この人誰だっけ
学校で一悶着あったが、今日もまた夜がやってきた。昨日は一回戦と言いつつ、有名選手のデモンストレーション戦みたいなものだったので、かなり見せものとしての要素が強かったが今日は違う。言うなれば、真の一回戦といったところだ。
まだ一万六千人も残っているため、八千以上の試合数があり、それを一日で終わらせるのは不可能。そのように判断した運営は、この二回戦は二日に分けることにしていたらしい。だが、もう少し余裕を持っておくべきだとのことで、今日いきなり三日に分けることが発表された。
その煽りをくらって、私と夕凪は三日目に回されてしまい、今は少しばかり退屈している。夕凪はというと、今はシラギやソーヤ達と一緒にクエストに行ってしまった。何でも暇すぎて泣けてくる、とのこと。
私はなぜ行かなかったのかというと、知識を蓄えておくためだ。まだ始めてから一か月も経っていないため、やはり知識に関してはかなり乏しい。とりわけ、夕凪以外の人と一緒に戦った試しもほとんどなく、対人戦における事に関しては無知と言っても良いだろう。
特に、どのような武器にどのような技があるのかを知っておく必要がある。今のところ知っているのは私の使う弓、夕凪の魔法銃、ゆかりの槍、メジャー武器の剣系統、それと例外でサッカーボールだ。
素手で格闘家を気取る人達も多いらしいが、そういうのはまだ知らない。確かお父さんが素手だったから知っておいた方が良いだろう。
でも、一番重要なのはジョブスキルなのかな。思い返すと、昨日の俳優や、サッカー選手など、試合の方向を一気に変えることも可能だ。
それでいて、ジョブは大量に種類があり、一つ一つの職が選択者が多い。武器は剣や槍が非常に多くて、他はマイナー武器がちまちまといるだけだが、ジョブの場合はほとんどのスキルに均等に人数が割れている。ナイトや武道家、聖職者や魔法使いなど様々だ。
それでいて、中々似たようなスキルというのは見当たらない。同系統の職業ならば時折被ってはいるが、そうでもなければてんでバラバラだ。極力予想で当てられるようにしておきたいが、やはり最初から知っているに越したことはない。
「それにしても、接戦だなぁ」
目の前で行われている試合は、今日見ている中で十個目の試合だ。今のところ目的は達成できているかと問われると、上々といったところだろうか。かなりの人達がジョブスキルを解放して何とかして勝ちをもぎ取ろうとする。一回戦では圧勝劇が多く、あまりジョブを解放しない人が多かったのとは大違いだ。
目の前では、医師と看護師ペアと、画家とナイトのペアだ。医師と看護師は共に体力回復のスキルを持っている。そして、ナイトは盾による強力な防御スキルがある。そのため、致命的なダメージというものがお互いに中々与えられずに長引いているのだ。
だが、やはり画家とナイトの二人組は回復手段が無いので徐々に体力は削られる一方だ。それに対して相手はまだまだぴんぴんしている。
「奥義で一気に倒せば良いのに」
ぼそっと私は呟いた。元々騒々しい競技場内だ、よっぽどでない限り私の声なんて誰も聞いていない。夕凪もいない今、私には特に視線は集まらないし。
そう思っていたのを裏腹に、後ろからちょっとした笑い声が漏れた。何だろうと思って振り返ると、誰かが立っていた。スカーフや帽子で顔を隠しているので誰なのかはさっぱり分からない。辛うじて見えている目が、私に向かって微笑んでいた。
「無理よ。まだレベルが低いから、覚えられないわ」
予想通り、彼女は私に話しかけてきていた。どうしてだろうか、笑われてしまったのに、全く嫌な気分がしないのは。彼女の声がとても優しいからだろうか。
もう少し顔がよく見えないかと思ったが無理だった。やはり、見えているのは瞳ぐらいだった。
「誰……ですか?」
「うーん……通りすがりの女性A、って思っといて」
冗談めかしてそう言われると、それ以上追及する気が起きない。体型と声からして、女性だというのは容易に分かった。不思議な事に彼女は、武器を何一つ手にしていなかった。
「それにしても両チームとも頑張ってるわね。どっちが勝つと思う」
「そうですね……」
不意にそんな事を問いかけられる。何だかなれなれしい人なのかな。その考えをすぐに打ち消す。この人とだったら、もっと喋っていたいと思う。顔も見えないのに、とても魅力的な女性だ。
「やっぱり、回復できるっていうアドバンテージは大きいですね」
「という事は、医師、看護師コンビの勝ち?」
いたずらっぽいその声音は、私が間違いを口にすることを心待ちにしているような色合いを含んでいた。間違えたからといってどうする訳でもなく、ただ単に私をからかいたいのだろう。
でも、私は誤答をするつもりはない。
「いや、その反対側のチームですね」
