第二話
「ステータス」
そうつぶやくと、目の前に四角いウィンドウが開いた。おぉ~、テンプレだーとすこし感動する。
そのウィンドウには、名前や種族。犯罪歴、職業などが表示されていた。もちろん、犯罪歴の欄は空欄になっている。あとは名前の欄もだ。ちゃんと表示されているのは種族と職業だけだ。
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名前:なし
職業:なし
種族:ゾンビ(Lv.1)
犯罪歴:なし
加護:アヌビスの加護
表示:ゾンビ
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ゾンビ.....。確かに間違ってはいないんだろうけど、なんだか微妙な気分だ。
表示されているのはそれだけで、他には何か書かれていないかと隅々まで探してみたり、タッチしてみたりしたけど結局見つかったのはそれだけだった。
表示の欄をいじれば何かあるかと思ったが、そこもタッチしても何も起きなかった。
テンプレ的にはステータスとかいろいろ表示されるのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。確かにリアルに考えたら、右手と左手でも力が違うのにステータスで1つの数値に表すなんて無理だろう。
だが、ステータスは無くてもレベルはあるようだ。先の理由から恐らくは目安程度にしかならないだろうとは思うが、それでも目安になるだけいいだろう。
種族の横に()で表示されていることから、種族としてのレベルなのだろうか。
加護のところにアヌビスの加護があるのは、腐らないように加工する、と言っていたのと関係しているのだろう。
そうやって元の世界には無かったステータス機能に興奮しつつも考察していると、俺の足側にあった扉の向こうからおかしな声が聞こえだした。
「ヴァアアァァ、ヴァァァァ~」
どこかで聞いたことがある声だな~、とか思ってなんだろうと考えてみると、すぐに思い出した。ついさっき聞いた声なのだ。自分の喉から。
「ゾンビの声ですか」
分かってみると恐怖心はすこし和らぐが、それでも実際に見たこともない謎の生物がすぐそこにいると思うと、なんだか落ち着かない。
俺は、盾を構えなおして警戒すると、ヴァーヴァー聞こえる扉とは逆のほうの扉を押し開けて外に(中にか?)出て行った。
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ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。
気味が悪いくらいに静かな通路に俺の歩く音だけが響く。靴はすでに腐り落ちていて、履けるような状態ではなかった。最初みたときは一瞬、それが何なのか分からなかったぐらいだ。
地面は石製のレンガが敷き詰められていて、ヒンヤリとした感触が足の裏に伝わってきて気持ちがいい。
先ほどの小部屋を出てから10分ほどが経った。今までは何も出てこなかったが、いつ何が出てくるか分からないので、警戒しながら進んでいる。あまりの緊張で、さっきからお腹が痛い。トイレ無いかな。無いだろうな。
ここの構造は結構複雑で、例えるならダークソ○ルの北の不○院みたいな感じだろうか。下手をしたら迷う。
ぺた。
その時、どこかから物音が聞こえた。
こういったことは何回もあった。いつも小動物の類だったが、やはり警戒しないで敵だった、では洒落にならない。盾を音が聞こえた方向に向けて構える。そこには右へ曲がる曲がり角があった。その先にはもう行ったので、左側に行こうと考えていたところだ。
曲がり角を曲がってすぐのところに死体があって吐きそうになったが、どうにか堪えたのが印象的だ。
ぺた、ぺた。
少しづつ音が近づいてくる。今までなら初めに音が聞こえてそれで終わりだった。近づいてくるなんて事は無かったので、警戒レベルを一気に引き上げる。
と同時に、お腹の痛みは最高潮に達している。緊張と不安感で。ごくり、と唾を飲み込んでのどの渇きを抑える。
冷や汗をだらだらと掻いている俺にはお構い無しに音はどんどんと近づいてくる。
そして、物音――いや、これは確実に足音だ――が角のすぐ向こうに来たのが分かる。そこにいるのは誰か、いろいろと考えてみる、が、極度の緊張状態にある俺の脳が冷静な思考なんてできるはずもない。
固まっている間に、そいつは姿を現した。
ぽっかりと空いていて何も入っていない目。
腐り、爛れた皮膚。
前に突き出した両腕。
喉から漏れ出す異音。
着てないも同然なぼろぼろの服。
そこにいたのは、明らかにゾンビだった。
「うわああぁぁぁぁ!」
