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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
56/79

仕切り直して本戦へ


「で、本当に一人でやんの?」

「当たり前でしょ。少しは私にも威厳ってものがあるんだし」


 一応心配して訊いてみたのだが、沙羅は自信満々でそう答えた。中学生に威厳があったら少し怖いような気もするが、ここは師匠としての威厳だろう。

 だけど少しだけ不安要素がある。昨日はランキング的にもあまり大したことがない人達が相手だったが、今日は違う。今日敵となるのは、かつて紫電がいない頃にランキング一位だったと言われている人物だ。名前はヒュウガ、最近では中々使い手が増えてきている“魔法剣”を初めて使った人物でもある。

 そしてその相棒はと言うと、これまた有名な人物だった。プレイ歴の長さならば上位十名に名を連ねる。試作品段階のテストプレイヤーにも選ばれていた、“元”株式会社ハナビの社員。その圧倒的なプレイ時間から、ストーリーだけでなく対人戦など色々な分野に手を広げている。プレイヤーネームはシソ。始祖という意味なのか、紫蘇みたいな色の髪の毛が理由なのかは分からない。

 両者とも、かつての英雄といった雰囲気が強い。だが、今はもう弱くなったかというとそうでもない。一つは紫電や夕凪の圧倒的な強さ。もう一つはストーリーだけでなく他のモードも楽しんでいることだ。ただし、クエストモードに関しては皇帝っていう人が一番強いらしい。

 とりあえず二人とも闘いなれている。去年の大会では六十四位で敗退している。それほどの実力者だ。確かその時の対戦相手は例の皇帝さんらしい。


「ヤバくなったらどうするんだ?」


 心配のまりもう一度訊いてみる。さっきは自信に満ちた表情だったが、今度は苛立った顔つきだ。


「少しは師匠を信用しなさいよ。頑張れよ、ぐらいで良いじゃない」

「でも、どう考えても今日の相手はつよ……」

「大丈夫だって言ってんでしょ」


 スイッチの入った沙羅の表情がさらに険しくなる。これ以上何か言おうものなら俺が先に攻撃されそうな雰囲気である。


「……じゃあ良いよもう」

「何だその投げやりな言い方はぁっ!」

「どっちなんだよ!」


 気を使えば良いのか一任すれば良いのか理解できない。沙羅の心情は全く予想できない。同じ女子である天野は結構予想がつくのに、こっちはさっぱりだ。まあ天野の思考回路が一直線だというのも大きいが。だけど神崎さんでももう少し分かりやすい思考回路だと思う。

 とすると沙羅はただのへそ曲がり……とか言うとまた怒られるから言葉を変えよう。じゃあ何だろう、天の邪鬼……も違う、嘘ついてる気配はないし。


「あんたそれ呟いてるわよ」

「えっ? ……何が?」

「誰がへそ曲がりなのかしら藤村くん?」


 どうやら無意識のうちにぶつぶつ呟いてしまっていたらしい。これはまずい、さっき天野達と闘うより前に「実は友達いないんじゃ……」と訊いて怒らした分もあるから余計にまずい。だがしかし。


「さすがに地獄耳なような気が……」

「それも聞こえてんのよ!」


 ついに怒りのダムが決壊したようで、おもいっきりみぞおちを殴られる。武器とかで攻撃すると痛みは感じない仕様だが、こういうやり取りでは普通に痛覚が働く。一瞬呼吸困難に陥ったような苦しさと、胃の中身の逆流感がしたが、そもそもここの世界では何も食ってないから吐きはしない。