「どうして?」
私が急に答えを変えたので、彼女は目を丸めた。翡翠色の瞳に、驚きの色が浮かぶ。
「体力は確かに有限です。実際にナイト達は削られてきています。けれど……」
そう、スキルを使うというのはタダじゃない。何かしらの代償が必要なのだ。いつまでも無尽蔵に回復できるという訳ではない。
「MPだって有限です。巫女みたいに回復できるっていうなら話は別ですが。でも、彼らにはそのMPを回復しようとする兆候が無い。というよりも、“できない”んです。とすると、回復ができなくなる。そうなると、一撃が重い敵の攻撃を受けると、すぐにやられてしまう」
今度は私が彼女に、いたずらっぽい笑みを作った。より意地悪く見せるために、極力可愛く見えるようにした。つまらなさそうに唇を尖らせるのが、確かに感じられた。
「……むー、中身は可愛くないね」
「全然、本心から言ってないの丸分かりですよ」
「そんな事まで分かっちゃうなんて」
それぐらいは声のトーンで分かる。お気に入りを見つけたように、弾んだ声をしていたのだ。どう考えても嫌われているとは思えなかった。
「それにしても君凄いね。私と予想が一緒だよ」
「ありがとうございます」
と言っても、目の前のこの人が誰なのか分からない。目と声で判断しろと言われても無理な話だが。でも、結構強いのだろうなとは思う。
「ランキング何位?」
「始めたばかりで全然ですよ。桁が八ですから」
「八桁っていうと……何千万位とか? ほんとに始めたばっかりなんだ」
私がまだ素人に近いと知ると、より一層彼女は驚いた。こりゃ私もうかうかしていられないぞと、頬を掻く。
「でも装備は強そうだよね。相方誰なの?」
無邪気な笑みでそう問いかけられると断る訳にはいかない。少々口にしづらくても仕方ない。私はそれに返事をすることにした。
「ゆうな……じゃなくてイザナギです」
「そうかそうか……ってええっ!?」
ああ、やっぱりこうなりますよね。私は心の中で深い溜め息をついた。これで彼女が嫌な顔をしてくれなければ良いのだが。
ただしそれは要らぬ心配だった。それを聞いた彼女はより一層私に親身になって近寄ってきた。
「君がイザナギくんの今年のペアなの? あ、そう言えば一回戦見たよ! いやー、格好良かったよ。どうして忘れてたんだろ」
めちゃくちゃはしゃいでいる。それにしても、格好良いと言われて少しばかり得意げになっている自分がいるのも感じた。
「うーん、去年戦ったんだけど彼、とっても強かったんだよね。危うく負けそうになっちゃったぐらいだ」
「へえ、去年夕凪と闘っ……」
反射的に話に乗ろうとしたが、ある語句が高揚する私に待ったをかけた。この人は今何と言ったか。“危うく負けそうになった”と言った。つまり、この人は夕凪に“勝った”のだ。
去年の大会、準々決勝で夕凪とアテナのペアは敗北したと何度も聞いている。そして、その相手は誰だったか――――。
「あなたもしかして……」
いつしか試合は終わっていた。勝者はもちろん、私達の予想通りだ。医師たちは悔しそうにしている。
でも今はそれどころではない。静まり返った競技場で、小さな私の声だけが彼女に向かっている。
「……カナリア?」
今日紹介するのは藤村英明です。
前回に宣言した通り、彼はとても作者泣かせな少年です。
まず彼が誕生した経緯は、単純に夕凪のことを想う人を考えた時、親友はかかせないだろう、というのが元です。
それで、武器を何にするかということでしたが、部活で夕凪とつなげるつもりだったので、そこから持ってこようと。
夕凪と語るには、出会ったきっかけのサッカーで、という訳です。
サッカーになった理由は、攻撃できるスポーツ……あれ、イナズマイレブンっていうバトルものがあったような……みたいな(笑)
もう一つの候補はテニスです。言わずもがな王子様。
彼が作者泣かせな理由は何と言ってもバトルシーン。
彼が戦う時にかかせないワードがいくつかあります。
『球』『ボール』『蹴る』『錬成』です。
もはや自分の語彙力が乏しいのも相まって彼のバトルシーンはこの四つが頻繁に登場します。
バカの一つ覚え見たいに登場します。
しかも一個一個の技の威力も大して高く設定していないため、後半になればなるほど一戦に時間がかかります。
奥義なんて大層なものがあのサッカーボールから出てくるのが思いつかず結局非力キャラです。
ディシディアのティーダが似たような戦い方なのにどうしてここまで差がついたのかってぐらいの感じです。
でも俺はこいつ実はお気に入りです。
親心だとか教師としてだとか恋愛とかじゃなくて『友情』で動くキャラは大好きです。
そのため彼はかなり優遇されているつもりです。
実際一個前の話で人気者でしたね。
次回のキャラクター紹介は天野ゆかりの予定です。




