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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
53/79

藤村、逃走

「馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ? いや、馬鹿だ」

「そんなバカバカ言わなくても……」

「口応えすんな!」


 いきなり機嫌を損ねてどこかに行ったかと思うと、帰ってきても沙羅の機嫌は悪いままだった。いや、今回は俺の方に非があるからしかたないのだが。


「何で自分の能力さらしてんのよ!」

「いや、実はもうばれてたみたいで……」


 ついさっき、沙羅がどっか行ったかと思うと、いきなり神崎さんがやってきた。随分と荒々しい相棒を持ってるねと冗談めかした口調だった。偶然遭遇した、とは考えにくいと最初は思ったが、紫電の偵察に来ていたと考えるとそれほど変な話でもない。

 夕凪が、藤村くんの友達に挨拶しておきたいと言って追って行ってしまった。神崎さんは面倒くさそうに溜め息を吐きだしたが、少しわざとらしい様子だった。

 そう言えば神崎さんと沙羅は顔見知りなんだよなと思い返していると、不意に向こうから話を切り出してきた。


「藤村くんのジョブスキルって、最終的に……」


 その発言に、思わず俺は驚いた。まだ見せてもいない、サッカー選手プレイヤーのスキル、そのLv3の効果を言い当てられたからだ。試合で使うどころか、習得すらもできていないのに、なぜ神崎さんが知っているのか、そう思うと急にパニックになった。

 実際のところは、夕凪が予測したという話だったようだが、それでもあいつの想像力には舌を巻く。言い当てられて、驚いてしまったのだから違うとはもう言えなかった。


「やっぱりか。夕凪の予想は当たるからね」


 まあ、試合頑張ってね。そう言い残して神崎さんは去って行った。そこで俺はようやく、それを聞きだすために俺に話しかけたのだろうと察した。先程のわざとらしい溜め息も、きっと夕凪が勝手に行ってしまったと見せつけるためのもので、本当は打ち合わせの後の行動だったのだろう。

 自分から白状してしまったのは確かに問題だが、沙羅に黙っているのも申し訳ない。そう思っていると、少し慌てて沙羅が戻ってきた、という訳だ。俺が一人で立ちすくんでいるのを見て、なぜかホッとしていた。

 で、神崎さんについて訊かれた、というのが先程までの一連の流れだ。そして、自分のスキルを暴露してしまったと言うと……例の如く馬鹿と罵られる羽目に。


「いや、でもあの二人と当たるまで時間あるし、それまでにどうせ一回は試合で使うことになるだろうし」

「……言い訳になると思ってんの?」

「そう言われてもなぁ……」


 正直、今日の沙羅との会話が面倒になってくる。いつまでもイライラとしていて、その苛立ちが俺の方にまで伝染してくる感じだ。

 これ以上いくと、しなくて良い喧嘩に発展しそうな気がする。少し、距離を置いておいた方が良いだろうか。


「……神崎さんの話からすると、夕凪が会いに行ったんだっけ? どこに行ってた?」

「集会所だけど、あんた私の話聞いてる?」

「だから悪かったって。ちょっと夕凪見たいから行ってくる、ごめん」


 本当に慌てているように装って、俺は走りだした。驚いた沙羅が呼びとめるのを無視して、走る。そのままクエスト一個ぐらいしたら丁度いい時間になるだろう。

 追ってくるかもしれないからその方が良いだろう。一人でクエストに行っている間は他のプレイヤーは干渉することはできない。これ以上、沙羅の理不尽な怒りの前に立っているのは耐えられなかった。


「戻ったら、また怒ってるんだろうな、どうせ」


 それでも、少し頭を冷やして欲しいと思う。あんだけ険悪な態度を取られ続けて、俺だってずっと耐えられる訳じゃない。

 それに、本当に夕凪がいるというなら顔を合わせたいというのもある。間に合ってくれよと願いながら、全速力で俺は走った。


「っていうか、何で俺なんだ?」


 普通にもっと強い奴相方に据えれば良いだろうに、なぜえ俺だったのだろうか。見込みありと認められたのは良いが、それでもやっぱりアテナとかと組んだ方が良かったんじゃないのか。

 一から叩き上げた素人の方が、自分の思う通りに動かせると判断してあえて素人を育て上げたのだろうか。確かに、最初はそうだったはずだし、俺自身順当に実力をつけていったとも思う。

 だが、それにしても元々強いプレイヤーをパートナーに据えた方が言いに決まっている。俺は夕凪と闘うためにこのゲームをしているが、言いかえれば初戦が夕凪ならもうそれで充分だという、向上心の無さもある。今となっては相当勝ち進まないと夕凪とは当たらないから頑張ろうとは思っているのだが。

 考えれば考えるほどに矛盾だらけだ。自分で言いたくはないが、あらゆる面で俺と沙羅は不釣り合いだ。実力も、経験も沙羅の方がずっとある。まあ実力とは全く関係無いが、見栄えも沙羅の方が良い。……眉間に皺さえ寄っていなかったら。

 それに、今日は特別多くて、他の日は少ないというだけで、俺が沙羅の機嫌を損ねた回数も数多い。普通の人間よりも怒りの沸点の低い沙羅だからこそ怒るような事ばかりだから、俺のせいじゃないかもしれないが。


「……待てよ」


 俺はよく、夕凪の話を沙羅にしている。その際に神崎さんの事を沙羅に訊かれることもあるが、それほど多くない。それよりも重要なのは、沙羅が友達について何一つ語ったことがない、って事だ。

 こういう夢の中だけで、現実ではとくに面識の無い奴にそんな事を語りたくないだけかもしれない。だけど、あの性格のせいで何か不自由していることがあるかもしれない。

 沙羅は、夕凪について俺が語っている時、どんな顔をしていたか。俺の記憶が正しければ、羨ましそうにしていなかったか。

 まさか友達いない? その失礼極まりない間違った憶測のせいで、今日一番の怒りを買ったのは、また別の話。





「避けられてる……かな?」


 走り去った藤村に取り残された沙羅はぽつりとつぶやいた。あれだけ不機嫌な態度を取り続けてたらそれは仕方ない。だけど、それ以外どうしたら良いのか分からない。

 自分だって、藤村からずっと自分のような言い方をされたら、確実に怒るだろうと彼女は悟る。それなのに、自分はずっとあんな調子だ。

 きっと藤村は一旦逃げたくなったのだろう。頭を冷やさせてくれてるのかもしれないが、可能性は薄そうだ。そのように彼女は判断する。


「案外、嫌われてたりして」


 最近は彼女にとって、藤村からこんなにも心配されている親友の夕凪や、藤村が何の抵抗も無く会話ができる神崎 美波が羨ましい毎日だ。沙羅に対する時、藤村は客観的に見ても身構えている節がある。

 まあ、格が違う沙羅に対する尊敬と、沙羅の理不尽な激昂に対処するための距離感がもたらしているとは、本人は気付いていない。むしろ、まだ話し慣れていないのだと勘違いしている。

 それで、もっと速く打ち解けてくれともどかしく感じるがゆえに、藤村へと当たり散らし、さらに線引きは遠くなるという悪循環なのだが、気付きそうにもない。


「よし、とりあえず試合終わったら謝ろう」


 ただし、その決心は藤村の余計な推測のせいで徒労に終わるとも知らずに。

沙羅が怖いんだか女子らしいのか分からない今日この頃。

そして今日の藤村君は真剣にとんちんかんでした。

ちなみに、かっこいい(かわいい)のにキレると怖いというモデルは暗殺教室の烏丸先生みたいな感じです。

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