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次こそはちゃんと


「弟の仇は討たせてもらうわよ」


 “英雄之剣”を発動させた剣を構えて、彼女がこちらを睨みつけてきた。普通ならば緊張しなければならないのだが、ついつい可愛いと思ってしまう。ファンだからしょうがないのだが、これではダメだ。

 雑念を振り払うように首を振った。そしてこっちも剣を構える。俺は“英雄之剣”を習得していないので、パワーでは必ず負けると言ってもいいだろう。その分、二対一で闘えるのだが。


「先に斬り込んでかく乱しますので、適当に仕留めて下さい」


 とっくに臨戦態勢に入っていた神崎さんは、そう言い残すと単身攻撃に移った。“歩法”で相手の背後を取り、弱めの攻撃で揺さぶって行く。


「“満月の陣”!」


 とっさに反応した夕闇は、その場で回転切りを繰り出した。喰らってはひとたまりもないので、一旦神崎さんは後ろに退いた。奥義の発する青い残光が彼女を囲むようにたなびいている。

 次の瞬間、その斬撃は彼女を中心として爆散した。


「神崎さん! “斬撃飛ばし”です!」


 各種剣技とセットで使われることが最も多い、剣の汎用スキル“斬撃飛ばし”。剣戟を飛ばすという、そのままのネーミングだが、使い勝手は良い。近距離武器である剣が途端に銃器に変わるようなものなのだから。

 距離が開いているため、俺はしゃがんで回避するのは容易だったが、神崎さんはかなり不味い。だが、起き上がってみるもその心配は無用だったようだ。

 “飛翔拳”という、上方向に広い攻撃範囲を持つ、アッパーのような攻撃がある。そのジャンプ力で飛びあがることで回避したようだ。この辺りは、元々スポーツが得意だったらしい彼の反射神経の優秀さが光っている。


「おっと……省エネ省エネ……」


 一旦彼女は、“英雄之剣”を解除した。剣を覆っていた、青白い炎のようなエネルギーが消えていく。

 ようやくできたその隙を、突かせてもらうことにした。

 できれば、もっと早い段階で使っておきたかったのだが、その前に発動されていたのだから仕方ない。だがこれで、相手のアドバンテージの一つを削ぐことができる。


「教師スキルLv3、“校則”!」


 一回の戦闘において、一回だけルールを定めることができる。ただし、『何らかの使用を禁止する』ルールであるという縛りがある。そして、それを破った場合、Lv2の“罰則”と同じような拘束がかけられる。

 その条件を回避するのが難しいものにすると、拘束は弱くなり、逆にそれを守るのが簡単な条件だと強烈な拘束能力に変わる。

 そして今、俺が設定する校則は……。


「奥義の発動を禁ずる!」


 既に相手が使用している状態で使用を禁止すると、回避不可能な校則となり、縛る能力が甘くなる。そのため、一度奥義を解いた状態で、今度は発動を縛る。すると、発動は相手の意図的な行動となるので、拘束は強くなる。

 そして俺たちは二人とも奥義は未習得。策に溺れることはありえない。


「……えらく厳しくなってきたわね」


 神崎さんの攻撃を剣で対応しながら、こちらへの警戒も怠っていない。どうやら、実際に夕闇は弟よりもこのゲームが得意で、闘いなれているようだ。

 普通に攻撃しても、ほとんどダメージが通らないので、結構力を溜めておく必要がある。何せ、asahiの方は“岩砕拳”が大して効いていなかったほどなのだから。


「“十文字切り”!」


 素早く剣を振るって、神崎さんが十字に切り裂かれる。だが、その姿は残像で、実際は“歩法”により、かすってすらいなかった。

 既に多くのMPを消費しているので、神崎さんには攻めるにしても限界があるのだろう。さっきから、近づいては迎撃され、回避するの繰り返しだ。ここらでちゃんと、俺が攻撃に移らなくてはならない。

