初めての
すいません、結構普段よりも間隔あきました。
「と、言う訳で今日の対戦相手は分かってるわね?」
私がそう問いかけると、夕凪は不意を突かれたようで、黙り込んでしまった。今、自分がどこにいるのか分からなくなったかのような、ちょっとしたとまどいが滲み出ている。
きょろきょろと周りを見渡しながら、ようやく自分の位置を確認できたようだ。
「分かってるけど……、何か早くない?」
「何が?」
「いや、だって……マナとかに勝ったのはついさっきみたいな感じなんだけどな……」
「そんなの知らないわよ。あんたは一日中家にいるからそう感じるんでしょ?」
未だに、今晩の試合のことを呑みこめていないのか、夕凪が首を傾げている。なんだか、急に時間が飛んでしまったかのように感じているようだが。確かに昨日の対戦相手は色々あったが、普通にその後時間は過ぎたはずだ。
まだしきりに首を傾げている夕凪だが、そろそろ諦めたようでそれについては言及しなくなった。
「で……お父さんと先生だよね」
「そうよ。装備は全然大したことないけど、身体能力は成長しきった大人だけあって私達よりかは強いわ。連携も、私達ほどじゃないけどそれなりにできるし、何よりもお父さんは昔何か習ってたから、戦い慣れてる」
その代りと言ってはなんだが、先生の方は前の試合の段階ではあまり大したことはない。あの人は、緊張のせいで全然実力が出ていなかったからだ。そのために、足を引っ張っているように見えたが、本調子だとそれなりに活躍するだろう。
少なくとも二十半ばの男性なのだから、元々のフィジカルは私や夕凪より強い。ゲームのシステムではない、体力的なスタミナは二つのコンビの四人の中で飛びぬけている。
だが、そんな先生の一番の得意技が私達には通用しない。あの二人組の戦い方は、二人を分断してからの、二対一。でも私達は遠距離武器故に、分断されても支障は無い。それゆえ、説教スキルが無力と化す。
「やりにくいなあ……精神的に」
「まあね。これがお父さんとかじゃなかったら、結構あっさりいけそうなんだけど」
「向こうも意地見せてくるだろうしねぇ」
そう、それが問題だ。あの二人は本来以上の力を出しかねない、かなりの危険因子だ。というよりも、実際に彼らにとっての一回戦がそうだった。明らかに格が上の敵に対する下剋上。それは、観客の心を震わせた。
もしかしたら今回も、そう思われているかもしれない。
「でも、僕等も負けられないんだ」
夕凪の言う通り、私も負けられない。お父さんたちが夕凪をしかるのは構わないのだが、私がここで負けてしまうと夕凪との賭けが不成立になる。そうなると、またこいつは学校に行かなくなるだろう。
それは避けたい。自分があの二人を誘導したようなものだが、ここでお父さん達に負ける訳にいかないのだ。
だが、何の効果も無いと言うのは困る。何かしらあの二人が説得して、それが夕凪に響いたうえでの勝利が望ましい。
「負けないよ、あんたは」
「うん、僕たちは」
もう後五分程度で、私達は三番競技場に向かわなければならない。普段ならばもう少し早めにスタンバイしておくのだが、今日は少し事情が違っていた。
一組だけ、観戦しておきたい試合があったのだ。先日、夕凪に喧嘩を売ったらしいナルシストじみた男の試合だ。
ただし、一点だけ予想外だったのはその男が私達が怒っているよりも強かったことだ。
「美しく散れ……」
鉄扇を両手に持ち、金髪の男子が舞を演じた。瞬間、大ぶりに振った扇からは斬撃が飛び出した。彼を中心として、放射状に全方向に広がって行く。なびく金髪の隙間から、涼しげな顔が現れた。
確かに美形と言えなくもないが、夕凪と比べるとかなり劣る。それが率直な感想だった。何よりも、その自信満々な表情が気持ち悪い。
そして、相方の女性も同じようなことを想っていたらしい。女子もそのナルシストも、歳は私達より一回り上ぐらいだろうか。
「いつもいつもキモイんだよ、なよなよ男子!」
毒を吐いた彼女は、手なれたナイフ捌きで、目の前の敵を斬り刻んだ。距離を取ろうとした敵の大柄な男だったが、そのまま間合いを詰められて、またしても斬りこまれる。
一撃一撃は大したことないが、細やかに削ってくる。そんなタイプの攻め方だった。
「“針千本”」
彼女が一歩退いて、刃先を対象へと向けると、どこからともなく現れた無数のナイフが、その男を包囲した。逃げ場は無く、前後左右に加えて上からも狙われている。
そして取り囲まれた彼の顔には、分かりやすく諦めの色が浮かんだ。もう逃げられない。そう思った彼は勝負を投げだして、腕をぶらんと垂れ下げた。
そして弾幕とも呼べそうな、千本の刃は彼を貫いた。
「うっし、勝利」
さばさばとした口調で彼女はそういうと、自分のパートナーを振り返った。どうやら、容姿の方は自身の方が過剰すぎるようだが、実力の方は中々のものだ。
もうとっくに相手を倒して、決めポーズまで取っていたぐらいなのだから。
「……強いわね」
「そうだね。あのナイフ持ってる女の子、相当強いよ」
「鉄扇の方は?」
「……うーん、あっちの女子よりかは弱いし……さすがに負ける気しない、本気なら」
力を押さえている今だったら、結構不味いかもしれないけど。そのように夕凪は付けくわえた。つまりは勝てるかもしれないとすると、今の私でも充分勝てる敵のようだ。
だけどきっと、あの男はまだ本気を出していない。見栄えに気を配った今の戦い方ならば、という話だ。なりふり構わず戦った場合は、彼は実際ものすごい猛者じゃないか、という不安がある。
「でも、先のこと考えても仕方ないよね」
「そうね。まずは、お父さんたちだしね」
じゃあ行こうかと夕凪が出口の方へと促す。もうそろそろ時間が押しているので私もそれに従った。
待ち遠しいのか知らないけれど、とても嬉しそうな声で夕凪は、ぽつりとこう言った。
「初めての反抗期だ」
そろそろ忙しくなってくる今日この頃。
ですので、また更新頻度は落ちますが、よろしくお願いします。
後宣伝を(←オイ)
昔書いていた妖怪と陰陽師の話をこちらに上げると思うので、お暇があったらお願いします。




