リィンとゼシカ
前回まで
リィンだ。
あたしとクニオとキョウコの三人で、適正武器を見に来たんだ。
それが何かよくわからん敵と交戦に。
途中ゼシカのお陰で戦況はかなり良くなった。
最終的にはキョウコの活躍で勝利を掴む。
キョウコ、あいつ何者なんだろう。
赤毛の少女が机に向かっている。
ペンを片手に、本をめくっている。
ノートもあった、何か書いているようである。
その必死な様子は何かに追い詰められているようでもあった。
そんな時である、窓が叩かれた。
赤毛の少女は周りを見回し、その音の出所を探る。
ドアのノックではない。
窓に駆け寄ると、金髪の少女が屈託のない笑みを浮かべて外に立っていた。
窓を開ける。
「どうなさったの?次に会えるのはもっと先の事だと思いましたわ、それに……」
赤毛の少女が疑問を投げかけると、金髪の少女は手のひらを見せる。
まあ待て、という事だろう。
「今は他に誰もいないのだから、しゃべり方を戻して下さいな」
金髪の少女の言葉に、赤毛の少女は少し考える素振りを見せる。
「まず、いつ誰が私の様子を見に来るか分からない、それにあなたのしゃべり方も少し固いわ」
その言葉に、金髪の少女は頬を膨らませる。
「あなたに釣られたのよ」
「そういう事にしておきましょう」
そうして二人はどちらからともなく笑った。
「でも、どうしてここに?門には人がいたでしょう?」
赤毛の少女は最初に思った疑問をやっと投げかける。
「門は守りが堅いものね」
「そうね」
「塀を超えて来たわ!」
金髪の少女が得意気に言うと、赤毛の少女は呆れた、といった顔を見せる。
「じゃあ、あなたの家の方は……」
「今言ったわ、塀を超えて来たって」
「じゃあやっぱり許可もなくここに来たのね」
それは珍しい事では無かったが、やがて見付かり、二人共叱られる、というのがいつものパターンだった。
「で、今日は何を企んで来たの」
赤毛の少女が不安気に尋ねると、金髪の少女は自信有り気に、「これ」と言って、大きな麻袋を見せた。
「それって……」
赤毛の少女に一抹の不安が過り、
「多分、数日は持つと思うわ!家出よ!」
予感は的中した。
赤毛の少女は森を歩いていた。
少し大人になっている。
金髪の少女も共に歩いていた。
同じく少し大人になっていた。
赤毛の少女は腰に長剣を、金髪の少女は弓を持っていた。
「ねえ、もうどれくらい歩いたよ」
赤毛の少女が愚痴をこぼす。
「まだまだよ、もう少し進みたかったけれど……」
「暗くなって来たしな」
「そうね、野営できそうな場所を探しましょう」
二人はまた少し歩き、大木の根によって雨風を防げそうな場所を見つけた。
「あんたがまた、こんな事するなんて思ってなかったよ」
食事の準備をしながら赤毛の少女が言う。
「家出なんて年じゃないしね、そんな可愛いものじゃないわ」
「今度は、本気なんだね」
「家に縛られるのはもううんざり。それに、私は出来損ないだって分かったからね」
「それでも縛ってくるんだよね、あたしたちの家は」
「そう、それに……」
「あたしの方が切羽詰まってたね、あんたが連れ出してくれなかったら今頃……」
「あら、意外と良い男かもしれないわよ?」
「やめてよ!まだそんな事考えられないよ!」
赤毛の少女は耳まで赤くして抗議する。
金髪の少女はふふっと笑い、差し出された器を受け取った。
「あら、美味しい」
「まあ、色々やらされたからね、これもその一つ。ただの器用貧乏だよ」
「凄いわね、私なんて料理とかさっぱり、本当何も出来なくて嫌になる」
「あんたはそんな事ないよ」
「そうかしら、力も人並みなら魔力も人並み、良い家に生まれたというだけで他が人並みなら、やっぱり出来損ないだわ」
金髪の少女の自虐的な言葉に、赤毛の少女は我慢が出来なくなり、声を絞り出した。
「あんたは、あたしを連れ出してくれたじゃないか……!」
その言葉は重みを持って、金髪の少女に衝撃を与えた。
「そんな事、言わないでくれよ……」
「そう、ね……」
金髪の少女は、すっかり自分を取り戻した。
不思議な感覚だった。
いつでもこの赤毛の少女は、自分に正しい道を示してくれる。
一緒に居れば大丈夫だと思わせてくれる。
「ごめんなさい、少し弱気になったわ、もう大丈夫だから」
「いや、いいんだ、そんな時もあるさ、強気なあんたが、らしいって思うけど、弱いところも見せていいんだよ」
何故か赤毛の少女の方が涙目になり、訴えかけていた。
「もっとあたしを頼って、いいんだよ」
赤毛の少女も、金髪の少女と同じだった。
家に必要とされない人間で、何とか利用しようとする者達の中に囲まれて生活してきた。
「ありがとう……」
金髪の少女がポツリと呟くと、こっちのセリフだ、と赤毛の少女が返した。
ふと目が覚める。
どれくらい眠っていたのだろうか、分からない。
暖かい布団だ、堅いがベッドのようである。
天井には蛍光色の明かりが灯っている。
何か夢を見ていたようだが、思い出せない。
夢から覚めた瞬間は微かに覚えていても、時間と共にすぐさま記憶から零れ落ちてしまう。
夢とはそんなものだと思う。
そういえば、こちらに来てから夢なんて初めて見たように思う。
少しずつ思いだす。
何が起きたか、何が出来なかったか。
魔法が使えた。
槍で戦った。
人が死んだ。
守れなかった。
私に責任は無いかもしれない。
無いかもしれないが、関係はある。
少なくとも、私はその場所にいたのだ。
あとは、クニオ……
クニオは無事だろうか、それに、リィンさん、と綺麗な女の人……
ガチャリとドアの開閉音がした。
無意識にそちらを見る。
「お、やっと目が覚めたか」
入って来たのは男だった。
全身甲冑に身を包み、正に戦士、といった風貌。
この世界ではあまり見ない黒髪だ。
重そうな鎧だから、きっと筋肉隆々だろう、体つきも大きい。
「意識ははっきりしてるか?」
男の質問に、自信無げに頷く。
寝起きだしそんなにはっきりとはしていない。
顔洗って、そろそろシャワーでも浴びたい。
「結構、それじゃ色々聞きたい事があるんだ」
男はそう言うと、近くの椅子を掴み、ベッドの横に座った。
初対面のはずだが、何者だろうか。
まあ、話を聞きたいというのならば。
「私も、聞きたい事があります」
男は私の言葉に少々意外そうな顔をすると、
「まあ、もっともだな、とりあえず状況を説明しよう、色々話してもらうから覚悟してくれよ」
と気を使っているのが分かった。
そうだ、私は記憶喪失だ。
また何か忘れたかもしれない。
あれからどのくらい時間がたったのか、皆は無事なのか、知りたい事はたくさんある。
久しぶりの更新、一気にキャラ出し過ぎたんでそろそろ掘り下げていきたい。




