下手くそなAB
学生×学生
「エロ本じゃねぇの?」
Aはビクッと肩を震わせた。
そのままの表情で手元の雑誌を覗きこんできた後ろの奴を見る。
「お前か…」
「お前か…、とはなんだっ」
もうほとんど人がいない夜中のコンビニ。
客は漫画雑誌を立ち読みしているAと、その隣で成人向けコーナーの雑誌を読み始めたBしかいない。
「いいよな、巨乳」
「…は?」
「やっぱデカい方がいいよな」
客は二人しかいないと言っても、レジに一人髭の生えたおじさん定員がいる。
「何言ってんだよ」
「いや、やっぱ俺女の子好きだわ。うん」
「…っ」
Aは今まで読んでいた雑誌をパタンと閉じてレジへ持って行く。
「帰んのー?」
「おー…」
代金を払いビニール袋に入った雑誌を持つと、Bを置いて店を出た。
「何でついて来るんだよ」
「今日はAん家に泊まろうかなって」
「はぁっ?」
少し遅れて後ろをついてきていたBの発言に、Aは思いきり振り返った。
「終電行っちゃって困ってたんだよ」
「終電てお前ん家ここから歩いて15分だろ」
「あれー?そうだっけ?」
へらへらとわらうB。
本当に泊まる気なのか、気づいたらBはAの隣に立って鼻歌を歌いながら自宅と逆の方向に歩いていた。
「B…」
「んー?」
「帰れよ…」
「うん、今Aの家に帰ってる」
「違う、お前ん家に帰れ」
「嫌ー」
「じゃぁ他の奴ん家泊まれよ」
「嫌、今日はAん家泊まるって決めたから」
いつものことながら、Bは一度決めたらいくら言っても意見を変えない。
Aは軽く眉を寄せて俯いた。
周りに人の気配はなく、二人の足音だけが静かな空間に響く。
「今日は駄目だ、帰れよ」
「何で?」
AはBの腕を掴んで歩みを止めた。
「何でそんな俺に構うわけ?」
「何で?何でだろ」
Bは悩んでいるのか空を見上げてうんうんうなり始めた。
首を捻ったり頭をかかえたり、阿呆らしい顔に呆然としたAは明日の課題について考え始めていた。
「なんか、気になるんだよなー」
「は?」
ぼーっとしていたAは、Bの突然の言葉に気の抜けた声を出す。
「んで、いろいろ考えたんだけど」
「いろいろ、って」
「俺、恋してんのかなとか…」
「っ…好きな奴、いんの?」
のんびりとした口調のBは、またAの家に向かって歩き始めた。
一瞬の間後ろ姿を眺めることしかできなかったAも、小走りでその背中を追う。
「ぁー、たぶん?」
「たぶんって…」
「なんかさ」
「なんか…?」
「お前見てるとたまに胸がきゅんきゅんふわふわするんだよ」
「へ…っ?」
振り向いたBに見つめられる。
どういうことかすぐには理解できず、頭の中でぐるぐると何かが回っているようで、
「…っわ」
腕を引かれ抱き締められるのにも反応できなかった。
「…A、ん」
「…っ」
Bの顔が間近まで迫り、つい目を閉じてしまった。
すぐ後に唇に柔らかい感触を感じて目を開くと、性格のわりに整った綺麗な顔が目の前にあり、ゆっくりと離れていくその顔に見とれてしまう。
何をされたのか気づいた途端、だんだんと顔が熱くなり心音が全身に伝わっていくのを感じた。
「い、今…っ」
「早くAん家行ってさっき買ったエロ本読もうぜー」
「待てよっ、お前今キス…っ」
「ぁー、それにしてもあっついなー」
冬も間近な今、頬に触れた風は冷たくて暑さなんてまったく感じない。
「…っ」
街灯の下を通る後ろ姿。
目に入ったBの耳は真っ赤で、
「あぁ、確かに暑いな…」
にやける口元を隠すように、頬に手をあてたAは空を見上げてボソリと呟いた。