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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
63/79

素人

テスト期間で部活が無いので今日も更新です。

こんなんで大丈夫か受験生……。


「“こくえんじん”」


 セーラの持つナイフが真っ黒に染まった。さらにはぼんやりとその刃の周りが揺らいでいる。名前からするに、真っ黒な炎をまとったナイフということだろう。“気剣”のナイフ版といったところだろうか。

 色がどす黒いことから考えると、紫電が使うような大剣で言う“鬼刃憑依”ぐらいのものだろうか。となると、かなり上位の技だと思われる。ゆかりは、どう出るのだろうか。


「“刺突しとつまい”!」


 新体操のステッキのように、ゆかりは槍を回転させた。そのまま、自分自身をステップを踏んでその場で一回転する。次の瞬間、遠くに立っているセーラ目がけてダンスのフィニッシュを飾るように槍を突き刺した。

 槍が突いたのは何も無い場所だが、刃からは突きが独立して飛んでいく。やはりこれも、刃を持つ武器で汎用しているスキルだ。ただし、これは舞を前提として習得するため、少し難易度が高い。

 そのかわり、威力の方も高く補正されているのだろう。元々槍は一点を突破するようなものなのだろうから。現に、細く短いナイフで弾き飛ばそうとしたセーラだったが、勢いに押されて大きくのけぞった。


「“追撃の舞”」


 新たに踊り始めたゆかりに合わせて、上方に弾きあげられた斬撃は、動きを止めた。そのまま空中で、飛び立つ方向を回転させ、転換している。それが真下を向いた時には、舞もフィニッシュに向かおうとしていた。

 ゆかりが飛びあがった瞬間に、空中でキープしているその斬撃は分散した。分散し、屋根を構成するように均等に上空で散らばっている。もちろん相手方もそれに気付いているので、喰らう前にゆかりを止めようとしているが、間に合わない。

 飛びあがったゆかりは槍の刃先を真下に向けて、しゃがみこむような姿勢になった。そのまま着地すると、刃は地面に突き刺され、ゆかりは片膝をつき、敬意を示すような体勢となった。

 そしてその瞬間、矢の雨のような強烈な攻撃がセーラを覆った。攻撃範囲はそれなりに広いが、それでも“弓矢の雨”と比べると狭い。ちょっと離れた所にいるアテナ達には届きそうにもないぐらいだ。


「どうよ」

「……舐めるなよ」


 たちまち、セーラの姿が真っ白い煙に包まれる。一瞬にしてその煙は消えるが、そこにセーラの姿は無く、あるのは木の幹ぐらいだった。その木の幹も何らかのエフェクトのようですぐに消える。

 客席から全体を見ている私は、セーラがどこにいるのかはよく見えた。だが、あの場に立つと動揺してそれどころではないだろう。実際に、ゆかりは後ろから迫ってくるセーラに気付いていない。


「ゆかりちゃん、後ろ!」


 アテナの掛け声に反応したゆかりは、慌てて振り返った。もう後三歩という位置まで迫ってきている。ここでカウンターを入れられるほど、ゆかりは戦いなれしていないのか、急いで逃げるように飛び退いた。

 しばし時間を置くことで、落ちついたゆかりは、ようやくカウンターに移る。槍の、丁度真ん中の部分を手に持って回転させている。


「“旋風の舞”!」


 実際に旋風が巻き上がるまで少しタイムラグがあるが、まだ二人の間には距離がある。その距離を詰めるよりも先にゆかりの攻撃が決まるだろうと思っていたその時だった。

 不意に、機敏な動きでセーラがナイフを投げた。破れかぶれにではなく、狙い澄ました動きで、その上で俊敏だった。一陣の風が走るようにして、短剣は宙を駆ける。まだ回転の甘い初期段階、そのためにあっさりとそのナイフはゆかりにまで届いた。一気に、形勢相手方に傾く。


「なっ……投げナイフ!?」

「ちょっと違うわよ。見た目はナイフにしか見えないけどこれは……」


 セーラは両腕を顔の前でクロスさせて、十文字に空間を斬るように下ろした。すると、さっきまで手には何も持っていなかったのに、先程のものと全く同じ短剣が、両手に握られていた。


「クナイよ」


 そう言ってみせると、右手のクナイを投げる。攻撃を受けてのけぞっていたので、そのままもう一撃喰らってしまった。装備が強固なので減少量は大したことはないが、それでも着実に削られている。


「クナイ……? ああ、忍者の!」

「そうよ。これはれっきとした投擲武器」


 左手に持っている方も投げつけられる。さすがにこちらは反応できたようで、藤村くんとの戦いで見せた光の盾で防御した。


「ジョブは“女忍者くのいち”」

「忍者にしては普通の服装ね。もうちょいジョブの個性出しても良いんじゃない?」

「ばーか、忍者が忍者って分かっちゃダメなのよ。ばれないように溶け込む、それが基本なの。装束とか覆面とか怪しい人アピールしてるみたいじゃない」


 完全に相手の言い分の方が正しい。実際に室町の忍者なんてそんなものなのだ。確かに、隠密行動の時はゆかりが思い描いているような服装をするのだが、普段は普通の服を着ているに決まっている。

