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no rot zombie~腐らないゾンビの異世界生活~  作者: 八卦
第一章~甦りのお姫様~
6/10

第五話

道を歩き始めてどれくらいたっただろうか。結構な時間が経った気がするが、とにもかくにも森の入り口にたどり着いた。遠くから見たときよりももりは深く、中は昼間だと言うのに薄暗かった。これぐらいならフードを外しても燃え上がることはない....と思う。


道は曲がりくねっていて、薄暗いのと相まって気をつけていなければ道に迷ってしまうかもしれない。注意しなければ。


森の中に足を踏み込む。森の中の道は外の道よりも苔が多く、横から気などが出てきており道を狭めている。先ほどよりもすこし寒い。日光が差し込んでいない為だろうか。


熊などの危険な動物や、元の世界には居なかったモンスターなどに襲われるかも知れないので、肩にかけていた弓を持ち、矢をつがえておく。弓は簡素な作りで、木に弦を張っただけのような見た目をしている。こんなもので危険に立ち向かえるのかと不安になるが、これしかないので仕方がない。

すぐにでも弓を引けるように右手を弦にかけ、周囲を警戒しながら進む。


もちろん、現代日本において戦闘訓練をしているのなんて自衛隊などの訓練を必要とする職種の人か、趣味でサバゲーなどをしている人ぐらいだろう。

そんなしんどそうな訓練を継続してするなんて、怠け者の俺には到底できないだろう。尊敬する。


そんな訓練した人たちでさえ森の中を警戒しながら歩くとスピードが落ちるのだ。俺のような初心者がいくら頑張っても進むスピードは目に見えて遅くなる。幸い、ゾンビになったからか疲れと言ったものはまったく感じないが、精神的には疲れる。



そんな状態で歩くこと、約20分ほどだろうか。


がさがさ、と道の右側からから音がした。長いこと何も怒らなかったので、警戒を怠ってしまっていた。そのため、音に気が付いて隠れようとするころにはそいつは姿を現していた。


――ぷるるん


そいつは青く、透き通っていた。


――ぷるるん


そいつは軟らかそうなゼリー状だった。


――ぷるるん


そいつは顔くらいの大きさで、表面がねとねととしていた。

そしてそいつの頭の上には『スライム』、と表示されていた。


「うぁッ」


すこし遅れて飛びのくと、弓を構えて弦を引いた。急に現れたスライムに狙いをつけ、矢を放つ。スライムとの距離は5メートルもない。外すはずがないという思いと、もし外してしまったらと言う想像が焦りを生み出す。


結果、俺が放った矢は右に逸れてカッ、という硬い音とともに地面に弾かれる。


「あ....」


超近距離から外してしまったと言う驚きで、一瞬固まるがすぐに持ち直し、腰に下げた矢筒から矢を抜き取る。

そのまま何度もやった動作で弓につがえようとするが、自分がいつも使う愛弓ではないためにすこし手間取った。



その『すこし』が命取りだった。



矢をつがえ終わり視線を前に移すと、スライムの姿が消えていた。どこに行ったのかと慌てて視線をさまよわせる。が、スライムを捕捉する前に腹に強烈な衝撃。肺の中から空気が吐き出される。


認識外からの強烈な衝撃に、思わずしりもちをつく。しりもちをついた俺の顔に覆い被さるようにしてスライムがまとわり付く。

ゼリー状の物体が、空気さえも通さないほど顔に密着する。当然、口と鼻はふさがれ息ができなくなる。


「む~ッ、む~ッ!」


どうにかスライムを引き剥がそうとするが、手でつかもうとしてもつかんだ部分がちぎれてまともにつかめない。苦しさはあまり感じないが、このままでは死ぬと魂が叫んでいる。

しかしどれだけもがこうともスライムが剥がれることはなく、少しづつ体に力が入らなくなってくる。


「う~、う~」


スライムと言えばゲームなどで一番初めあたりに出てくる雑魚キャラではなかっただろうか。それがリアルになるとこんなに手ごわいとは.....。


そうやって馬鹿なことを考えている間にも意識はどんどん遠くなっていく。目も霞み、何も見えなくなってきた。


――ここで死ぬのか


ぱたりと手が落ちる。

もはやもがく力さえも残っていない。靄がかかる意識の中、全てをあきらめかけた。がさがさと何かがこちらに近寄ってくる音がする。スライムの増援だろうか。増援など寄越さなくとも、俺はすぐに死ぬのに。


その思考を最後に、俺は意識を手放した。






俺は親父の治療費を稼ぐ為に、今日も『クラフティ火山の天空迷宮』――通称『腐敗迷宮』に来ていた。


腐敗迷宮では物が早く腐る。理由は解明されていないが、研究者の間ではアンデットなど、死の属性を持った魔力が立ち込めているためだとか神がここで死んだ際に呪いの呪詛を唱えながら死んだとか、いろいろ仮説が飛び交っているが、そんなことはどうでもいい。


