適正武器審査 3
前回まで
シャルルです。
ケーキは美味しかったです。
しかしリィンさん遅いですねえ、せっかちなのに。
せっかく私が二人きりで話したいというから気を効かせてあげたというのに……
あんまりにも遅いから、新しく入荷したこの、まかろん?とかいうのもいっちゃいましょうかね?
それにしても遅いですねリィンさん、せっかちなのに……
あれ?私置いて行かれた?
そう、壊さなきゃならない。
監視員を見る。
ビクンビクンと痙攣している。
生きてはいるが、もう長くないのかもしれない。
横に目をやると、クニオがいる。
大楯を直ぐに構えられる態勢で、私と視線を交わす。
油断していないのだ、見習うべきだろう。
誰かに後ろから支えられている。
ではこれはリィンだ。
少し前に会ったばかりだというのに、私に気を許す変な女。
呼吸を整える、
大丈夫、少し精神的にダメージがあっただけだ。
いける。
「壊さなきゃ、いけない」
クニオが訝しむ。
リィンは、表情が見えない。
しかし私を支える腕がピクリと動いた。
説明しなければ、しかし言葉が見つからない、時間がない。
私は混乱していた。
だから、言葉を選ぶのを放棄した。
単語を発する、意味が伝わればいい。
「魔石、壊して、……魔石を……」
クニオは、やれやれやっぱり宿題やらなきゃダメかー、といった感じで立ち上がる。
「そうだ、そもそもキョウコがおかしくなったのはあれのせいだった」
「装置に何か仕掛けがあったとでも?」
リィンが答える。
そうじゃない。
「擬態……多分、……私と同じ……同じ……何か、魔石……に」
ああ、段々分かってきた。
私の最初の被弾、あれが何か特殊な魔法だったのだ。
装置の中のどれかが発した魔弾によって、私の中で何かが暴れた。
おそらく、監視員にも。
「監視員も多分、……おかしく」
「そうだ、キョウコからじゃない、監視員が襲われたのは装置を切ってから、つまり装置に何かあった訳じゃない」
「しかし、そうだな、うん、あの時キョウコの近くから監視員を襲う魔弾が見えたが」
「魔弾は魔石から発せられた」
「そして装置は止まっていた」
背後から圧が発せられる。
クニオが魔弾を大楯で受けていた。
「これを受けたらおかしくなっちゃうんだな!」
クニオはおっとっととよろめくが、何事もなかった様に態勢を立て直すと、油断なく構えた。
クニオの大楯は、前面が金属であるが背面は革製だった。
「楯を!捨てて!クニオ!」
声を振り絞った、頼む。
「"皮"はダメだ!」
クニオはカンが良い、既に何かしら怪しんでいたのだろうか、被弾部分の冷気を感じたのかもしれない。
「直接じゃなくても、かよ!『リリース』!」
クニオから物凄い勢いで楯が弾かれる。
緩やかな弧を描き、壁に激突した。
何かが、いやあれは魔石だ、動いた。
丁度楯の飛ぶ方向にいたのだ、避けなければ当たっていたのだろう。
「ナーイス、クニオ」
リィンが称賛する。
彼女もあれを見たのだ。
「いったた、でもあれはもう使えないかなあ」
クニオの楯を持っていた手の皮が痛々しく剥がれていた。
彼の視線の先を見ると、楯の革部分から氷の刃が無数に出ており、金属部分と分離しかかっている。
あのまま持っていたら針の筵だったであろう。
どこから取り出したのか、リィンが小型のナイフを投擲していたがかわされていた。
「意外と瞬敏、と」
恥ずかしそうに呟いていた。
「何の騒ぎです」
不意に扉が開かれる。
弓を抱えた綺麗な女性と、槍を持った甲冑の男が立っていた。
まずい、タイミングが悪すぎる!
