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短編集  作者: そしゃく
3/12

蝉の羽音



学生(ストーカー)×学生






「高村っ」


夏休みに入って三日。

蝉の鳴き声の騒がしさと夏の暑さに休むどころではない日々が続いている。

近場へ外出をするのも億劫な中、やっとのことで近所のコンビニへ行った帰り道、後ろから声をかけられた。


「久しぶりだなっ」


「…おー…」


振り向くと、爽やかな笑顔が眩しい見知らぬイケメンが立っていた。

顔に見覚えが無いが相手は自分の名前を知っているようだ。


「覚えてないかな?成花小で一緒だった倉木だけど…」


「あぁ、倉木な。すげぇイケメンになってるからわからんかったわ」


ごめん、知らない…。

でも小学校の名前も合っているしたぶん俺が忘れているだけだろう。

俺はこういう場面で相手に話を合わせてしまうタイプらしい。


「ははっ小学校ん時は悠真って呼んでただろー?苗字とか違和感凄い」


「そうだっけ?」


「そうそうっ。コンビニの帰り?」


悠真?は俺が手に持つコンビニ袋を見てそう言った。


「おー、悠真は?」


「俺は図書館の帰りー」


「図書館ー?何しに?」


図書館どころか学校の図書室にすら行った記憶がない。

静かな空間は別に苦手ではないが、図書室独特の空間はあまり好きにはなれない。


「ちょっと本を探しに」


「へー」


「此所だと暑いから俺ん家来ない?」


額の汗を拭う姿が目に入ったのか、そう誘われた。

確かにこのまま外で話していたら熱中症でぶっ倒れそうだ。

コンビニの袋から先程買ったジュースを出し一口飲む。


「近いの?」


「すぐ其所だよ」


「じゃぁ、行くかな」


悠真が指差したのは本当にすぐ近くにあったマンションで、自宅までの距離を考えつい楽な方を取ってしまった。

マンション内は外見から予想したとおりの綺麗な空間が広がっていた。

エレベーターに乗り部屋まで着くと、悠真は鍵を開け俺に中に入るよう促す。


「皆出掛けてんの?」


「俺高校から一人暮らし始めたんだ」


「一人暮らし?いいなー」


リビングまで行くと、コップに入った麦茶を出してくれた。

ソファの座り心地の良さに悠真が飲み物を準備する間一瞬寝てしまおうかと思ったほどだ。

クーラーも付けられ益々快適な空間に、ダラダラとしながら悠真と話す。

思い出話等をされたらどうしようかと思っていたがそういった話はなく、高校に入ってからの事や趣味についての話をした。


「あぁ、その漫画良かったよね」


「俺全巻揃えたっ。あー、もうこんな時間か…」


「帰る?」


「そろそろ帰らないと母親が煩いからな…」


時間はすでに八時を回っていた。

日も沈み月に変わっている。


「また来てね」


「あぁ、じゃぁなー」


連絡先も交換してマンションを出た。




それから夏休みが終わるまで色々な場所へ遊びに行った。

海に映画に水族館。

今までの夏休みはダルさに負け家を出ることなんてほとんど無かったが、悠真とは趣味も良く合い遊びに行くのが凄く楽しかった。

悠真は聞き上手なのか、高校に入ってからたまっていたストレスを一気に発散するかのように愚痴を言っても、嫌な顔一つせず聞いてくれた。


「大翔」


「んー?」


「夏休みが終わっても、仲良くしてくれる?」


「あぁ」


「約束…」


悠真も俺を名前で呼ぶようになった。

今思うと、どうして悠真の事を忘れてしまっているのかわからない。




夏休みが終わり、また学校が始まる。

約束したとおり、悠真との仲は夏休みが終わっても変わらない。

ただ一つ不思議なのは、久しぶりに見た小学校の卒業アルバムの何処にも、悠真の名前が無かったことだ…。





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