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短編集  作者: そしゃく
11/12

何を得た



学生(幽霊)×学生



死ネタ

※自殺駄目絶対






ざーざー


「かぜ、ひくよ?」


五歳ほどに見える男の子。

青い傘に黄色い長靴で、雨の中公園のベンチの前に立っていた。

公園の真ん中に立てられた白い時計は、四時を指している。

雨のせいか、公園内にはベンチに座る薄い茶髪の青年しかいない。


「はっ?ぇ、ちょ、お前俺が見えてんのっ?」


男の子が声をかけると、ベンチに座っていた青年がばっと立ち上がり驚いた様に声をあげた。


「うん。おにいさん、おうちはどこ?」


青年の反応を気にせず、落ち着いた様子で男の子は聞く。


「ぁ、あぁ家ね、帰れねぇの。お前ん家は?」


「ぼくのおうちはあっち」


「へー、俺遊び行っていいー?」


男の子が指差す方に目を向ける青年。

真っ黒な雨雲と雨のせいで辺りは暗い。


「いいよ、いこ」


前を行く青い傘に並んで歩くさらさらな茶髪の青年。


「ぼくはゆー、よろしく」


「ぁー、俺は恵斗。よろしくー」




ーーー




「ただいま」


「おかえりー」


顔立ちや雰囲気に昔の面影を残す男の子だった青年。

ドアを開けて一言ベットでごろごろしていた茶髪で昔と変わらぬ姿の青年に声をかけると、すぐにブレザーを脱いで着替え始める。


「傷、増えたんじゃねー?」


「少しだけね、大丈夫…」


心優しいゆーは、中学にあがった頃から同級生にいじめられるようになっていた。

クラスでリーダー的存在の男の子に、目をつけられてしまったから。

高校も偶然かその男の子と同じ学校。

中学と変わらずいじめられる今、なかなか友人もできない。


「本当、此処にいるときだけが心休まるよ」


倒れるようにベッドに寝るゆー。

恵斗は傍によるだけで、頭を撫でてやることもできない。


「ゆー…」


小さく呟かれた恵斗の声は、既に眠りについたゆーには届かなかった。




「おはよー」


「うん、おはよう」


いつもより早い時間に目を覚ましたゆーは、直ぐに着替えを持って風呂場に向かった。

恵斗は先にリビングでゆーを待つ。

ゆーのお母さんは朝食の準備をし、お父さんはソファでニュースを見ている。


「おはよう」


「ゆー、おはよう」


「おはよう、今日は早いな」


戻ってきたゆーは、いつもと同じように両親に挨拶をしてから椅子に座る。

恵斗はその後ろに立って、一方的に話しかけていく。


「ゆー、今日は休んだらー?」


「朝食できたわよ」


「いただきます」


三人分の朝食。

お父さんもお母さんの隣に座って朝食を食べ始めた。


「またいじめられるよー?ねっ、今日は二人で遊ぼー」


「お母さん、ソースとって」


「はい。お父さんは醤油よね」


「あぁ」


恵斗の声に返事が返ることはない。

それでも気にせず慣れたように話続ける。


「本当あいつムカつくわー」


「行ってきます」


ゆーが制服に着替えて家を出てからも同じ。


「珍しいね、今日は一緒に来るの?」


「最近やること無くて暇なんだよー」


「おばけも大変だね」


「本当だよーっ。ゆーがいなきゃ暇すぎて今頃死んでたー」


「ふふっ、もう死んでるじゃん」


他の学生も見え始めた頃、また恵斗は一人で話す。

下駄箱に着くと鞄から上靴を出す。

一度下駄箱に入れたままにしていたら切り刻まれてゴミ箱に捨てられたからだ。

横のロッカーで教科書等を出してから教室に入る。


「ゆー、足がっ」


恵斗に指摘され出された足を避ける。


「ちっ、つまんねーの」


「なんだこいつっ、ばーかばーかっ」


見えないのを良いことに、足を出した生徒の目の前で幼稚な暴言を吐く恵斗。

ゆーは気にせず席につく。

机は削られたり落書きされたりしてぼろぼろだ。


「おはよー、ゆーちゃーん」


高校に入っても中学の時と変わらずクラスでリーダー的存在のまさ。

ゆーはちらりと目を向けるだけ。


「おいおい返事返してくれねーの?調子ノッてるー?」


ガッ


「ゆーっ」


まさはそんなゆーに近づいてきてゆーの座る椅子を蹴った。

恵斗は反応するが声をかけることしかできない。


「ゆー、大丈夫っ?」


「僕が嫌いなんでしょ、なんで構うの…」


まさを睨むゆーは恵斗が傍にいるからか珍しく強気な態度でまさに返した。


「気にくわねぇんだよっ!そんな可愛い顔しやがってっ、好きなんかじゃねぇからなっ!!」


「何言ってるかわからない…」


「うっせぇっ!」


ガッ


「いたっ、痛いっ」


「やめろよっ、おいっ!」


怒ったまさに殴られるゆーを止めに入る恵斗。

まさに触れようとしても手が通り抜けるだけで、ゆーに触れようとしても同じ。

他の生徒はまったく助けようとせず、近くの生徒と話しているだけ。


「席につけー、ホームルーム始めるぞー」


先生も、気づいているはずなのに何も言わない。

恵斗は初めて、ゆーの身体に乗り移った。

そして、そのまま屋上に向かって走る。

廊下を走るゆーに乗り移った恵斗を、誰も止めない。


がちゃっ


「はぁ、はぁ、」


「ごめん…」


屋上につくとすぐ身体から抜けた。

恵斗は肩で息をするゆーを見て一言謝る。


「これからも、こんな日常が続くんだろうな…」


「ゆー…?」


「僕は何の為に頑張るの…?」


「…」


「ねぇ、恵斗…」


「なに?」


「もし僕がここから落ちたら、おばけになってずっと恵斗と一緒にいれる…?」


柵のむこう側を見つめるゆー。


(真っ青な空に浮かぶ雲でさえ、自由に見えて実際は風に流されながら動いている。

自由なものなんて、本当にあるの?)


「ゆーが、そう望めば…」


「そっか…」


柵を乗り越えながら考えることは、おばけになった後恵斗とどんなことをするかどんな所へ行くか。

ゆーは、笑顔で重力に従い落ちていく。


「これが僕の、自由だ…っ」




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