既に圧が高まっている。
「避けろお!」
誰かが叫ぶ、誰の声か、私かもしれない。咄嗟だった。
しかし私の足はもつれ、ただ突っ伏して倒れただけだった。
魔弾が男に向かって放たれた。
男は簀巻きにされた監視員を見つけ、呆けている。
女性は弓を番えた、早い。
構えて、撃つ。
この単純な動作がいかに難しいか、私も知らない訳ではない。
流れる様な動きで放たれた矢は、吸い込まれる様に魔弾と交錯した。
矢は一瞬輝き、魔弾に打ち勝った様に見える、衝突により威力を失った矢は、そのまま地へと自然落下するだろう。
通常ならば、という前提だが。
今は違う、特殊な魔弾を受けた矢は荒れ狂い、破壊をもたらす災いとなる。
矢の本体部分が冷気を帯びてくるのが分かる。
矢羽から女性へ向かって二つの氷柱が伸びる、届かない、矢の木材部分である本体から冷気が伝い、氷柱を延長する、これで届く。
一瞬の出来事だ、避ける暇は無かった。
女性は驚愕している、目の前の事実を受け入れる事が出来ないように。
「ゼシカさん、良かった……」
男が女性を庇っていた。
二本の氷柱は男の胸と喉付近を貫いている、致命傷に見える。
氷で貫いている為だろう、直ぐに凝固してしまっているのか出血は無い。
それが逆に延命の効果を出しているのだ。
しかし現実は甘くなかった。
もう一つの魔弾が女性を狙う。
予想は出来た。
でも、止められなかった。
男が女性を庇う、断末魔の悲鳴が響く。
女性は戸惑う、何か必死に声を掛ける。
男性が力無く女性を見上げ……攻撃する。
これで、終わりなのか……
「ゼシカ!離れろ!」
リィンだ、先ほどと同じ様に数瞬で距離を縮めていたのだ。
鞭で男の被弾部分を打ち抜く。
と、さらに男を簀巻きにしていった。
何と言うか、冷静に状況を見ている私もどうかしているが、リィンの早業に舌を巻く。
「リィン、状況は」
「敵は魔石に擬態、浸食タイプの特異魔法を使う」
「闇属性か、氷結に闇付加タイプで間違いない?」
「問題無いね、あの魔法は無生物に効かないみたいだから、そこだけ気をつけりゃあいい」
「了解」
リィンがゼシカに完結に説明していく。
ゼシカの理解も早い。
「問題があるとしたら、直接当たったらアウトって事かねえ」
リィンのその言葉に頷くと、ゼシカは声を張り上げる。
「クニオ!あなたが頼りよ、剣で応戦!リィンは援護!」
指示を出しつつ、矢を番える。
そして私と目が合う。
「そこのあなた、こっちへ!」
問答無用の力強さがあった、私は震える足を抑え、立ち上がる。
不意の耳鳴り。
振り返ると、クニオが魔弾を剣で受けていた。
危ない、と思ったのは一瞬だった。
「『キャッチ&リリース』」
ギフト名を呟き剣を横に振り払うと、魔弾を撃ち返す形となった。
それを見ながらゆっくりとゼシカの所へ後退する。
魔石に命中、自身の魔法で氷塊となった……のは一瞬、バラバラと崩れ落ちて綺麗なものだった。
「だめだぁ、一瞬止めるくらいだなぁ」
クニオが絶望的かと思われる言葉を伝える。
「一瞬止まれば十分、クニオは近接で足止め、リィン、こっちで援護お願い!」
「よしきた」
「あなた、戦えるの?」
ゼシカが私に問う。
逡巡していると、リィンが横から答える。
「魔力は見ての通り結構ある、スピードはかなり高いね、ま、アタシにゃあ敵わないけどね!」
リィンは何故か誇らしげだ。
「そういや、パワーはどうだった?」
痛い所を突かれる。
「人並みかそれ以下だと」
「実践経験は?」
そしてゼシカの追い打ちだ、私は力無く首を横に振った。
