第六話
わーいわーい!
総合評価が100ptを突破しました。
これも全て読者様のおかげでございます。
今後とも、この作品をどうかご贔屓に。
「あれ?なんでここにいるんですか?」
まさかここでエイブが出てくるとは夢にも思わなかったので、素っ頓狂な声を出してしまう。服装が乱れたエイブは寝起きのようだ。恐らくつい先ほどまで寝ていたのだろう。あ、よだれのあとまで付いてる。
「大丈夫か!?」
「平気ですけど.....」
そう言ってこちらに歩いてきて、体をぺたぺたと触ってくる。
しばらく触り続けてようやく大丈夫だと判断したのか、「大丈夫そうだな、よかった」と良い笑顔で言った。
そういえば、前に会った時は俺を殺そうとしてきたし容姿を見ている暇なんてまったく無かったが、よくよく見てみればすごく整った顔立ちをしていた。
栗色の目はパッチリと大きく、鼻も筋が通った綺麗な形をしている。唇はふっくらしていて、女装とかしたらすごく似合いそうだ。
年のころは15、6ぐらいだろうか。そろそろニキビとかが気になってくる年頃だ。の割りに、肌はつるっつるでしみひとつ無い。もはやお手入れとかしてそうなレベルだ。
「スライムは対処方さえ知っていれば訓練を積んでいなくても最悪でも死ぬことは無いから、ちゃんとギルドの図書室で図鑑を見て置けよ」
心底こちらを心配して助言をくれるエイブ。きっと根が素直でやさしいのだろう。でもなぁ.....ギルドとかなんのことか分からないし、どこにあるかも分からないんだよなあ.....。
でも俺は相手との距離感をはかるのは苦手だが、疑問はちゃんと聞ける日本人だ。『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』と言う偉い人のありがたい言葉があるじゃないか!誰の言葉かは知らんが!
「あの、ギルド....ってどこにあるんですか?場所を知らなくて.....」
「え?ああ、君くらいの年齢だとあまり行くことも無いか.....よし、俺が案内してやるよ」
どうやらエイブが案内してくれるらしい。こちらとしてはすごくありがたい話なのだが.....。エイブの都合は大丈夫なのだろうか。
「えっと、迷惑では.....」
「大丈夫大丈夫。今日は休むって決めてたから!家にずっといてても体が鈍るしな」
そう言って手をひらひらと振るエイブ。やばい、イケメンすぎる。あまり意固地になって断るのも本人に失礼だと思ったので、「ありがとう」とだけ言う。
それにしても、文字とかは大丈夫なのだろうか......言葉が交わせているだけでも不思議なのに。
□――――――――□
それからすこし話を聞いて分かったことだが、ここはエイブの家らしい。今はここでお父さんと二人暮らしだそうな。
それで、お父さんが呪いにかかったから今はその治療費を稼ぐ為に迷宮の探索をしている最中だそう。それなのに俺の案内なんかして大丈夫なのか、と思ったが、迷宮探索には体力を使うらしく、きちんと休みの日を作らないと探索中に注意力が散漫になって死んでしまうそうだ。死んでしまっては元も子もないと笑っていた。で、今日は休みの日というわけだ。
俺のことはいつも通りに迷宮にいった帰り道でスライムに殺されかけていたところを発見、救出したらしい。それに関しては本当に感謝してるし、恩は返さないといけないとも思っている。何かできることがあればいいが.....。
「ほら、そろそろ行くぞ」
そう言って玄関の前で手招きをするエイブ。俺は少し綺麗になっているローブを羽織り、フードをかぶる。返してもらった弓を肩にかけると、矢筒を腰につける。
町に出るのに武器なんて持っていていいのかと聞いてみたら、なにがあるか分からない殻持っておいたほうが良い、みんな基本的に武器を持ち歩いていると言われた。
「えーと、まずはこの店がある角を曲がって――」
どの店がある角をどちらに曲がる、など具体的に生き方を教えてくれるので分かりやすく、道筋はすぐに覚えることができた。
町の構造は中心に広場があり、そこから放射状に建物や道が広がっているような感じだ。町の外側には石の壁が、町を丸く囲っている。
「で、ランチを食べるならここがおすすめ。値段も安いしおいしいし量も多い!ただちょっとメニューが少ないけど、俺はいつも肉しか頼まないからかんけーないな!」
で、始めはギルドとやらに行く案内をしていたんだが、途中からなぜか普通の町案内になっていた。当初の目的であるギルドにはまだ付いていない。まさかとは思うが、忘れているとかは無いよな......?
