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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
61/79

もう負けたくない

前半後半で視点が違いまます。


「ああ、もう腹が立つ!」


 先程の一戦を思い出して、私は無性に腹が立っていた。奥義発動までこぎつけておきながら、それすら無効化されてしまったからだ。しかも、今までノーマークだった藤村にだ。

 相手にはそういう大技がないのだから、グングニルさえ使えれば勝てると思っていた。だけどそれが甘かった。私自身を狙って体勢を崩させて狙いを逸らす、そういう方法もあったんだ。


「まあまあ、落ちついてよゆかりちゃん」


 そんな私をなだめるようにして声をかけてくれたのはアテナさんだ。アテナさんは結局沙羅を圧倒していたのだからかなりの上機嫌だ。遠距離武器の使い手としてはかなり上位に属する沙羅に勝るアテナさん、私のパートナーとしては釣りあっていないような気がする。


「これが落ちついていられますか、藤村なんかにやられるなんて……」


 思い出すとより一層腹が立ってくる。藤村に対してではない、敗北してしまった自分が不甲斐無くて、腹立たしい。

 大した実力もないのに、相手を侮っていた。そんな傲慢だった考えが疎ましい。


「まあ仕方ないわよ、実際にあの子強かったんだから」


 事実そうだ。小学校からサッカーで夕凪くんの相棒を努めてきた藤村なのだ。夕凪くんから一目置かれるほどにはサッカーは上手いはずだ。部活でも一年の途中からレギュラー入りしていたとも聞いている。

 そしてやはり男子だ、女子の私よりも身体能力は高い。そのハンデを埋めるために、女性の方がMPなどを高く設定してあるらしいが、それ以上のハンデが肉体的なステータスでついていたらしい。


「あんな使い勝手悪い武器をあんだけ使いこなすあの子は厄介ね。しかもまだジョブスキルが一個残ってる」

「こっちは三つ残ってます。それに、ジョブも割れてません」

「まあね、それはアドバンテージかな」


 アテナさんは結構前からいるプレイヤーで、ジョブ自体はかなりメジャーなものなので、全てスキルはばれている。ただしその分、他のメジャースキルもアテナさんは熟知している。

 多少ならメジャー武器への対策も知っている。剣やら弓の弱点など理解しきっている。


「もう、負けたくないんです」

「よし、その心意気。卑屈になっても仕方ないもんね」

「はい」


 言っている間に私達の試合も迫っている。さっさと自分の競技場へと移動しなければいけない。


「あ、でもこれだけ覚えといて」

「何ですか?」

「子を想う親、親を想う子、友を想う男、恋する女はおんなじぐらい強いって」


 アテナさんも私や藤村がこのゲームをしている理由を知っている。友を想う男、というのはきっと藤村のことを言っているのだろう。それと同じぐらい、私は強い。そういう風に慰めてくれているのだ。

 こんな素晴らしいパートナーに選ばれて、励まされて、これ以上いじけている暇は無い。


「行きますよ、アテナさん」

「うん」


 次の相手と比べると、絶対に藤村の方が強い。だけど、藤村に負けた私はその人に勝てるか分からない。

 それでも、私はアテナさんと一緒に戦っている。それだけで、負ける気なんて全然しなかった。


 そして、苛立っているのはもう一人。



「ああ、もう腹が立つ!」


 俺の目の前で、さっきからずっと沙羅が怒りを撒き散らしている。周囲のものに当たり散らすこともできないし、通行人に八つ当たりも出来ない。ただただ、悔しいと叫んでいる。

 壁をおもいっきり殴って、項垂れた。そしてしばらく動きを止めたかと思うと、そのまま黙り込んでしまった。


「……どうした?」

「情けなくて仕方ないんだ。必要以上に調子に乗ってた自分が」


 壁に押し付けている拳に力が加えられていく。そのせいで、肩から先が震えていた。相当、さっきの試合の結果が応えたようだ。


「今の私ならあの人達にも勝てるって、盲信してた。あんたを……藤村を親友の所に、私が連れて行ってやるんだって思いあがってた」


 私の方が強いんだから、先生みたいなものなんだからちゃんとしなきゃって片意地を張っていた。そういう風に沙羅は続けた。でも実際はヒュウガに軽くあしらわれて、そのヒュウガも藤村が倒してしまった、とも。


