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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
50/79

脅威的


 剣と棒がぶつかりあい、火花を散らす。そして武器を振りぬくと同時に次の攻撃に備える。絶えずお互いの武器を振り回して、戦いの火の粉を上げている。だが、サイズの都合上、手数としてはステッキの方が勝っていて、威力は大剣が数段上だ。

 だが未だにどちらとも体力が削られてはいない。上級者同士の戦い、といった感じで、先に一撃貰った方が窮地に立つのだろう。


「防戦一方で大丈夫かい、王様?」

「今のうちにそう言ってろ」


 その言葉でさらに戦いは白熱する。より一層攻撃の応酬が激しくなったのだ。紫電も“オペラ座の怪人”も、一歩下がって力を溜めたかと思うと、強力な一撃で応じる。ぶつかりあったエネルギーが弾け飛び、二人の周りで渦を巻く。


「下がれ、悲哀で行くぞ」


 指揮者の一言で、一気に男は後退した。指揮に合わせて歌を歌いだす。悲哀と言えば、あの金切り声だろうかと思い返す。私の記憶は正しかったようで、途方に暮れるゆうな甲高い声が貫いた。


「“言霊・悲哀”」


 最初、冷気はどこに現われたのか分からなかった。最初だけではない、きっと天井のモニターがズームしていなかったらずっと分からなかっただろう。氷は、紫電の足と地面を縫い付けるように出現していた。

 不意討ちで移動を封じられた紫電だったが、彼は顔色一つ変えはしなかった。強がっているとかじゃなくて、本当に意に介していないように見える。来たら迎え撃ってやると、剣を構えている。


「考えたな、中々」

「本当は全身凍らせるつもりだったんだけど……防御高過ぎでしょ」

「まあ、作るのも一苦労だったしな」


 くだらない話はさておき、紫電はステッキの先端を向けられた。にも関わらず、自分から動く気配はまるで無い。諦めた訳ではない、相手を試しているような雰囲気だ。

 それにしても彼らはどうするつもりなのだろうか。紫電の動きを止めたとは言え、迂闊に踏み込むと返り討ちにあうだけだ。


「おい、攻めないのか?」

「慌てんなよ」


 もう一度、指揮に合わせて歌が響く。今度は指揮棒の動きのテンポも速く、歌声は何だか喜びのようなものに満ちている。だが、よく聴いてみると喜びとはほんの少し違う。もっと上ずった、焦りもちょっとだけ含んでるような声だ。

 一体何をしようと企んでいるのかは分からない。次の一手が読めないというのはかなりプレッシャーがかかっているのではないかと再確認する。実際のところ紫電は動揺一つ見せていないのだが。

 そしてついに、二人は動いた。


「“言霊・高揚”」


 オペラ演者の男がステッキを紫電に向けたのを皮切りに、ついに言霊の力を解放した。なるほど、さっきの声は喜びに満ちていて、次へと歩を進めようとする高揚感を表わしたものだったのか。

 高揚という感情に対するイメージがあまり具体的にわいてこない。前へ前へと急いているような感じだろうか。気分がハイになっているというのもある。

 とすると……前方、または上方に“伸びる”イメージなのだろうか。

 次の瞬間、ただのステッキは、まるで西遊記の如意棒のように伸びた。その伸長現象は留まることなく、瞬く間に紫電の顔面へと向かって宙を駆ける。

 回避しようにも足が動かせない。とすると、剣で防ぐのだろうか。そう思いながら彼の様子を眺めるが、彼がどうこうしようという様子は無い。諦めているようにも見えないが、まさか耐えきるつもりなのだろうか。


「まずは一人目!」


 いくつもの補助効果を受け、破壊力を爆発的に上げていたその棒は、紫電を真正面から突いた。ついに相手に一撃与えることができたと、彼らは心の底から高揚感に包まれる。

 あれほどの攻撃力ならば、確かに体力もかなり削れることだろう。確かに銃装備ではあるが、狙われたのは顔面であり、体などの装備によってダメージカットできない。頭の装備品は追加効果付きの装飾品であるため、防御は薄い。

 つまりこれは、決定的な一打となった訳だ。その瞬間にドッと歓声が爆発した。まさかあの紫電に一撃与える者がいるとはと、早とちりした観衆による喝さいだ。

 賢い者ならばもうとっくに気付いている。彼らの攻撃は『そもそも紫電に届いていない』という事に。


「そろそろ興ざめだな」


 紫電の声が、お祭り騒ぎの群衆を一瞬にして沈めた。その時にようやく気付いたのだろう。またしても、紫電の鼻先の数ミリぐらいの所で、攻撃がバリアに受け止められている事に。

 観衆からどよめきが上がるが、すぐに彼らは静まり返った。どうして忘れていたのかと自分に呆れているようだ。カナリアが、窮地の紫電を放っておく訳が無いのだと。

 そもそも紫電はカナリアに対して、援護を頼んでいた訳で、こうなっても別におかしくはない。むしろ妥当だ。パートナーがピンチならば、彼女の能力ならば助けるだろう。


「そんな……これでも無傷……」

「当たり前だ。カナリアのバリアの奥義は、奥義でようやく破れるレベルだからな。その程度の威力で破れると思うな」


 その発言に、対戦相手の目には絶望が映った。それもそうだ、きっと今の攻撃は彼らのでき得る中で最強の攻撃だったのだから。その威力に対して、その程度などと言われたら、もはや太刀打ちできない。

 高らかに、大剣は天を刺すかのように真っ直ぐ立てられる。


「昨日、アテナの敵は撃とうとして負けたんだったな」


 刀身から放出されたエネルギーが、大気中で渦を巻き始める。漏れだしたパワーは空気中で、とぐろを巻くように大剣に纏わりつき、さらに天空高くへと向かって昇ってゆく。最終的に、収束したエネルギーは天を貫き、大地を裂くような光の剣へと姿を変えた。

 きっとこれは、力の差を誇示するための、奥義だ。


「“剛力ジーク英雄フリート”」


 振り下ろされた斬撃は、まるで闘技場を真っ二つに切り分けるような勢いだった。地面に叩き合わせた瞬間に、砂煙が舞い上がり。地響きのような低く思い音が響く。

 確認するまでもなかったが、次第に砂煙が晴れていくと、その場の情景が鮮明に見えた。当たり前のことだが、対戦相手の体力は底をついている。


「弱くはなかった。来年は、脅威になるかもな」


 今まで紫電が賛辞を送ったのは、夕凪も認めるほどのハイランカーのプレイヤーばかりらしい。そのような男からそのように言われるとは最大の賛辞だろう。

 負けて悔しがっている彼らだったが、その言葉を聞くやいなや目にうっすら涙を浮かべた。あの人物に認められたのだと、喜びに浸っている。

 そして私はというと、あの二人の規格外の実力に、ただただ背筋を凍らせていた。



まあ、強いですよね、そりゃあ。


次回は彼の出番です。

作者泣かせの戦闘シーンな彼の出番です。

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