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決着はもうついている


 マナが向き直ったその先では、光線銃の残光が飛び交っていた。赤や黄色の極彩色の線が描かれては消えていくその光景を見て、彼女は舌打ちした。自分の相方の呉箕が、敵である夕凪に手を抜かれていて、なおも負けているのだから。

 こっちはもう終わっているのにそっちは何をしているのかと思っているのだろう。苛立ちがストレートに顔に浮かんできている。自分もまだ、決着がついていないことも知らないで。

 いや、それはきっと間違いだ。もう決着はついている。

 私の勝ちで――――――。


「おいゴミ、さっさとしろ」

「さっさとって……無理だって。勝てないって。それに……」


 気弱なその発言に、より一層不快な表情でマナは睨みつけた。これだからお前は嫌いなんだと呟いている。使えない、どうして私がこいつとペアを組まされたのかと、ずうずうしい言い草だ。

 少し頭に来ている、というのもあるのだろう。だが、それでも呉箕が何かを伝えたがっているという事ぐらい察しても良いのではないかな。さっきから、余裕がないのに彼は何度もこちらに視線を投げている。

 自分がやられるかもしれないのに、相棒のマナを気遣って、それを伝えようとしている。なのに彼女は、まだ気づいていない。


「あのさー、お姉さん。あんたにも問題あるよ」

「どうしたの、イザナギ」

「だってさ、そもそも可笑しいと思ってないの?」

「何がよ」


 あまりにもの鈍感さに耐えかねたのか、夕凪が語りだした。かなり呆れたような口調で、呉箕を弁解してやっているように聞こえる。いや、ここまでぼろカスに扱われている彼を、本当に弁解しているのだろう。

 もう既に呉箕には勝てそうなので、夕凪の敵意は、マナの方に向いていた。


「僕と美波は大体同じぐらいの実力だ。そしてあんたと呉箕も実力に大差はない」

「あるわよ」

「でも、僕からすると二人とも、一対一なら勝てなくはない」

「自慢?」


 マナが嫌味っぽく訊き返すが、夕凪はそんなものに耳を貸さなかった。


「ということは、あんたの、あの程度の不意打ちで美波を倒せるはずがない」

「それ……どういう意味よ」


 すると夕凪は、たいそう間の抜けた声で、たった一言だけ口にして見せたのだった。

 『回れ、右』と。

 マナが振りかえると、丁度私と目が合った。最初はそれが信じられなかったようだが、次第に状況が呑みこめてきたのだろう。驚きのあまり、足をもつれさせて倒れ込んでしまった。


「何で……」

「ごめんなさい。既に“視て”たから、避けれたの」

「どういう……」

「チェックメイト」


 地道にエネルギーを溜めていた“殲滅カタス大剛弓トロフィ”が火を吹いた。私の弓から放たれた光の矢は、マナと呉箕、二人を同時に捉えた。あの二人に、回避できるような能力のある防具は無い。

 万策尽きて呆然としてしまったのか、マナは生気のない顔で立ちつくしていた。迫りくる広範囲の攻撃に、対処する手段なんて彼女には残されていない。

 誰もがマナの敗北を覚悟したその瞬間、私の“殲滅カタス大剛弓トロフィ”は、また別の奥義と衝突した。

 大気を引き裂くような、莫大な光のエネルギーが、一筋の閃光となってぶつかっている。眩い光は、莫大なエネルギーとなって、一本のレーザーを構成している。“殲滅の大剛弓”を、真正面から受け止めていた。

 何かと思えば、呉箕が“居合い撃ち”を使って、こちらの奥義を打ち消そうとしていたからだ。自らが、夕凪の攻撃を防げなくなってしまうのを覚悟で。現実に彼は、夕凪の“炎弾”を喰らって瀕死になっていた。


「“破壊衝動デストラクション”……!」


 パートナー、あるいは自分自身の攻撃は自分へダメージを与えない。何事もなかったかのようになる。ただしそれはすり抜けるのではなく、攻撃がそこだけ無かったことになるのだ。

 “破壊衝動”は、マナを素通りして私の“殲滅の大剛弓”と正面衝突した。威力は相当なもので、こちらにひけを取らない。むしろ、あちらの方が気合いが入っているぐらいだ。次の瞬間、お互いの攻撃は相殺され、かき消えた。


「けなげな相方だね。これでもゴミって言えるの、お姉さん?」

「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ」

「もっかい言っとくけどさ。あんたあんまり大したことないよ」

「言ってくれるわね」

「だってさ。僕等の実力をはかりにきたんでしょ? それなのに測りもせずに倒そうとして、窮地に陥って。大した情報も仕入れずに負けて帰るだなんてダサすぎるよ」


 自分の本来の目的を、自分よりも少し年下の少年に諭されたのが恥ずかしかったらしく、赤面して俯いた。それに、自分たちが圧倒的窮地に立っていることも、今そう諭されてから気付いたようだ。

 どうやら、このマナという女性は、冷徹だけど冷静ではないようだ。すぐに頭に血が上って、思考を放棄してしまう。


「さっきだってそうだ。美波がせっかくヒントを与えて、“視た”って言ってたのに、それも気にしない。それこそが僕等の最大の武器なのに」

「何を見たっていうのよ」

「未来」


 夕凪の返答に、彼女は再び苛立ちを取り戻した。ただし今度の苛立ちは、自分自身に対する苛立ちのようだ。少なくともあの二人は、夕凪についての情報はある。そして、私のジョブも知っている。

 そして、私が使ったジョブスキルは、夕凪も持っている。だから、“視た”というワードで、答えを導き出せるはずである、本来は。だが、そこまで頭が回っていなかったのだろう。


「でもって、僕にはもう未来が見えてる。二回戦突破、っていうね」

「まだ私達は戦え……」

「“居合い撃ち”……」


 私の声と夕凪の声が重なる。私が矢を掴んだ瞬間と、夕凪がホルダーにおさめた魔法銃にもう一度触れたのは、同時だった。


「“殲滅の大剛弓”」

「“破壊衝動”」


 競技場の右半分を巨大な光の矢が、左半分を特大のレーザーが貫いた。回避ができるようなスペースは隙間たりとも存在していない。

 極光の光が闘技場を包み込んだかと思うと、最後に凄まじい爆発が、フィールドを呑みこんだ。


「悪いね、僕たちの勝ちだよ」

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