あと気になったのが、頭の上の表示だ。
エイブは頭の上に名前が表示されていたのに、他の人はなぜか職業が表示されていた。行商人、道具屋、魔法具屋、武器屋などなど.....。中でも一番多かったのが、傭兵という職業だった。傭兵と言ったら普通は雇われの兵士と言うか、そんなイメージがあるんだが、こんなに多いものなのか?
まあそれはいいとして。
今重要なのは頭の上の表示だ。機嫌よさそうに案内してもらっているところ悪いが、エイブに聞くことにしよう。
「あの、頭の上の表示なんですが、なんで他の人は職業なんですか?」
「ん?知らないのか?デフォルトでは職業が表示されていて、職業が無い人は種族に、設定を変えれば名前を出したりすることもできるんだ」
どうやらこのことは常識のようで、結構いぶかしみながらも親切に教えてくれる。
そういえば、今の俺は『ゾンビ』と表示されているんだったか。ん?それって結構おかしいことなんじゃ......。街中をローブを目深にかぶってうろうろするゾンビ。ヤバイ。
あたりを見てみると、通行人がすれ違いざまに俺のことをじろじろと見ている気がする。というか完全にみている。
人間、気が付いてしまうと急に恥ずかしくなるもので、意識の外に追い出すことはできなさそうだ。
「設定ってどうやって変えるんですか?」
早く変えたかったので、急いで聞いてみる。
すると、
「そんな事も知らないのか.....。まあいっか。まず、変えるにはステータスの表示のところをダブルタップして.....できたか?」
俺はエイブの言うとおりに、小さく「ステータス」とつぶやくと、表示の部分をダブルタップした。......というか、ダブルタップかよ!そこまでは頭回らなかった!何でタップじゃだめなんだよ....。
「そしたら表示したい文字を言葉で言うんだ」
なんて表示したらいいんだろうか。人間.....にしたら無職になるのか。それは嫌だな。学生....はあるか分からないし、昼に出歩いていたら警察のお世話に....なんてのも嫌だ。
「エイブさんの職業はなんなんですか?」
――ピローン。表示が『エイブさんの職業はなんなんですか?』に変更されました。
あ、そうか。ダブルタップした後にしゃべったらそれがそのまま表示になるから、しゃべったりしたらいけないのか。
「俺の職業は傭兵だ」
エイブも傭兵なのか。傭兵多いな。まあ、多いならそれを使わせてもらうことにしよう。もし傭兵になるには登録が必要とかだったら面倒臭いが、まあ名乗るだけならいいかな。と表示の部分をダブルタップ。小さく「傭兵」とつぶやく。
――ピローン。表示が『傭兵』に変更されました。
よし、できた。これで周りの人からは変な目で見られたりはしないはずだ。だいじょぶだいじょぶ。
そういえば、エイブはなんで名前を表示しているのだろうか。名前を常に晒すなんて、日本ではありえないだろう。自分の個人情報はちゃんと守らないと。
「そういえば、なんで名前を表示しているんですか?」
「ああ、これか?これはな、何か困ったことがあるときは自分の名前を表示するって言う習慣があるんだ。常識だぜ?」
マジか。
即ち、エイブはお父さんが呪いで困っているからこうやって名前を表示していると。
でも何で名前を表示するのだろう。別にそれなら極端な話、『困っています』とかでもいいんじゃなかろうか。
そんなことを考えていると、雰囲気を感じ取ってか聞いていないのにもかかわらず教えてくれた。
「名前が分かると話しかけやすいだろ?だから昔から困ったときは名前を表示する、っていうのが常識だったんだ。困った人を見たら助け合わないとな!」
なるほど。そういう事か。ホント、エイブにはいろいろとお世話になってるな。ちゃんとおんがえしをせねば。
そうだ、迷宮を探索しているのなら、それを手伝うのもありかもしれない。戦闘では役に立たなくても、荷物もちぐらいはできるだろう。弓も多少は使えるし.....。
さてと。
色々と教えてもらってありがたい気持ちはあるのだが.....。
そろそろギルドとやらに行きたいんですが。
異世界転生モノで初対面のガチムチさんに急にタメ口きく主人公っていますけど、やっぱ敬語だと思うんですよ。日本人的に。