 そして、相手のジョブスキルのうちの一つに手裏剣を投げるものでもあるのだろう。やけに投擲が上手だったからそうとしか考えられない。慣れとかではなく、完璧で、必要最小限の動きだったと思う。


「それにしても不意打ちってずるいなあ……」

「元からそういう戦い方をするものよ。闇討ちはこのジョブの十八番だしね」

「じゃあ私は、騎士ではないけど槍を使うから騎士道精神にのっとってみることにするわ」

「正々堂々に、ってこと?」


 ゆかりは強い眼差しで頷いた。策を弄する相手でも真っ向から迎え撃つ。真っ直ぐなのはゆかりらしいなと微笑ましく思ってしまう。


「さっきは効かなかったんだけど、あんたにならいけそうなのよ」


 光の盾を構えて、その後ろに自分は隠れる。そしてそのまま、グンニルのためのエネルギーをチャージし始める。さっき、藤村くんに対してとった戦法だ。

 着実に力を溜めているが、ゆかりは一つ忘れている。相手が“追撃の舞”を回避した時のことだ。あれはおそらく、分身か身代わりだ。それを使われるといかに攻撃範囲の広い“神槍グングニル”でも回避されてしまう。

 最後の一つはくのいちらしく“色仕掛け”とかかと思うが、フットワークを強化する類のものかもしれない。撃つ瞬間に後ろに回り込まれると、どのみちはずれてしまうだろう。


「随分と舐めた態度じゃない。全部防いでみます、って?」

「そういうぐらいなら突破してくださいよ」

「良く言うよ、ど素人さん」

「どっちがど素人ですか?」


 着実に時間稼ぎをするために、ゆかりは話を引きのばす。今度は、挑発されているからといって我を忘れてはいない。


「イザナギ様の本名も知らないど素人ファンの方が笑わせるわよ」

「調子に乗らないでよね」


 その言葉に怒りを露わにしたセーラは、一気の八本のクナイを錬成した。両手の、全ての指と指の間に一本ずつ挟んでいる。そしてそれを、一斉に光の盾に向かって投げた。

 それら全てが絶妙のコントロールで、全くズレの無い一点に全て突き刺さった。その技術には感嘆するが、きっとそれはジョブスキルの力。それに、盾を貫通できていないために、見栄えが良いだけに終わってしまった。

 だが、それを防がれる前からもうセーラは動いていた。あの攻撃では通らないと分かっていたのか、あの程度では終わらせないと意気込んでいたのかは私は知らない。何にせよ、彼女はもう駆けだしていた。

 防御中は顔も盾に隠しているため、ゆかりは今どうなっているのか見えていない筈だ。今セーラは回り込んで盾の裏からクナイで斬りかかろうとしていた。

 でも、それだってゆかりの予想通りだったみたいだ。

 無事、セーラはゆかりの後ろ側に回り込んだ。そしてそのまま、何も知らない筈のゆかりへの距離を詰めていく。またしても八本のクナイを手にとって、狙いを定めようとしたその時、ゆかりが振り向いた。


「引っかかったわね」

「なっ……だけど、まだチャージ中でしょ!」


 不意に振り向かれて驚いたセーラは、一気にクナイを投げつけた。焦り故のその行為だったが、それらはいとも容易く、光の盾によって遮られた。


「……いや、最初からグングニルは狙ってないわよ」

「え、じゃあ何を……」


 光の盾が、次第に強い光を放ち始めた。どうやら、これこそが本命の攻撃だったらしい。それにしても、私までグングニルを使うのだろうとだまされてしまった。


「慣れるとこの盾も便利なものなのよね」

「しまっ……」


 逃げようとするももう遅い。盾からエネルギーが正面に放出され、セーラに襲いかかる。弱いダメージしか通らないが、衝撃は大きい。そのままセーラは軽く転がり、倒れる。

 その動けない隙を突けばよりよかったものの、騎士道精神にのっとると言ったゆかりは、相手が立つまで追撃を行わなかった。

 でも、結局は立ち上がってすぐに攻撃してしまったんだけれど。


「“はくれん舞踏ぶとう”!」


 百から一を取った、九十九回相手を斬り、または刺す技。一撃一撃、丁寧に相手に攻撃を当てていく。本来九十九回なのだが、圧倒的な攻撃力により、回避されたのも含めて三十発程度で勝負は決した。


「あたしの勝ちね」


 得意げに、ゆかりは屈託の無い笑顔でそう言った。次の瞬間、轟音が響いたかと思うと、もう一人の選手が壁に衝突していた。どうやら、アテナから派手にやられてしまったらしい。


「ウォーミングアップにもならないわね」


 来年こそは必ず! そういう、敗北した彼女らの声が反響した後に、この試合は幕を閉じた。

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