「こんなんだからダメなんだ。私が私がって……。こんなんだから沙羅を止めることも出来なかったんだ……」

「沙羅を止める? 何言ってんだよ、沙羅はお前だろ」


 今にも沙羅が押し潰されそうになっていた。いつも、気に食わないことがあったら怒鳴り散らしているのもあるから、今までに見た事の無い沙羅だ。そもそも、弱いところをあまり人に見せない性格でもある。


「笑っちゃうよ。こんなんで上から目線で……。一人でやるって言っといて、結局面倒なのは全部藤村に押しつけてるんだもんな……」

「おまっ、いじけんなよ」

「いつもそうだ。私はすぐに怒鳴るのに、藤村はそっとしておいてくれる。結局私なんてさ……」

「いい加減にしろ!」


 一瞬手をあげそうになったが、間一髪それを思いとどまる。さすがに相手は女子だ。殴る訳にもいかない。叩いてみると今度は痴話喧嘩しているみたいだ。だけど今はもっと重い。

 俺が声を荒げると、珍しいものを見たように沙羅は驚いた。


「沙羅が奥義撃って! 相手がスキル使って! MP減らしてくれたから勝てたんじゃないか! それも忘れて、何が面倒を俺に押しつけただ!」

「だけど、体力は全然減らせてなかった……」

「関係無い! そんなんいくらでも減らせる。だけど、沙羅のおかげで、相手の手数が減ったんだ」

「でも、それでも……倒したのは藤村の実力じゃん」

「だから、俺がこんだけ強くなったのは沙羅のおかげだろ!」


 そもそもらしくない。一つの失敗でこんだけ落ち込むだなんて沙羅らしくない。この程度一括して、不機嫌で次に向かうのが沙羅だったはずだ。


「それなのに、何やってんだよ。いつもみたいに馬鹿正直に前だけ見てろよ」

「……してない?」

「何て?」

「後悔してない? こんな面倒くさいのが相方で」

「誰がするか」


 不安げに訊いてきた質問だったが、下らない。そんなもの深く考える必要性も無く、していないに決まっている。


「こんだけ強い師匠に巡り逢えたんだ。後悔する必要性が無いね」

「うん、でも今日で師匠は辞めるよ」

「まだ塞ぎこんでんのかよ」

「違う、ここから先は、大切なパートナーだ」


 気付くと、沙羅は顔をあげていた。もう、心理的にも下を向いてはいないようだ。


「私が連れていくんじゃない。二人で登るんだ」

「……そうか」


 それなら問題は無い。ようやく俺も安心できた。そして、さっきからずっと考えていたことをついに口にできる。


「次の試合までに、“技巧テクニカル選手プレイヤー”を習得する。俺だって、もっと高いところに登らないとダメなんだ」

「だね。私も、技合成ミキシムの練習するよ」


 意見が一致して、集会所に行こうとした時、沙羅が俺の肩を掴んだ。まだ言い足りないことがあるのだろうか。


「何?」

「そういえば試合前に、余計なこと言ってたわよね」

「えっと……なに、かな?」

「私にだって友達ぐらいいんのよ!」

「げほっ」


 みぞおちに沙羅の鉄拳が入った。思わず呻き声が口からもれる。なんで運営側はこういう痛みも感じないようにしてくれないのかと、文句を言いたい。

 まあでも、いつもの通りに戻ってくれたと体感できただけ、今回は目をつぶっておく事にしよう。

次回は天野たちの試合開始です。

女子組は一番二人の実力差が大きいですね。

逆に一番小さいのは言わずと知れた双子ですかね。


では、次回もよろしくお願いします。

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