俺にとって大切なのは、弁当を持ってきてもすぐに腐ってしまう為、昼になると一度町まで戻って昼ごはんを食べてから、もう一度迷宮まで来なければいけないということだ。


町から迷宮まではすこし離れていて、行くだけでも1時間ほどかかる。往復2時間だ。ただでさえ時間がなく、できるだけ迷宮に籠もっていたいというのに、2時間のタイムロスは痛い。

そう思って一度迷宮の入り口に弁当を置いて迷宮に入ったら、出てきたときに別の魔物が群がっていて死にそうになったのは思い出したくもない思い出だ。



さて、そんな理由があって、俺は一度迷宮から出て町に帰っている途中だ。


町と迷宮の間には、結構深い森がある。

この森は、出てくる魔物自体は強くないのだが、如何せん森が深い。そのためか、不意を付いて奇襲をかけてくる魔物が多く、始めは抜けるのに時間がかかった。


それでもやはり人間慣れるもので、最近では苦もなく抜けることができる。

周囲を警戒しつつ、しかし素早く進んでいく。そんなとき、近くから声が聞こえた。


気のせいかとも思ったが、一応耳を澄まして声の元を探る。


しばらくすると、再び声が聞こえる。次は口を押さえられたような、くぐもった音だ。恐らく、スライムにやられているのだろう。

あいつらは意外と力がある上に、口と鼻を塞いで呼吸を止めて殺すというめんどくさい性質を持っている。


しかし粘着力はないため、顔を下に向けて首を振ればすぐに落ちる。情報さえ持っていれば苦戦するような相手ではない。


俺も始めはびっくりしたなぁ、と思いつつも、早くしなければ手遅れになる可能性もあるため、急いで声のほうへと走り出す。



すこし走ると、汚いローブを着てフードを深くかぶった小さい人がスライムに覆いかぶられているところだった。

ローブの人物はぐったりと力なく倒れている。恐らく気絶しているのだろう。


「大丈夫か!」


意識を呼び戻す為に大きな声で呼びかけながら、腰の剣を抜く。剣を抜いた勢いのままにスライム“だけ”を切り捨てると、ローブの人物に駆け寄った。


呼吸があるか確かめようと手をかざそうとする。


そこで、その人物が誰か気が付いた。


「え.....」


そいつは、ついこの間。ほんの数日前に迷宮で出会った謎のゾンビだった。







「う....ん........」


目が覚めると、そこにはところどころにシミがある天井があった。


どうやら俺は寝かされていたいたようで、体の下には固いベッドがある。固かろうがやわらかかろうがベッドはベッド。久々のまともな寝具に、懐かしさで涙が出そうになる。そこまで長いことベッドで寝ていなかったわけでもあるまいに。

ずっと屋内にいたため時間感覚がおかしくなっていたが、この世界に来てから長くても1週間ぐらいしかたっていないはずだ。


上体を起こしてあたりを見回す。

ここは小さな部屋で、お世辞にも綺麗とは言いがたかった。家具が机が1つとたんすだけ。机の上は数冊の本が乱雑に置かれている。その横に、直刃の剣が立てかけてある。


床には着替えや皮でできた鎧などが皺くちゃになって投げ捨てられていた。


枕元には羽織っていたローブがたたんで置いてあった。心なしか、綺麗になっているような気がしないでもない。


それにしても......と首をかしげる。


「ここ、どこだ....?」


合理的に考えるならば、あの後誰かが助けてくれた、と言うのが一番ありえるだろう。と言うか、それ以外には考えられない。


とりあえず、誰かに助けてもらったにしろそうじゃないにしろ、ここには誰かが住んでいるはずだ。これだけ生活感があふれていて、誰も住んでいないことはないだろう。


立ち上がってローブを羽織る。弓矢が無い事にすこし不安になりながらも、部屋に1つだけあるドアを開けた。

そこには普通の散らかったリビングがあった。

さっきいた部屋よりも2回りほど大きい。真ん中に机と、椅子が向かい合うようにして2つある。ドアは立っている位置から見て右側に1つ、机をはさんで正面に1つの2つだ。


「誰かいますかぁ~?」


すこし控えめに声を上げると、向かい側のドアの向こうからガタガタと音が聞こえて来る。音が途切れてすこしすると、ドアが勢いよくバタンと開く。


「あの、助けていただいてありがとうございま――」


助けてくれたお礼を言おうとしたとき、ドアから転がるように出てきたのは、俺がこの世界で唯一であった人、エイブだった。

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