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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
62/79

ドロドロしてる……


「……天野さんも気の毒だね、あんな相手と当たるなんて」

「あの人強くなさそうだけど……正直これもっと面倒くさいわね」


 藤村くん達の試合の後、私と夕凪は今度はゆかり達の試合を見に来ていた。やはりアテナの実力は夕凪も気にしているらしく、まだまだ全力を出していないアテナを警戒しているようだ。

 まだ戦ってもいない、しかもしばらくは全力の半分の力で勝ち抜くと言っている夕凪もあまり人のことは言えなさそうだが。

 唯一、ゆかりにとって救いなのは絡まれているのが自分ではないというところだろうか。それでも、気を抜いたら今度はゆかりがあの面倒な人の餌食になりそうだが。

 ゆかりの対戦相手は、女子二人組でいて、試合が始まるよりも前からアテナへと喚き続けていた。


「さっきからあなた達何を叫んでるの?」

「うるさい! 去年あんたに嫌な目に遭わされたんだから、その仕返しよ!」

「そうよそうよ。忘れもしない去年の事……」


 確か、最初はそんな風に話が始まっていたと思う。ちなみに、アテナが最初に聞いていたはずの、意味の分からない叫び声は、相手が二人とも同時に話していたからで、一人だけでなら言葉になっていたのだろう。だが、二人して甲高い声で喚いたから雄叫びにしか聞こえなかった。

 それよりも、彼女らは去年アテナからどのような仕打ちを受けたというのだろうか。少しダークな一面があるとはいえ、アテナはそんなに嫌味な人間ではないと思うのだけれど。

 そして、次の瞬間に私と夕凪はアテナの味方に立つことになった。


「あんたなんかがイザナギ様のペアになっちゃって!」

「許せない!」


 当の本人夕凪はというと、これに対して呆れかえっていた。「はあ?」と、普段の夕凪にしては珍しく、冷淡な声が漏れ出た。そんなしょうもない事で喧嘩をふっかけているのかと。

 そして次の瞬間に夕凪は手を叩き合わせて目を見開いた。何かを想いだしたようである。


「どうしたの、夕凪?」

「分かった。去年戦ったことあるよ。僕と対戦できる、みたいな事言って盛り上がってた」

「さすがの人気ね、あんた……」


 無課金でいて、なおかつランキング上位、容姿端麗な夕凪は現実でもそうだがQuest Online内でもかなりの人気を誇るらしい。むしろ、全世界にこのゲームが広まっているだけあって、世界的に見ると巷のアイドルよりも知名度や人気は高い。

 雑誌やらの取材も多数来ているようだが、不登校ってばれたら嫌だからと断り続けている。機嫌を損ねたくないのか、出版社や報道局はしっかりとその辺の情報を守っている。いつ夕凪の気が変わって出演してくれるか分からないんだ。

 そうなると、口止めされていることを言いふらした会社は嫌われるだろう、という意識から夕凪のプライバシーは守られている。ただ、私としてはそれで恥ずかしいと感じて学校に来てくれるなら報道してくれても構わないのだが。

 話は戻り、アテナの受難はまだ続く。


「ようやくイザナギ様と当たると思っていたのに!」

「結局あなた一人でしか戦わなかった!」

「私達の夢と希望を踏みにじったのよ」


 私はチラッと夕凪の方を見た。段々、夕凪は呆れを通り越して笑い始めている。


「そんな大袈裟な」


 アテナを見てみると、恐ろしいまでに真顔だ。呆れるでなく、冷やかすでなく、笑うでなく、ただ真っ直ぐに相手を見ている。飽きているというのが近いだろうか。


「結局何が言いたいの?」

「絶対に負けないんだから」


 夕凪をめぐる戦いが始まる、と言いたいところだが、もう既に結果は見えている。夕凪はアテナに一目置いている、しかし彼女らにはそのような事は一切無い。ゆかりは私経由で会おうと思えば会える。一番夕凪に近い存在だろう。