想像していたものをぶっちぎって現れた恐ろしいモノに、俺は叫び声を上げてへたり込んでしまう。考えてみれば当然なのかも知れない。俺だってゾンビなんだから、他にもゾンビがいるとなぜ考えなかったのだろう。
ゾンビの頭の上に『ゾンビ』と表示されているが、それについて考えている余裕は無かった。
「ヴァアアア」
意味の無い声を上げてこちらに歩いてくるゾンビ。俺は右手につけた盾を振り回す。
「く、来るなぁ!」
しかしゾンビは俺の声を無視してこちらに近づいてくる。
俺は覚悟を決め、目を固くつぶった。
......。
............、..........。
...............................。
しかし、いつまでたっても覚悟した衝撃が襲ってくることは無い。
固くつぶった目を薄ーく開いてみる。しかし、そこにゾンビはいなかった。
「あ、あれ?」
盾を構えて、ゆっくりと角の向こうを覗いてみると、右側の角の向こうに歩き去るゾンビが。そしてその頭の上に『ゾンビ』と表示されている。
「なんで?」
と、そこで自分がゾンビであったことを思い出す。
そして相手もゾンビ。流石に同属を食べることは無いだろう。
「あ.....」
そこで襲い掛かってくる謎の羞恥心。
なんか知らんがすっごい恥ずかしい。攻撃してこない相手に取り乱してへたり込んで叫んで――。
もう子供って訳じゃないのに。
いや、実際にあれを始めてみたら取り乱して当然だと思うんだ。と、誰が見ているわけでもないのに心の中で言い訳をしてみる。
「やば、腰抜けた.....」
自分の想像以上のチキンハートに苦笑しながら、ガクガクしながら立ち上がった。
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それからしばらく探索して、いろいろと調べた。このアヌビス曰く迷宮についていろいろと知っていようと思ったのだ。
まず、ここにはゾンビやスケルトンなどのアンデット系モンスターしか出てこない。しかも、アンデット系のモンスターは俺を仲間とみなして攻撃してこないのだ。これにはすごく助かっている。もしも俺が攻撃されていたなら、始めのゾンビで死んでいただろう。
次に、ここは上へと伸びているようで、途中で見つけた割れた窓から遥か下に地面が見えた。それまではここは地下にあり、下へ下へと伸びているものと思っていたためずっと上に上っていたのだが、地上が下にあると知って泣きそうになった。
と言うわけで、現在は下へ下へと歩いている途中だ。結局盾は捨てた。モンスターが攻撃してこないと分かった後に弓を持ったスケルトンを見つけたので、スケルトンに盾を渡して弓と矢を奪い去っておいた。
怒ったりされないだろうかとびくびくしていたが、意思が弱いようですこし抵抗はしたものの、特に怒って攻撃してきたりとかは無かった。
やっぱり、遠距離攻撃のほうが安全だしな。
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窓から見える地面がだいぶ近づいてきたころ。
木でできた比較的丈夫な弓を手で弄びながら歩いていると、分かれ道に差し掛かった。左側はさっき行った.....と思うので右側に曲がろうとしたその時、角の向こうか足音が聞こえてきた。
またゾンビかな?と思いつつももはやあまり気にもせずに角を曲がった。
するとそこにいたのは、
「な.....」
1人の少年だった。
その少年は右手に無骨なロングソードを、左手には丸い金属製のこれまた無骨な盾をもっていた。体には皮の比較的動きやすそうな皮の鎧を身に着けている。頭の上にはゾンビやスケルトンのときとは違い、『エイブ』と表示されている。
始めはこちらに話しかけようとしていた少年だったが、すぐに驚いたような表情を浮べると、すぐに剣を構えた。
「お前!モンスターか!」
そう言ってこちらに切りかかってくる少年。
「え?ちょっと待ってください!」
そう言ってとめようとするが、少年はすこし驚いた顔をするだけで止まることはない。急いで後ろを向き走りだすが、少年もすごいスピードで走って付いてくる。どころか少しづつ差を縮めてきていた。
「ちょ!ちょ!ちょ!」
「まて!モンスター!」
なんでゾンビだって分かったんだ!?
と疑問に思ったのも一瞬。頭の上の表示を見られていると推測する。推測というよりももはや確定事項だろう。
しばらくは地の利を生かして(ここら辺の地形は理解している為)逃げ回っていたが、あいつが妙に速い為ついに行き止まりに追い詰められてしまった。
「覚悟しろ、新種!」
「だから待ってってば!」
「煩い!知能のある新種のモンスターを処分すれば報酬が大量にもらえるんだよ!」
少年が、剣を振り上げた。
書いている途中にふと文字数を見てみると、
文字数(空白・改行含まない):1911字
となっていました。
なんかガバメントに運命を感じますね。