表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
54/79

バグ、発生

前半はかなり特殊な視点となっていますが、どこなのかはすぐに分かるでしょう。

後半は天野ゆかり目線の話です。


あ、ちなみにこの回は予定通りにストーリーが進めば伏線に……したいです。


 夜分遅く、真っ暗闇の大都会で高層ビルの窓からは煌々と明かりが漏れ出ている。無数の光が空中に点在する様子は、この時代となっては珍しくもなんともない、普通の光景だ。

 そしてそんな普通の光景の中、数多ひしめく灯りのついた部屋の中の一部屋では、普通ならざる事態が発生していた。その大きな部屋の中の各地で、めいめいが怒鳴り声や悲観した悲鳴を上げている。

 完全に混乱しきっているそのオフィスに、もう一度責任者の怒号が鳴り響いた。


「外部の者にハッキングされるとは何事だ! すぐに何とかしろ!」

「やってますし、駆除できてもいます。でも、次から次にわいてくるんです」


 そのせいで、さっきから対戦予定の通りに競技場に闘技者が転送されていないと、新人の泣き声が響く。しっちゃかめっちゃかにかき回され、逐一修正していっても、追いつけない。

 実害は出ているが、一つ一つはあまり大したものではなかった。ただ唯一、バトフェスが正常に運行できなくなっていることだけを除いて。十分ほど前からトーナメントの通りに対戦相手が出揃わないのだ。片方のエントリーチームは正しいのだが、もう一方が間違っている。


「プレイヤー達が不安がっている! さっさと対処しろ!」

「とりあえずは、通信事故としておきます。しばらく目の前の試合を、フェスの勝敗とは無関係のエキシビジョンだとも添えておきます」

「……ごまかせないだろうが仕方ない。さっさと直して通常通りにしろ!」

「はい!」


 力強く頷いた部下たちは、目の前のパソコンと共に格闘する。敵の数がどの程度か分からないが、侵入は全て阻まないといけない。


「段々と撤退していっているようです。さっきよりも大人しくなっています」

「よし! 元通りに復旧させるためにはどれぐらいかかる?」

「十分です。後、細かいバグも起きていますがどうしますか?」

「玉虫の番人の“向こう側”に突っ込んでおけ! どうせ誰もストーリークリアできる気配も無い」

「了解しました」


 そしてまた、彼らは機会の方へと向き直って、見えない敵との戦場に戻った。

 そして、現実世界で混乱が起きているのと同様に、ゲーム内でもかなりの混乱が起こっていた――――――――。




「通信障害か……そういうのもあるんだな」


 目の前で藤村がそのように呟いた。だが、隣に立っている沙羅はというと、かなり怪訝そうな表情をしている。

 私と藤村は始めてから間もないため、こういう事がどの程度の頻度で起きるのかは知らない。でも、沙羅やアテナさんが沈んでいるような表情を取っているということは、相当な異常事態なんじゃないだろうか。

 先程、私とアテナさんは何らかの拍子に闘技場の中心部へと飛ばされた。私達の本来の試合の日程は明日なのに、だ。なぜ私達がこんな所に立っているのか、それは相手側も分かっていなかったようで、四人して戸惑っていた。

 すると場内にアナウンスが響き渡ったのだ。ただいま、通信障害が発生していますと。早急に対処するため、目の前の試合をご鑑賞ください。先週の皆様は勝ち負けを一切気にせずに闘ってください、とも。

 とりあえず事故は起こったのだが、それすらも場を盛り上げるための道具に使おうとするとはハナビという会社の人達にも呆れてしまいそうだ。


「追加の連絡です。後十分ほどで、予定通りの試合に戻ります。それまでもう少しの間闘い続けていてください」


 またしても、アナウンスだ。どうやら原因は究明され、対処もされたらしい。ホッとしたのもつかの間、急にアテナさんは武器を構えた。

 トリガーに指をかけ、銃口を沙羅に向けたアテナさんの目は真剣だ。


「腕試しに、絶好のチャンスって事ね」

「お久しぶりですがアテナさん……負けませんよ」


 私と藤村、この二人がまだ心の準備をし終えていないというのに、熟練者二人はもうる気満々だ。沙羅の方も弓を手に取り、右手を矢筒につっこんだ。

 その様子を見て、すぐさま藤村も臨戦態勢に入る。その切り替えの速さに私は驚いた。もしかしたら藤村は、私が思っている以上に強くなっているかもしれないと、焦りが生まれてくる。

