3. 寝起きで晩餐
こちらもお久しぶりです…。
「・・・様」
誰かの呼ぶ声がする。軽く体を揺すられている気もする。気持ちのいい寝具の柔らかさと、目覚めたくない無意識の欲求と戦っていたのだが、否応なしに私の頭は覚醒された。
「ミズキ様、そろそろ晩餐に向けてのお召換えをなさいませんと。お目覚めになってください」
しっかりとしたでも優しい女の人の声が聞こえて、目を開けた。目の前のメイド姿の緑の髪の女性が、途端にボッと音がしたように赤面する。
緑の髪・・・【初○ミ○】みたいな色だ・・・。
ぼんやりとそんなことを思いながら体を起こした。起こしてくれた礼を言うと、メイドさんの方がどもる。王族とか貴族様はいちいちお礼を言わないのかもしれないけれど、私は一般家庭に生まれ育ったので何かをしてもらったらきちんとお礼を言うように躾けられている。天然お母さんだって、ちゃんと言う。
・・・あのお母さんが王子。・・・そう言えばお父さんも聖女で英雄だったんだっけ・・・。
夢だと逃げたかった。逃げたかったが、お召換えだと言われてモニカと名乗ったメイドさんに大きな姿見の前に連れてこられて服を剥がれる。
と、いくら胸がなかったとしても明らかに今までとは違うがっしりとした身体の私が写る。家でお母さんに着せられていたブカブカの服がピッタリだったので、あれはこういう理由だったのかと納得。
でもメイドさんが女性でよかったよ(意味不明)・・・。いくら男性になったとは言え、男性の前で上半身裸になる勇気はない。
ボケているうちに、ビロードっぽい生地の良さそうな服に着替えさせられた。本当はヒラヒラしたシャツを着せられそうになったのだけど、全力で交渉してシンプルなものにしてもらう。着替えも自分で出来ると懇願して渋々控えてもらい、ブラシで髪を撫で付けられ即席の貴族坊ちゃんができた。
海外の映画に出てくる王子様みたいだよね・・・などど他人事のように姿見に映していると、ドアがノック。モニカが対応してレヴァンが入ってきた。
「そろそろお時間ですが、よろしかったでしょうか?」
「まあ、身支度は出来たみたいだね。私の心の準備は全然だけど」
レヴァンに先導されて部屋を出ると、モニカに見送られて長い絨毯敷の廊下を歩く。私の言葉に苦笑しつつ、目を伏せてレヴァンが答えてくれた。
「いきなり気を失われたので陛下が心配しておいでです。典医は極度の緊張によるものであろうとの事でしたので、こちらのお部屋で休んでいただきました。詳しい御説明をすることができず大変心苦しいのですが、陛下もお忙しい御方ですので晩餐には御臨席願います」
「お母さんにも言われたから、夕飯は一緒に食べるけどね・・・。うーん、何かもう一つ忘れてる気がするんだよね、なんだろう?」
「さて、私はナディル王子からはお伺いしていませんが」
「いいや、そのうち思いつくでしょう」
えらく長い廊下を歩き、ぐるぐると螺旋階段を降り、またしばらく長い廊下を歩いて、やっと食堂らしき扉の前についた。
どんだけ広いんだ、お城。
レヴァンにエスコートされて中に入ると、向こうが見えないほど長くはないけど、大きな声を出さないと端と端では話が聞こえないんじゃないかっていうテーブルに案内される。既に何人かは着席しており、先程と同様に一身に視線を集めているのがわかる。
私の隣には宰相のニコラスさんがいて、私を見るとにっこり愛想の良い笑顔を見せてくれた。向かいには私と同じ年か少し下ぐらいのモスグリーンのドレスを着た女の子が、その隣の席には私より少し年上のような男の子が座っている。
会釈をすると、ぼーっと私を見つめていた女の子は我に返ったようで慌てて引きつった笑みを浮かべ、男の子は機嫌が悪いのか見向きもしない。居心地は悪いが仕方ない、あと少しの辛抱だ、我慢しよう。
しばらくするとラルフ国王と王妃らしき女性が入ってきてお誕生日席に着く。という事は、その左右に座っている身なりの良さそうなご夫婦は伯父さん伯母さんなんだろうか?
給仕がグラスに食前酒を注ぎだした所でラルフ国王が私を見て笑った。
「先程はいきなり倒れたので驚いたが、なんともないようで良かった」
「えと、ご心配をおかけしてすみませんでした。急な展開だったので、頭がついていけなかったみたいです」
「よいよい、そなたの父?カズオもこちらに来てしばらくは混乱していたからな、無理もないことだ。さて先ほど中断した説明はとりあえず後にして、食事を楽しみなさい」
「はい、ありがとうございます」
父方のお祖父ちゃんとは随分が違う気がするけど、とにかくお祖父ちゃんには間違いないらしいので引きつった笑顔を返し、よく分からないまま晩餐が始まった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
忘れていたのは冒険者ギルドの事ですが、登録までしてると門限に間に合わない事は菜月さんも気付いてません…。
次回は現実世界に戻って親子喧嘩勃発?!