 ちなみに、彼女らはおそらくアテナどころかゆかりにも勝てないだろう。装備品のレベルが違う。今年は対戦することすら叶わない不遇な人達だ。


「まさか……その内私もあんなのの処理しないといけないの?」

「美波は大丈夫なんじゃない? テレビで姉って放送されたし」

「あ、そうね」

「でも、ファンクラブとかができるだろうからそういう意味では苦労しそう。現に小規模ながら沙羅のファンがいるからね」


 プレイ人口が異常なせいで、そんなものまでも出来ているとは。まあ、イザナギ様って彼女らが言うぐらいだから他にも似たようなのが居てもおかしくない。

 というか沙羅にファンがいるなら藤村くんとかヤバくないのだろうか。


「で、あなた達武器は? イザナギ様っていうぐらいだし魔法銃?」

「……プレイし始めてからイザナギ様を知ったから……」

「二人とも違う……」

「はいはい。まあ、今年も私が可愛がってあげるわよ」


 飽きている、という予想は正しかったようだ。多分、私は初めてでもアテナは今まで何回かこういう経験があったのだろう。そのせいか、この手の連中には飽き飽きしている、といったところか。

 もはや、同格のライバルになれるとはつゆほども思っていない様子である。


「アテナさん、私にも片方やらして下さいよ」

「あ、じゃああっちの背が高いよろしくね」

「分かりました」


 ゆかりがおもむろに槍を構える。それを見た相手方、特に身長が高い方は自分の武器も取り出した。おそらくあれはナイフだろう。剣と呼ぶには刃が短すぎる。

 もう一人の方は、自分の相手はアテナだと、すぐに戦えるように身構えた。手に持っているのは、本だろうか。何やらかなり古びた、分厚い書物だ。


「あなた、名前は?」

「ゆかりで良いわ。そっちは?」

「セーラ。それにしても残念だわ。私もあの気に食わないアテナと闘いたかったのに」

「私じゃ不満足?」

「ええ、だからさっさと片付けて向こうに行くわ」


 極めて冷静にしておこうと努めているようだが、明らかにゆかりは挑発に乗っている。多少冷静さを欠いても、それほど危機的にはならないだろうが、それでもあの単純さは何とかした方が良くないかな。

 ゆかりが受けたのは安い挑発。だが、追い打ちをかける挑発に、ついにゆかりもぶち切れようとしていた。


「二対一で去年惨敗したんでしょ、よく言うわよ。本来ならあんたら二人揃っても私にも勝てないんじゃないの?」

「言ってくれるわね」

「当たり前よ。それに、あなた私のことを嫌いになると思うわよ」

「何でよ?」


 まさかとは思うが、ゆかりは自分で勝手に爆弾を放りこもうとしていないだろうか。何だか不安でならない。自分から、夕凪のファンクラブ全部を敵に回すほど短絡的なことはしないと思うけれど……。

 だが、私の祈りも虚しくゆかりは、セーラにとって一番の爆弾を放りこんだ。


「私、二年前イザナギ様と一緒のクラスだったんだー。イザナギ様のお姉様とは親友だしー」


 その言葉にセーラ、さらにはもう一方の少女は血相を変えた。明らかに、苛立ちの対象が変わってしまっている。二人がゆかりを見るその目には、妬み、羨み、恨みの混じった複雑な心情が見える。


「気が変わったわ。私は全力であんたを倒す」

「ええ、手なんてぬかないでね」

「私達も始めましょう、引導を渡してあげるわ、アテナ」

「じゃあ早くしてよ。意味の分からない怨恨はさっさと片付けたいの」


 異常なまでにドロドロした試合だなーと改めて思う。我ながら、恋愛ごとに関してはサバサバしているから、自分が女子なのにも関わらず、女の子って怖いなぁと感じる。


「まあ、私の親友なんだからこの程度あっさり倒せるわよね」


 ようやく舌戦が終わり、火花を散らせるような闘いが始まろうとしていた。

夕凪をめぐって四人が対決……というには語弊があります。

アテナは夕凪よりも一回り、二回り年上です。別に恋愛対象とも思ってません。

せいぜい元相棒、もしくは現ライバルでしょう。

という訳で奪い合いは三人ということになるのですが……どうでも良いですね。


この一回しか出てこない対戦相手のキャラクターも印象強く残って欲しいからこういうキャラもいるんですが……いかんせん会話だけで文字を使ってしまうのが難点。

ちょっとストーリー自体のテンポが悪くなるのが残念なところ。

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