 藤村が掌の上に、光の球体を作りだした辺りで、私も自分の武器である槍を手に取った。


「天野か……手加減抜きで来てくれよ」

「ふふん、恋愛は友情より厚いって、サッカー馬鹿に教えてあげよう」


 とりあえずはあいつは中距離、私は近距離で最も闘いやすい。それを考えるとやはり接近戦に持ち込むべきだと、私でもすぐに分かる。

 槍の先端を藤村の方に向けながら、真っ直ぐに駆ける。槍は既に、炎のような闘気によってコーティングされている。魔法マジック憑依コートと呼ばれる、気軽に使える威力ドーピングスキルだ。剣で言うと“気剣”に相当する。

 だが、あいつだって自分の距離を正確に把握している。私が接近しようとしていると気付くとすぐさま攻撃に転じた。あいつのボールは青色に光った。この攻撃は一度見た事がある。

 いつだったかと思い返してみるが、二回しか機会は無い。始めてアテナさんと沙羅に会った、あのキークエストの時と昨日の試合だ。出会いのあの時に藤村が使っていたのは、スピードに優れるが、威力の無い攻撃だった。


「“音速ソニックショット”!」


 直接私の方を狙ってきているというなら、盾で塞げば良い話だ。突き出した槍を握りしめた右腕を除き、体全身を盾で防ぐ。これであの攻撃は防げた、そう思った。

 だが、現実は違っていた。突如として、体全体に、痺れるような衝撃が走った。まさか爆発する青色のボールの方だったかと思ったが、爆炎も、爆風も起きていない。

 衝撃で後ろに押し返された私は、尻もちをついてしまう。


「何なのよこの威力!」

「悪いな、“エースストライカー”だ」


 昨日使っていたジョブスキルを思い返す。確か、蹴りと蹴りの物理的な威力を底上げする能力だった。それにしてもこの威力って、もはや人間業ではない。プロとか通り越して化け物である。ゲームだからこの補助効果も仕方ないのだが。

 だが藤村の武器、サッカーボールには欠点がいくつかある。そもそも遠距離武器だったら、一々弾丸やら矢を、スタミナを消費して創り上げる必要がある。

 藤村の武器は、銃の弾丸と比べると明らかに大きい。その分消費するスタミナや、錬成するための時間も長い。

 その隙をついて、距離を詰める。急いで起き上がった私は走りだすが、目の前を見てハッとした。もう既に藤村は、ボ-ルを蹴ろうとしている体勢だ。


「“音速球”」


 藤村が蹴ると同時にボールの姿は消える。次の瞬間、またしても私の体に衝撃が走る。今度は直撃してしまったので、体力が削られてしまった。


「そんな、どうして……」


 二発錬成したにしては、ステータス表示欄のスタミナ消費量はやけに小さい。昨日闘っていた時は、もっと凄まじい量の消費があったはずだ。

 そして私は、あるものを目にした。ついさっき私にぶつかって、ダメージを与えてきたボールが私に当たった反作用で跳ね返り、藤村の方へ戻って行くのを。


「まさかこれって……」

「そのまさか」


 もう一度藤村は、音速の攻撃を放つ。しかし今度は、蹴りだす寸前に大きく跳ぶことで何とか回避できた。でもそれも、紙一重の範囲に過ぎない。


炸裂バーストだ」


 青白い炎が私を吹き飛ばす。今度こそ、爆発させるタイプの攻撃を仕掛けてきた。さっきとは比べ物にならないほど多くの体力が削られる。


「……消えないってことね」

「じゃないと燃費悪すぎるだろ」


 藤村の武器のサッカーボールには、矢や弾丸と違う強みがあったのだと今気付いた。本来矢や弾丸というのは、一度使えばもう一度使うことの無い、いわば使い捨てのものだ。ではサッカーボールはどうか。そうそう使い捨てるような道具ではない。

 使い回しの効く遠距離武器。それがあいつの強みだろう。確かに一球ごとの消費は大きいが、その一球を何度も使えるので、最終的には効率が良い。

 一回戦で気付かなかったのも無理はないだろう。なぜなら藤村は、例外として使い捨てになってしまう、爆弾仕掛けの球ばかり使っていたのだから。


「まずい、友情に負けそう……」

「まだお前手を抜いてるだろ、本気で来いよ」


 夕凪くんへの想いが、こいつに負けているとはあまり認めたくない。

 勝ち負けなんて関係無いこのエキシビジョンマッチだが、無性に私は目の前の藤村に勝ちたくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