「素質はあるが経験不足、か、いいわ、そこで見てなさい」
ゼシカは決断する。
矢を番え、射る。
やはり吸い込まれるようにそれは魔石へと当たる。
それこそ魔法のようだ。
さらに続けざまに第二射を構えている。
一射目は氷の楯に阻まれていた……が背後からクニオが迫り。
「とったああああぁぁあ!」
キィン、という甲高い、グラスを重ねた様な音が響く。
ゼシカがチッと舌打ちしたような気がする。
第二射はクニオの攻撃を止め、反撃しようとしていた氷の刃を撃ち落とした。
また部屋の圧が高まる。
「あれが来る!」
リィンが前に出る、しかし鞭では……
考える時間は無かった。
魔弾がこちらに肉迫し、リィンがその鞭で以って撃ち落とした。
ここから鞭が襲って来る、と思ったがそんな事は無かった。
「持ってて良かった鉄の鞭ぃ、ってね」
間を置かずにゼシカが一射放ち、そして二射目を番える。
「って冷た!、クニオの奴よくこんなの何回も受けれるな」
リィンが鞭を手放した。
冷気を帯びているが襲って来ることは無い。
先ほどゼシカの放った一射目は命中、クニオがさらに追撃し、明らかにダメージを与えた。
私は無意識に武器を持った。
先ほどゼシカと共に来た男が持っていた槍だ。
何だか不思議と手に馴染む。
魔石が輝きを放った。
「いけない、自爆だわ!」
ゼシカが気付き、クニオは絶望の表情を浮かべている。
「もう止められない!」
『キャッチ』でどうにかならないのか?
いや、もうずっと使いっぱなしだ、そろそろ体力も限界なのかもしれない。
「キョウコ、さっきの!」
なんだ?リィンがハッとしてこちらを向く。
「魔法だ、キョウコ!」
クニオが何かに気付く。
私は走り出す。
私に対する壁のつもりか、魔石の周りに氷の膜が点在される。
私は手にした槍でこれを粉砕、速度を保ったまま接近する。
魔石の輝きが強くなる、そして同時にあの圧が発せられた。
「たあああぁあ!」
槍を突きだし、魔弾と正面からぶつかる。
受けきった、槍が冷気を帯び、災いの兆候を見せる。
どうする?これ以上は……
刹那、槍が真っ二つに折れた。
その後弾かれた様に飛んでいく。
「動きだけ『掴んだ』!キョウコ頼む!」
肉迫する、魔石は『キャッチ』で動かないが、それだけだ。
武器は無い、悩んでいる暇はない。
リィンが知っていた、私の魔法、あの時見ていたとしたら、あれしかない。
両手で魔石を包み込むようにし、手のひらから魔力を終結させる、そして氷の塊で以って、対象を封じ込める。
「『フリーズボール』ぅぅう!」
全力全開の魔法だ。
こいつは他人とは言え、人間の命を奪った、そしてクニオや仲間を危険にさらした。
こいつだけはここで!
全身から力が枯渇していくのを感じる。
氷塊は完成している、私はそのまま倒れた。
「キョウコ!」
リィンの声が聞こえ、支えられた。クニオは?
顔を向けると、少し笑って、私と同じく倒れこんだ。
支える者はいない。
それが少し可笑しくて、男って大変ね、等と思う。
ゼシカが近付くと、氷塊を睨んでいる。
そして、氷塊に亀裂が走る。
それは徐々に加速度を増していき……
私はもうダメなのか、と思う。
全員満身創痍だ、これ以上は戦えないだろう。
絶望的だ。
氷塊が二つに割れる、それはもう、呆気ないほどに。
割れた氷塊は崩れ落ち、中からはあの魔石が現れた。
魔石は中心から二つに割れていた。
私は肩を落とし、力が抜けた。
そして、安心して意識を手放した。
長くなりました。
毎回このくらいの量書ければ良いんですが、更新に時間かかり過ぎた……
スピード上げたい。




