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短編集  作者: そしゃく
1/12

下手くそなAB



学生×学生






「エロ本じゃねぇの?」


Aはビクッと肩を震わせた。

そのままの表情で手元の雑誌を覗きこんできた後ろの奴を見る。


「お前か…」


「お前か…、とはなんだっ」


もうほとんど人がいない夜中のコンビニ。

客は漫画雑誌を立ち読みしているAと、その隣で成人向けコーナーの雑誌を読み始めたBしかいない。


「いいよな、巨乳」


「…は?」


「やっぱデカい方がいいよな」


客は二人しかいないと言っても、レジに一人髭の生えたおじさん定員がいる。


「何言ってんだよ」


「いや、やっぱ俺女の子好きだわ。うん」


「…っ」


Aは今まで読んでいた雑誌をパタンと閉じてレジへ持って行く。


「帰んのー?」


「おー…」


代金を払いビニール袋に入った雑誌を持つと、Bを置いて店を出た。


「何でついて来るんだよ」


「今日はAん家に泊まろうかなって」


「はぁっ?」


少し遅れて後ろをついてきていたBの発言に、Aは思いきり振り返った。


「終電行っちゃって困ってたんだよ」


「終電てお前ん家ここから歩いて15分だろ」


「あれー?そうだっけ?」


へらへらとわらうB。

本当に泊まる気なのか、気づいたらBはAの隣に立って鼻歌を歌いながら自宅と逆の方向に歩いていた。


「B…」


「んー?」


「帰れよ…」


「うん、今Aの家に帰ってる」


「違う、お前ん家に帰れ」


「嫌ー」


「じゃぁ他の奴ん家泊まれよ」


「嫌、今日はAん家泊まるって決めたから」


いつものことながら、Bは一度決めたらいくら言っても意見を変えない。

Aは軽く眉を寄せて俯いた。

周りに人の気配はなく、二人の足音だけが静かな空間に響く。


「今日は駄目だ、帰れよ」


「何で?」


AはBの腕を掴んで歩みを止めた。


「何でそんな俺に構うわけ?」


「何で?何でだろ」


Bは悩んでいるのか空を見上げてうんうんうなり始めた。

首を捻ったり頭をかかえたり、阿呆らしい顔に呆然としたAは明日の課題について考え始めていた。


「なんか、気になるんだよなー」


「は?」


ぼーっとしていたAは、Bの突然の言葉に気の抜けた声を出す。


「んで、いろいろ考えたんだけど」


「いろいろ、って」


「俺、恋してんのかなとか…」


「っ…好きな奴、いんの?」


のんびりとした口調のBは、またAの家に向かって歩き始めた。

一瞬の間後ろ姿を眺めることしかできなかったAも、小走りでその背中を追う。


「ぁー、たぶん?」


「たぶんって…」


「なんかさ」


「なんか…?」


「お前見てるとたまに胸がきゅんきゅんふわふわするんだよ」


「へ…っ?」


振り向いたBに見つめられる。

どういうことかすぐには理解できず、頭の中でぐるぐると何かが回っているようで、


「…っわ」


腕を引かれ抱き締められるのにも反応できなかった。


「…A、ん」


「…っ」


Bの顔が間近まで迫り、つい目を閉じてしまった。

すぐ後に唇に柔らかい感触を感じて目を開くと、性格のわりに整った綺麗な顔が目の前にあり、ゆっくりと離れていくその顔に見とれてしまう。

何をされたのか気づいた途端、だんだんと顔が熱くなり心音が全身に伝わっていくのを感じた。


「い、今…っ」


「早くAん家行ってさっき買ったエロ本読もうぜー」


「待てよっ、お前今キス…っ」


「ぁー、それにしてもあっついなー」


冬も間近な今、頬に触れた風は冷たくて暑さなんてまったく感じない。


「…っ」


街灯の下を通る後ろ姿。

目に入ったBの耳は真っ赤で、


「あぁ、確かに暑いな…」


にやける口元を隠すように、頬に手をあてたAは空を見上げてボソリと呟いた。





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