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短編集  作者: そしゃく
6/12

落とし物



社会人×学生






リモコンを拾った。

テレビのリモコンか?


「ぁ、やべっ」


とりあえず拾ったリモコンは鞄に入れて、待たせてる友達の所に急ぐ。


「おっせーよっ」


「時間ぴったりじゃんっ」




「ぁー、疲れたー…」


夜中十時、アパートの階段をのぼる。

暗い階段をぼろい電球の灯りが照らしていた。

小さな蛾が飛んでいる。


「こんばんは」


「こんばんはー」


上の階から降りてくる人に挨拶をされ目を向けた。

電球のぼんやりとした灯りに照らされた誰かは、隣の部屋に住む綾瀬さんだった。


「こんな時間に外出って、コンビニか?」


財布から部屋の鍵を出してドアを開けると、そのまま着替えを持って風呂へ向かう。

シャワーを浴びて目が覚め、リモコンのことを思い出した。


「そういえば…」


風呂から出てコップに麦茶を注ぎながら考える。

明日にでも交番に持って行くか。

鞄からリモコンを出して見るが、家で使ってるテレビのリモコンとは少し形が違う。

試しに電源ボタンを押してみるとテレビがついた。


「ぉ、使えんじゃん」


電源はついても真っ暗な画面、チャンネルを変えようと一のボタンを押す。


「風呂?」


二を押すとトイレ、他にも玄関、リビング、台所、ベッドに切り替わる。

この部屋と作りは似ているが家具やテレビ等の配置が違う。

何処の映像だ?


ガチャッ

『ただいま』


扉の開いた音の後に誰かの声がした。

何処かで聞いたことがあるような…。

チャンネルをリビングに変えると人が映った。

綾瀬さんだ…。


『今日も斎藤さん凄く格好良かった…っ』


ベッドに倒れこんで枕を抱きしめる綾瀬さん。

普段のしっかりとした雰囲気からは想像できない。


「斎藤さんって、俺…?違うか、同じ名字なだけだよな…」


未だに斎藤さん斎藤さんと言いながらベッドの上で悶える綾瀬さんを見て、疲れで自分はおかしくなったのかとテレビを消して眠りについた。




「おはようございます」


「ぁ、おはようございます」


翌朝、部屋の前で綾瀬さんと会ったがいつも通りの反応だった。

やっぱりあれは夢か…?




「ただいまー、おかえりー」


夕方部屋に戻ってすぐリモコンを探す。

やっぱり昨日置いたところに置かれたままだった。

普通のリモコンでテレビをつける。

いつも見てるバラエティー番組の時間だ。

今日は有名なアイドルがゲストで出ている。


「ははっ、何やってんだこいつっ」


ソファに寝転がってテレビを見ていると、かすかに隣の部屋の扉が開く音が聞こえた。

急いで昨日拾ったリモコンでチャンネルを変える。

綾瀬さんは帰ってすぐ台所で晩御飯を作り始めていた。


『いつか、俺の手料理斎藤さんに食べてほしいな…』


なんて呟いている。

その後晩御飯を食べてからは昨日と同じ、テレビをつけてベッドでごろごろしながら斎藤さん斎藤さんと呟いている。


「ただいまー」


次の日も、その次の日も、そのまた次の日も家に帰って気がついたらあのリモコンを使っていた。

もうリモコンを拾ってから一週間だ。


ガチャッ


綾瀬さんが帰ってきた。

テレビをつけると、珍しく部屋に入ってすぐベッドに横になってしまった。

まだ晩御飯も食べていないのに…。

暫くたっても動かない。

寝てるのか?

少し心配になり始めたとき。


『祐二…』


っ…。

か細い声が聞こえた。

小さくも呟かれたのは、俺の名前。

同じ名前の知らない誰かかもしれない。

そんな風に思ったのは一瞬で、気がついた時には綾瀬さんの部屋の前にいた。


ぴんぽーん

「こんばんは、斎藤です…」





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