 彼女は、一対一なら絶対に勝てると思っているため、かく乱要因である神崎さんから倒しにかかっている。現実問題として、神崎さんが倒されたら勝率は一気に落ちる。七割が一割未満になるぐらいだ。

 だからこそ、さっさと決めなくてはならない。


「すばしっこいですね……これなら!」


 夕闇は、突然神崎さんに向けていた剣を地面に突き刺した。そしてその直後に、魔力を注ぎ込む。

 地面に向かって魔力を送りこむこの技は、きっとあれだ。


「跳んでください!」


 その掛け声で、神崎さんは“飛翔拳”でもう一度空へと逃げた。次の瞬間には、いくつもの針が地面から飛び出て来ていたのだ。

 “裏剣山”、本来は針を突き刺すための剣山だが、そうではなく、そこから針を突きださせる、だから裏返しの剣山だ。拡散の方の“百裂拳”同様に、小範囲ならば全体的に攻撃できるので、上に跳ぶのが得策だ。

 素早く大地から剣を引き抜き、夕闇は上空を見上げた。もちろん、空中では自由に身動きができないので、絶好の攻撃の機会である。

 だが、その機会は潰さないといけない、俺に対して油断している今こそが、攻め時だろう。


「“ソードフィールド”」


 まっすぐ上に剣を振り上げると、夕闇の周囲に何百本もの光の剣が現れた。その凄まじい数のエネルギーの剣に、彼女は上空を除いて包囲されている。

 今にも襲いかかって来そうなその剣に、慄いた彼女はすぐさま上に跳び上がった。が、そこには当然神崎さんがいる。

 一石二鳥だと言わんばかりに彼女は神崎さんの方へと剣を向けた。回避がてら、目の前のこの男を倒しておこうと意気込んでいる。

 そのため、一見彼女は冷静に戦っているように見える。慌てて逃げながらも、カウンターの機会を窺っているのだと。だがやはり、何百本もの刃物に囲まれたので、冷静でいられる訳が無い。

 慌てていた彼女は、“校則”による縛りも忘れて、目の前の神崎さんを倒すために“英雄之剣”を発動させた。


「“十文じ……”あ! 間違え……」

「だが一応、奥義は発動しているよな」


 煌々と、青白い闘気が刃をまとっている。しかも、十文字切りを放とうとしたところまで来ているのだ。拘束されてさえいなければ、確実に大ダメージを与えられる状況に彼女はある。

 そして、そういう場合にうってつけの技を、最後に神崎さんは放った。


「“カウンタースピア”!」


 ジャンプ中の彼女は、手痛い反撃を受けて、下方向へと突き飛ばされた。勢いよく突き飛ばされ、地面に激突した彼女の周囲には、無数の剣が迫っていた。

 彼女は、一瞬悔しそうな顔をしたが、次の瞬間には諦めて、剣を放り捨てた。


「あたしの負けみたいね」


 最初で最後の関門。無事、突破できたみたいだ。

 緊張がようやく途切れて、膝が笑っている。ついつい立っていられなくなった俺は、地面に座り込んでしまった。


「あー……緊張した」

「ていうか先生、もっと攻撃してくださいよ」

「う……痛いところを……」


 そう言えば、ジョブスキルはフル活用したつもりだが、攻撃自体はほとんどしていないラストにしても、ダメージの八割は神崎さんによるものだ。

 結局、終始サポートに回っていた感じではある。


「次こそはちゃんとしてくださいよ」

「分かってますよ。だって次で最後なんですから」


 勝敗は関係なく、次の試合こそが全て。

 まあ、奴はというと、明日試合らしいからまだ勝ち上がってくる保障もないのだが。


「さて、問題児ゆうなぎくんの三者面談と行きますか」


結局の話オヤジが強い。

まあ、この親にしてあの息子娘あり、といった感じですね。


次回から、ようやく神崎兄弟の二回戦。

次回はまだ戦い始めませんが……。


予告としては、対戦相手は強敵です。

では、次回もよろしくお願いしますね。

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