 あまりの痛みに一瞬沙羅が女子なのか忘れるほどだ。弓とはいえトップアスリートならではなのだろうか。とすると神崎さんも結構筋力強いのか。

 それにしてもやっぱり、この喧嘩っ早さは男にも引けを取らないと思う。もう少しおしとやかな印象を女子には持っていたのだが。


「藤村? もう余計なこと考えてないわよね?」

「当たり前ですよお師匠様ー。この従順なお弟子が鬼のように怖い師匠の前でそんな失礼なことを考えるとお思いですか」

「それはさすがにわざと喧嘩売ってるよね?」

「うん」


 今度はおもいっきり脛のあたりを蹴られた。弁慶の泣き所というやつだ。今度の痛みには耐えきれず、片足を抱えて跳び上がってしまった。


「痛たた! おまっ、そこまでするか!」

「うるさい! 女子に対してそんなこと言う奴が悪い!」

「えっ、誰がじょ……」

「それ以上言ったら殺す」

「……はい」


 たまには口喧嘩でも勝ってみたいのだが、勝てる云々の話ではなく、口喧嘩が決着する前に沙羅がキレる。キレたら手のつけようがないので平謝りしかできない。ちなみに、謝らないと処刑されるから謝るしかない。


「あ、でも相手を無理やり黙らせるってことは沙羅はあんまり口が達者じゃないのか」

「まだ言うかてめえは」

「沙羅、男言葉出てるぞ」


 いきなり歩み寄ってきたかと思うと、今度は胸倉を掴まれる。眉間に皺を寄せて威嚇する沙羅の顔が目の前にやってくる。正直これは割としょっちゅうされるので、女子の顔が目の前というのに慣れつつある。

 いや、実際は修羅の顔なのだけれど。


「誰が男よ誰が! 男みたいな体つきで悪かったな!」

「言葉っつってんだろ!」

「うるさいうるさい! どうせ心の中じゃ身も心も男だって馬鹿にしてんだろ!」

「しねえよ! ていうか対戦相手来てんだよ、仲間割れは止めようぜ、な」


 沙羅が振り向くとそこには俺の言う通り、二人の姿がある。ヒュウガとシソだ。二人とも何やら楽しそうにこっちを見ている。

 だが、その二人の楽しそうのジャンルは別方向を向いていた。


「中が良さそうだね、やっぱり学生って良いよな。な、シソ?」

「いやいや、どう見ても痴話喧嘩だろ。おいおいお前ら喧嘩はどうぞ御寝所でって、もう寝てんのか?」


 シソという男は下品な言葉遣いで、しかもギャハハと下品に笑ってみせた。それを目にしても、しょうがないなというようにしかヒュウガは見ていない。


「それにしても仲間割れはよくねえぞ。ちゃんと仲直りしとけよ」

「じゃないと別の女に取られちゃうよ」

「だからそうじゃないだろ、シソ」

「冗談だって冗談」


 シソという人間はともかく、ヒュウガという人物は下品な言葉が嫌いなようだ。さっきから下世話な冗談ばかり言っている彼を、仲間であるヒュウガも睨みつけている。


「まあ、女の方が綺麗だな。男の方はどこにでもいそうな感じだ」

「失礼だな、おっさん」

「おっさん言うなよ少年、まだ二十九だぜ」


 二十九には見えない、かなり老け顔なのか知らないがどう見ても三十後半だ。痩せた頬に浮かぶ影が、彼の薄気味悪さを増長している。まるで魔女を連想させるかのような捻じれた嗤い顔だ。


「シソ、いい加減にしないか。始まるぞ」

「そうだな。どのみち俺としては中学生は興味ねえし。さくっと終わらせてからからかってやるか」

「吠えてな、あたし一人で片付けてやんよ」


 三者が睨みあっているが、そのどの目にも俺は映っていないようだ。どうやら、沙羅が一人でやる気満々だという辺りも実は聞いていたらしい。

 何だか除け者にされているような気がして落ち込みかけている俺を無視するように、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

次回真剣にバトル……なのでやたらとセリフ多いし軽めの話です。

作者はシソみたいな人が苦手なタイプです。


中々対照的な二人ですがどのように闘ってくれるのでしょうか。

次回なのですが、夏休み明けたんで九月以降の更新ペースは八月よりも遅いです。

受験勉強もそろそろ始まるのでまじで更新頻度は落ちますが、しっかり更新していきたいと思いますので、この先もお願いします。

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