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親父の力

「さて……いきますか」


 目の前に現れたタレントに、梶本先生が少しばかり委縮している。腹はくくったと言っていたが、やはりそれでも緊張するらしい。それに対して、向こう側はかなり飄々としている。

 それもこれも、圧倒的に装備や経験の書くが違うからだろうが。


「一試合目はチョロそうだね、姉貴」

「そうね、さっさと終わらせよっか」


 相手コンビは軽口を叩きながら、観客の方に目をやった。夕闇の方が手を大きく振る。音は聞こえないようになっているが、波打つ人の様子から、盛り上がっていることは察せられた。

 初戦突破のインタビューはどうする? みたいな事を言っているから俺達には勝って当然と思っているのだろう。


「姉と弟で出ているんですか?」

「え、はい。ていうか知りません? 私の事」

「すいません、テレビを普段見ないので。有名な方だってこっちから聞いたんですけど」


 先生の方を指さして、とりあえず相手とコミュニケーションを取ってみる。元々の性格なのか観衆の前だからかは知らないが、にこやかに対応してくれた。

 テレビを見ないというと、仕方ないですねと納得してくれたようだ。


「弟も最近売れ出してきたんですよ、ありがたい事に」

「そうなんですか。姉弟が仲良いのを見てると子供達を思い出します」


 実際に夕凪と美波は仲は良い。衝突はしょっちゅうだが、別に喧嘩とかではなく意見が食い違うだけ。三十分たてば元通りだ。それよりも、二人がかりで俺や母さんを舌戦で圧倒しているくらいだ。

 夕凪が不登校になったが、美波はそれを恥ずかしいとは思っていない。弟が不登校で、自分が恥ずかしいとかではなく、夕凪の将来を想って説得をし続けてくれていた。

 そういう風に、自分の子供たちが仲良く育ってくれているから、外で似たような景色を見るとついつい思い出してしまう。


「あれ、三十代に見えるんですけど……どんぐらいです?」

「四十越えてますよ、普通に」

「若いですね、その割に」

「よく言われます」


 会話を重ねるにつれて、相手の表情にも戦いに向けた気迫が徐々に浮き出てきた。最初の方は普通に話してくれていたが、途中から警戒のようなものをひしひしと感じている。

 かくいう俺も似たようなもので、イマイチその空気に乗れていないのは、梶本先生ぐらいだった。


「先生、そろそろ始まりますよ」

「あっ、はい」

「姉貴、あっちの頼りない方から行こうぜ」

「そうね。どっちかっていうともう一人の方が強そうだし」


 既に先生はターゲットにされているというのに、まるで危機感を持っていない。ずっとソワソワしたり震えたりだが、大丈夫だろうか。

 そして、その心配を無視するかのごとく、試合開始の合図がけたたましく鳴り響いた。宣言通り、二人とも一斉に標的に向かって駆けだした。

 弟くん……asahiは大型の斧を両手で持ち、魔力の衣で刃を覆っている。“オーラソード”ではなく“魔法マジック憑依コート”の類だろう。別にその二つでは特に大きな差異はないからどうでもいいけれど。

 それよりも、問題は狙われている先生だ。あんだけ浮ついたコンディションで、これを捌けるのかはかなり怪しい。

 援護に回ろうとした俺だったが、先生はこちらに開いた掌を向けた。大丈夫だと言うジェスチャーだと分かり、足を止めた。すると、先生は少し気弱な声で、ぽつぽつと喋り出した。


「なんかこの舞台って……すんごい武者震いするんですね」


 弱い声なのだが、震えは無かった。驚きで勢いが削がれている印象で、不安はどこにも見当たらない。そのまま、彼は大きく息を吸い込んだ。


「教師スキルLv1、“説教”!」


 大きく吸い込んだ空気を、声として一気に吐き出した。まるで大型モンスターの発する咆哮のような爆音が、相手チームの夕闇だけを襲った。かなりの攻撃範囲を持つ“説教”で一人だけを吹き飛ばす。かなり難易度の高いテクニックだが、もう既に体得していたのだ。

 asahiの方が姉を気にしたようだが、思いのほか体力が削られていないのにほっとしたようだ。それもそのはず、“説教”は凄まじい音圧で敵を吹き飛ばす技だ。威力はほとんど無い。その代り、吹き飛ばせる距離はかなり長い。

