七夕なAB
学生×学生
七夕小説
下手くそなABの二人
「…である。だから、短冊に書いた願いは叶わない」
は?
嘘だろ、おい…。
キーンコーンカ(略
寝ていた俺の耳に届いたのは最後の一言だけで、理由は聞いていなかった。
何の授業だったかも、なんでそんな話しに入ったのかもどうでもいい。
短冊に、書いた、願いが、叶わない?
強調を意識しすぎて言葉を切りすぎた…。
…じゃないっ。
「おいCっ、どういうことだっ」
「うぇっ?ち、Bっ?」
「ちくびっ?ふざけんなっ」
「落ち着けB、ちょっと待てって言ってんだよ」
隣の席のCの襟を掴んで詰め寄る俺を、後ろにいたDが止める。
頭を叩かれた、痛い。
「何で荒れてんだよ」
「俺の願いが叶わないってっ」
「は?」
CとDで顔を見合わせて首をかしげている。
「短冊っ」
「あぁ、あれか」
「さっきの授業の…?」
「俺寝てたからほとんど聞いてなかったっ」
納得した顔で頷くDによると、織姫と彦星がいるどっかの星は地球からすげぇ遠いとこにあるから願いが届くまでになんとかかんとか。
細かいことはどうでもいい。
「まぁだから、叶うとしても何十年も後なんだと」
「困るっ!!!」
「今日妙にテンション高いな、なんだよ」
五月蝿そうに顔をしかめるDにだんだんと頭が落ち着く。
気がついたらCは別の友人のところに行っていた。
「昨日、Aと短冊書いたんだよ…」
「あぁ、明日は七夕か」
毎年七夕の数日前になると、二駅離れたところにある広い公園に、大きな笹が飾られる。
その笹は短冊を吊るすとどんな願いも叶うと有名だ。
「Aからのちゅー期待してたのに…」
「はっ?お前等付き合って半年過ぎてんだろっ?」
「過ぎてますよー、でもAが恥ずかしがって自分からはしてくれねぇの…」
「あぁ」
ガラッ
「B、飯」
「ぉー、今行く。じゃぁ、また後で」
教室の扉が開かれ、隣のクラスのAが入ってきた。
話しは途中だったけど気にしないでAの所に向かう。
「…はぁ」
「B…?」
「…はぁぁ」
「どうした?」
昨日からずっと楽しみにしてたのに…。
Aからのちゅー…。
「…なんでもない」
「…?」
「…大丈夫」
隣で弁当を食うAが俺の心配をしているのがわかる。
もっと楽しく昼飯を食いたいけど、今日の俺はそんな気分にはなれない。
ごめん、A…。
「…ごちそうさま」
「もういいのか…?」
弁当の中身は半分ほどしか減っていない。
「今日は俺、先に教室戻るわ」
「そうか…」
後ろから視線を感じる。
心配してくれてるな、と思って振り向いたけど気のせいで、まだ残っていた弁当を食べ始めていた。
なんか寂し…。
放課後、午後の授業を寝て過ごしたらしく頭をぼんやりとさせたまま目を覚ました。
教室を見回すと誰もいない。
時計を見ると、ホームルームが終わって一時間程たっている。
「さすがに俺爆睡しすぎしょ…」
掃除当番の音にも、クラスメートが帰る音にも気づかなかったとか…。
「てか誰か起こせよーっ」
CやDはともかくAも起こしてくれなかったことに驚く。
恋人になってからは、放課後になると一緒に一人暮らしのAの家に行くのに。
悲しいこと続きでめげそうになりながら、Aの家に向かう俺。
いつもよりも、少しだけ歩く速度がゆっくりな気がする…。
ガチャッ
貰っていた合鍵で扉を開ける。
すぐに奥から小走りでAが来た。
「おかえり」
「なんで起こしてくれなかったんだよっ」
こんなことで、って言われるようなことかもしれない。
でも、俺はAと二人で帰る道が好きだった。
そう思ってたのが俺だけだったのかと思うと悲しくて…。
「…おかえり」
「なんでっ、「おかえり」」
「ぅ、…ただいま」
何故かおかえりしか言わないA。
よく分からないが怖くてただいまと返した。
「よし」
「へ…?」
「…ん」
「…っ」
意味が分からないまま、気がついたらAの顔が近づいてキスされていて…。
「ごめん、これがしたくて先に帰った…」
「A…」
まだ唇に残るAの唇の柔らかさ。
感動のあまり何も言えない。
「…っ」
「…Bっ?」
何も言えないから、何も言わないまま抱きしめた。
「ふーん、ふふーん」
「Bが鼻歌って珍しいね」
「そっとしとけC。願いが叶ったんだろうよ」
「願いって短冊の?」
「そう」
「Bの願いって何だったの?」
「Aからのキスだと」
「へー、Bの願いが届いたんだ」
「Bの願いが届いたのか、Bの願いが叶うように願ったAの願いが届いたのか…」
「ははっ、二人へのDの愛の力だったり」
「キモいこと言うなっ」
「いたたたたたっ」