ああ、そういう事か
すいませんでしたぁ!
一か月も更新せずに本当申し訳ありませんでした!
今さら見て下さる方がどれだけいるのか分かりませんがよろしくお願いします。
その瞬間、私と先生との間の空気が一変した。さっきまでは、どことなく知り合いと相対しているような気恥かしさもあったが、今はもうない。さっきの約束を交わした異常は、私は全力で戦う。
そして、それを察知してくれたのだろう。やはり梶本先生も、曲がりなりにも先生なのだ。本気の私に応えるように真剣な空気になっている。
“居合い撃ち”をさっき使ってしまった以上、奇襲の類はおそらく不可能。天女の羽衣を使って空に舞い上がるのがベターだろう。
ただしその考えを読んできたのか、途端に先生は校則を書き変えた。
「教師スキルLv3“校則”、装備品の特殊能力の使用を禁止する!」
そのように書きかえられて、私は宙へ舞い上がるのを止めざるを得なかった。そうすれば確実に動きを封殺され、一気に相手の攻撃が私に当たるであろうから。
さっきも言った通り私に“居合い撃ち”はない。しかも装備品の能力が使えないと、韋駄天の草鞋による高速移動も不可能。奥義を封じられたと言っても過言ではない。
ならば、“神託”と弓矢で対抗するのみだ。
「“剛弓”! ……技合成」
まずは貫通力の高い剛弓を放った。溜め時間も短く、攻撃力は高い。間違いなく弓を使う上で最も役に立つ技だ。おそらく今の私の攻撃力だと、先生は一撃で倒せるはず。
しかし先生もそれなりにQuest Onlineで実績を積んでいるらしく、私が矢から手を離し、それが飛び立つ瞬間を察知して飛び退く。紙一重で“剛弓”をかわした後に、そのままこっちに駆け出してきた。
肉薄するほど近づかれるとかなり不味かった。こちらは矢筒に手を入れ、錬成し、弓につがえて狙いを定めて、そして射る。だが剣にとっては間合いさえ詰めれば後は振るだけ。
やはりどうにかして近づかれる前に倒す必要がある。
普段ならば羽衣や草鞋の能力で回避できるのにと、私は小さく舌打ちをした。
だが、その時になってようやく私は自分自身の甘えに気付いた。いつから、そういったものばかり頼りにしてしまっていたのか、と。
「ああ、そういう事か」
今まで私が自分自身の戦い方にイマイチ納得できていなかった理由が分かったような気がした。装備している弓の攻撃力がとてつもなく高いがゆえに一発当てればほとんど勝ち。“居合い撃ち”で“殲滅の大剛弓”を使えば勝ち。相手の攻撃は他の何かしらの因子の補助により、当たらない。
そんな風に自分の能力が何一つ発揮されることなく、道具に頼り続けていたからこそ、私は納得ができていなかったんだ。今の私は道具を使っているのではなく、道具に使われているに過ぎなかったからだ。
もっと、“頭を使って”……“策を巡らせて”勝つんだ。
そして偶然にも、心配性な自分の性格がもう既にそのための伏線を張っていた。だからこそ、これからの攻防であれを生かせばよい。
「“弓矢の雨”」
まずは、相手の接近を阻む。もしくは相手と自分との間合いを悟らせないようにするのが第一。そう思った私はすかさず弾幕を張った。何百本という弓矢が前面に展開される。
壁のように拡散していくその軌道は、回避不可能。だけど、弾き飛ばせる程度の攻撃力にはしてある。
「おらっ!」
“気剣”、自分自身の剣に闘気をまとわせ、その刃で地面を叩くようにして、先生は空を切った。高密度のエネルギーが衝撃波を生み出し、先生の周囲のものだけ一斉に吹き飛ばした。
だが、これで歩みを止めることができた。すかさず私は広い競技場を回り込む。これで、多少は相手を揺さぶれる。そして、その動きが大きければ大きいほど、次第にずれも大きくなっていく。
「“剛弓”技合成“弓矢の雨”!」
今度の攻撃は、一発一発の貫通力も高い“剛弓”による弾幕だ。さすがにこれは先生にも対処しきれないかもしれない。けれども、対処できるかもしれないそのギリギリの攻撃力。
でも今の私はそこでおごらない。確実に勝つために、絶対に油断はしない。
次の攻撃に備え、矢を錬成する。先生が本当に“剛弓”の雨をなぎ払えるかを見届ける前にもう、狙いを定め始める。
「“鬼刃憑依”!」
今度は赤黒いパワーが先生の握りしめる刀剣を包み込む。さすがに“英雄之剣”はないようだが、これぐらいは覚えているらしい。
先程同様に地面に叩きつけて、巨大な衝撃波を放った。だが、今度のその斬撃は、その場に留まり先生を護るための一手ではなく、まっすぐ突き進む攻撃の一手だった。
そして先生は、もう既に勝ち誇ったような表情をしていた。
「そのまま貫くぞ」
私の攻撃をかき消しただけでなく、それでもなおその力の本流は押し寄せていた。刻一刻と私がそこにいると思いこんでいるであろう地点へと向かっていく。
だけども、先生が見ているのとまったく別の方向に立っていた。大体角度で言うと三十度ぐらい違うだろうか。私から遠く離れた所を、強い闘気が駆け抜ける。
“蜃気楼の弓矢”これも私の得意技だ。いや、これから先の闘いで勝ち抜けるにつれてその重要性はしだいに上がってくるであろう力だ。
先生との賭けを始めてから最初に撃った剛弓、その時にこの矢の性能を合成しておいた。それによって生まれた幻覚のため、先生は見当違いの方向に矢を射る羽目になったのだ。
「“流星群”」
複数の技を合成して、一気に勝負を決めるために私はそれを撃った。攻撃範囲だけでなく、時間が経つごとに速度を増し、爆発によって高威力を叩きこむコンボ。最初に生み出したのが本庄 夜空だというのが少し癪だけど。
だけどもここで、一つだけ予想外なものを私は目にした。おそらく私はかなり驚いた顔をしていたのだろう。そのためかは知らないが先生はこちらを見て不敵に笑っていた。
「回避すると思ってたぞ、神崎」
この日のために俺は、昨日の内にこれを習得したんだよ。
そう口にした梶本先生の武器は、真っ青に染まった。込み上げてくる、大海のように底の見えない、凄まじいエネルギー。
「剣の奥義、“英雄之剣”だ」
急に先生が本気になった。
作者の自分もびっくり。
試合としての勝敗は大体分かり切っているからそっちのけですが(←)さて、賭けはどちらが勝つのか?