 事実、夕闇は百メートル近く吹っ飛んでいたのだから。これで、少なくとも十五秒程度はこの弟くんの方に集中できる。


「じゃあ、神崎さんお願いしますよ!」


 覇気を取り戻した声色を吐きだして、そのまま彼は剣を取った。こちらは、“気剣”を纏わせている。


「了解です」


 少なくとも、今は彼らは俺達のことを嘗めているはずだ。だから、今のうちにせめて一人は倒しておく必要がある。とすると、最初から全力でいくのが丁度いい。


「Lv1……“歩法ステップ”」


 流れるような動きで、一気に間合いを詰めてなおかつ死角に立った。俺の姿が消えたのに動揺して、後ろに回り込んだことには気づいていない。だが、チーム戦に慣れているようで、姉の方が瞬時に言葉を発した。


「アサヒ! 後ろ!」


 振り返ると同時に飛び退いたasahiだが、もう遅い。狭い範囲における攻撃範囲なら、俺のジョブは最強だ。


「Lv2、“百裂拳・拡散”。……“岩砕拳がんさいけん”!」


 俺が地面を殴りつけると、そこを発信源として放射状に攻撃が降り注いだ。そのうちの十発程度がasahiに降り注ぐ。岩砕拳は今の自分にとってかなり威力の高い攻撃なのだが、相手にとってはあまり脅威的なものではなかったらしい。

 目の前に立っている彼は平然としていて、HPも十分の一程度しか減っていない。


「レベルは高いけど装備が弱いね。そんなんじゃあ俺たちは倒せないよ」


 重たい斧を後ろに振りかぶり、水平に振りだそうとする。“歩法”で避けられるのだが、ここは補助役の先生に任せることにする。鈍重な小野の動きと比べて、梶本先生の対応は速かった。

 asahiが自分の得物を後ろに振りかぶったのを見るやいなや、剣にまとわせたエネルギーをすぐさま斬撃にして飛ばした。振りだそうとする手にヒットして、その狙いは大きく逸れて上に弾きあげられた。

 だが、あれだけ大きなものを使いこなすだけあって、腕力はそれなりにあるらしい。不意の攻撃を喰らっても手放すようなことはなかった。むしろ、上に弾きあげられたのを利用して、今度は叩きつぶそうと振りおろしてきた。

 ただし今度は俺の番だ。素手が武器なので、武器持ちよりはリーチは短いが、間合いの中での反応は優れている。相手の腹におもいっきり掌の腹をぶつけて、押し飛ばした。


「“カウンタースピア”……良い具合にこっちの力を使われちゃったな……」


 悔しそうにそう呟いた彼の体力は、先程と違って半分ほどに削れていた。相手の攻撃に合わせて使うことで威力がその分足されるカウンターの一撃。どうやら上手い具合に決まったらしい。

 彼は防御力もだが、攻撃力も高いので自分の攻撃を喰らった分一気に体力が削られた、という訳だ。


「でも、姉貴が来たぞ」


 振り向くと確かに彼女がやってきているが、関係無い。一人目のこの男を倒すまではサポートに徹する人物がいるのだから。


「“説教”!」


 もう一度、サイドから説教を喰らった夕闇はとんでいった。毛ほどのダメージも受けている素振りは無いが、またしても吹き飛ばされたのに精神的にやられたようだ。次からは警戒しようとしているようなので、極力次で決めたい。

 レベルだけは高いので、ジョブスキルはもう全部解放している。というよりも、装備を揃える時間も仲間もないから、とりあえずレベルを上げていただけといった方が事実に沿っている。


「先生、今度は“百裂拳・収斂しゅうれん”でいきます」

「仕留める気満々ですね、乗りました」


 そろそろ彼らの油断もなくなる頃だ。ここからは普通に全力で攻め立ててくるだろう。だから、こちらも自分達のベストを尽くさなくてはならない。

 我が子と語り合うためにも。今の自分は誰にも負けるつもりはない。最初で最後の関門。その言葉を思い出して、俺は地面を蹴った。

ここに来てお父さんが地味に強い。

先生も強い。


そして敵さんが弱……いえ、なんでもないです。


久しぶりの説教スキル。

ここで補足しておきますが一応、あれにはダメージがあります。

敵さんの防御が堅過ぎて通っていない……という訳でなく元々威力が低いので。

ただしストーリーの序盤の雑魚は蹴散らせますよ。

例を挙げるとコラッタを体当たりで倒せる感じです。

もしくは白魔導師でゴブリンを倒すみたいな……。

最後につけたすと僧侶でスライムを。


じわじわと親子対決が近づいてきております。

それでは、次回もよろしくお願いします。

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