そうに聞いてくるエイブ。
俺は弓を引く動作をする。
「弓ならすこしはできるし」
「まあ、お前が来るっつうんなら止めはしないけどよ。危ないぞ?」
「うん」
歩き出すエイブに一抹の不安を覚えつつも、すこし早足で付いていった。
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「おぉ~......」
簡単の言葉が図らずして言葉が漏れた。
図書室に行く階段の隣にあった、地下へと続く階段。普段は床板に隠されていて見えないそうだが、地下の施設を使うときだけこうやって開放されるんだそうだ。
というのも、ここにあるのが超高価な魔方陣で、壊されたりしたら取り返しの付かないことになるから......らしい。
話を聞いたときは魔方陣と言うものをリアルに見たことがなかったからか実感が湧かなかったが、実際に見てみて分かった。
いや、実際の勝ちがどれくらいかなんて見ただけでは分かりっこないのだが、すごいということだけは分かった。
それが、今俺の目の前で白金色に輝いている魔方陣だ。
その輝きはどこか高貴な雰囲気を纏っていて、ただの質素な石壁さえも王城の城壁に見える気がする。
大きさは直径で5メートルほどはあろうか。馬鹿でかい円の中に一目見ただけでは1割も覚えることがかなわないような複雑な文様が描かれている。
「すご.....」
始めてみた筆舌に尽くしがたいほどに神々しい魔方陣を前に、小学生並みの感想しか口から出てこない。
周りにいる屈強な男達もどこかざわついていて、浮き足立っているように見える。
「ここにこんなとこあったのかよ.....」
「すげぇ」
などの呟きがあちこちから聞こえる。他の人たちも考えるのは俺と同じようだ。
そんな中でも落ち着き払っている人物がいた。エイブだ。俺なら数回見ただけでは慣れることがないような光景だが、エイブは何度かここに来ているのだろうか。
「では皆さん、魔方陣の中心に進んでください。依頼地へと転移させます」
どこかアトラクションのスタッフを思い起こさせるような口調で3、40代くらいの男が言った。指示に従い、魔方陣の中心に進む。
「すこし揺れますが、心配はありません。では、起動します」
男の言葉が終わると同時に、魔方陣がより輝きを増していく。白金色の中にすこしづつ赤色が混じっていく。やがて視界が赤色で埋め尽くされると、地面がぐにゃりと歪む。空き缶の中に入れられて、思いっきり蹴っ飛ばされたかのような衝撃と浮遊感。
――なにがちょっとだよ!
と叫びたいが、口をあけた瞬間に舌を噛み切りそうになったので歯を噛み締める。
倒れないようにしゃがみ、地面に手をつける。
エイブは大丈夫だろうかと心配になり、顔を上げる。
だがエイブはこの揺れの中でもバランスを崩さずに平然とした顔で立っていた。
え?もしかしてこの揺れを感じているのは俺だけなのか?と思って当たりを見回してみるが、皆俺と同じように地面に手をついている。
――おかしいのは、エイブのほう.....?
そう思った瞬間、不意に赤い光が消える。
数名の屈強な男達がよろめきながらも立ち上がる。長い間地面でヘタっているのは彼達のプライドが許さないのだろうか。まあ、俺には異世界の男達に勝てる気がしないし、プライドなんかないからゆっくりと立ち上がらせてもらうが。
なんて考えていると、エイブが手を差し出して、
「大丈夫か?」
と起こしてくれた。
俺なんかに手を....なんていい子なんだと感動しかけたが、今の俺は小さい男の子。手を差し出すのは当たり前といえば当たり前だ。
まあ、それでもいい子なのには変わりない。
立ち上がってもまだくらくらする頭をぶんぶんと振って辺りを見回す。
見たところさっきいた場所とあまり変わらないが、良く見れば部屋がすこし大きいし石でできた壁が古い.....気がする。
と、いつの間にか現れた男が......って、さっきのアトラクションスタッフの人!?顔が一緒なんですけど!――と思ったが良く見てみると服の色が違う。となると思い浮かぶのがポケ○ンセンター。双子の受付譲的な?
「ようこそ、傭兵ギルドエレオノール支部へ」
丁寧にぺこりと頭を下げる男。
「依頼の説明は各地から傭兵が集まってから一度にいたしますので、待機室にてお待ちいただきます。報酬は、10000ルドはお約束いたします」
報酬の値段が発表されたとたん、場がざわついた。
10000ルド、というのがどれほどの金額なのかは分からないが、その場の空気を考えるに、恐らく相当な金額なのだろう。
だが、皆が皆手放しで喜んでいるというわけでもないようだ。
報酬が多い分、危険が多いということでもある、気をつけろとエイブが耳打ちしてくる。エイブのほかにもそう考えている人がちらほらいる。
そこらへんの事情を分かっている分、エイブは結構ベテランなのかもしれない。考えれば分かるような話ではあるが。
「では、待機室に案内させていただきます」
歩き出した男の背中に、俺達はついていった。
さっさと仲良くなれよ二人!
敬語で書くのがめんどくさいんで!
だからといってはじめからタメ口というのは馴れ馴れしいし......ね?
ともあれ、読んでいただきありがとうございます。