2. さらに混乱
引っ張りましたが、短いです
気がつくと、大きな扉の前だった。どうやらここが謁見の間らしい。さっきの気持ちの悪さと頭の中の混乱で頭が痛くなってきたが仕方がない。隣に従うレヴァンに連れられ、私は大きく開かれた扉の中へ入った。
長いレッドカーペットの向こうの壇の上に、陛下と思わしき老人が座っていた。眼光の鋭さはさすが一国の王と言わざるを得ず、そばに控える近衛や重鎮の男達も一斉に私を見た。
穴が開きそうだ。
こんなに注目を集めた事はないので視線が痛いが、立ち止っているわけにもいかずゆっくりと歩みを進める。ある程度の所でレヴァンが片膝をついて頭を垂れる、何となくそれに倣った。
やっぱり偉い人にはそれなりにしないとね。それにさっきのレヴァンの言葉が正しければ、この人は私が会った事のないお祖父ちゃんのはず・・・。
「ナジェル王子のお子様、ミズキ様にございます」
「顔を上げよ」
見上げたエセルバード国王は厳めしい表情を浮かべる、いかにもな王様だった。
こちらを見るその目にも力がある。
「エセルバード公国国王ラルフだ、よくぞ参ったなミズキ。立派な青年に育ったようで、ナジェルも鼻が高いであろう」
国王陛下の少しだけ和らいだ声が静かな部屋に響く。だがしかし、私の耳に引っかかる言葉があった。
青年・・・?
思わず私が訝しげに首を傾げたのが分かったのだろう。国王が予め分かっていたかのように、苦笑いを浮かべた。そうして傍らに佇む宰相らしき中年の男性に顎をやると、一礼してその男性が一歩前に出る。
「エセルバード公国宰相ニコラスと申します。ミズキ様に置かれましては、まだこちらとの世界の違いに混乱なさっているかと思いますので詳しい話は後から説明いたしますが、まず一番重要な事をお話したいと思います」
「じゅ、重要な事?」
「はい、ミズキ様が住んでいらしたチキュウの住民がこのガルディアに渡った場合、10人中10人が性転換しています」
「・・・は?」
「男性は女性に、女性は男性に転換しています。これは異界渡りでガルディアに来た者、チキュウ世界に異界渡りをして戻った者に問合わせて確認しましたので間違いないと思います」
「性転換・・・、だからお母さんが、王子・・・」
「はい、ナジェル様はガルディアで王子としてお生まれになられましたが、カズオ様についてチキュウに渡られた時点で女性になっておいでです」
男で子ども産む気持ちってどんなんだろう・・・。っていうか、男性が子ども産んだらその痛さで死ぬって聞いた気がするんだけど、それは都市伝説だったのかな?
ん? ちょっと待て。
お母さんが元男性でお父さん(カズオ=和夫)について地球に行ったってって事は、お父さんもガルディアに来てたって事??! って事はお父さんはこっちで・・・。
グルグル考えていた私がハッっと顔を上げると、当然のように宰相のニコラスさんが言葉を続けた。
「カズオ様は、ガルディアに置かれましては聖女であり、英雄としてナジェル王子と共に世界を救われた英雄でございます」
「お父さんが、聖女で英雄??!!!」
さらに混乱する言葉を続けられて、思考が停止する。
あの、ふんわり癒し系の穏やかなお父さんが、英雄・・・。世界を救った、英雄・・・。
いろんな情報が一気に入りすぎて、訳が解らない。
ふらついた私の身体を、そばに控えていたレヴァンが支えてくれる。だが、私は次のニコラスさんの言葉で止めを刺された。
「チキュウに渡られたナディル様とカズオ様のお子様であるミズキ様は女性としてお生まれですが、こちらのガルディアにいらっしゃる間は男性という事になりますね」
・・・確かに女性にしては胸はないよ。性格もサバサバしてるから女の子にもモテるよ。でも14年と11ヶ月女性として生まれてきたのに、ここに来て、ここに来て・・・。
「私が、男・・・」
「ミズキ様?!」
そのまま私が気を失ったのは、許されると思いたい。そうして私は次に夕食の時間のために起こされるまで、夢の中に逃避するしかなかったのだった。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。
次回はなんとか自分を取り戻すお話です。
果たしてミズキは混乱から立ち直れるのか?!
拙いお話ですが、よろしくおねがいしたします。