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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
36/79

負けねえからな

しばらくは遠距離(?)コンビの話です。

視点は基本的に藤村です。


 目の前で、神崎さんと夕凪の第一試合が終わった。実際のところ、闘っていたのは神崎さん一人だけだったが、終始呆気に取られるような試合だった。

 開幕早々二対一という不利な状況に追いやられるも、ものともせずに合成技で一人目をすぐさま突破。二人目は二人目よりも強かったようで、強そうなドラゴンを召喚したみたいだけれど、そのドラゴンすらも一瞬で倒した。

 その上、爆発による猛攻も、既に打っていた布石である“蜃気楼の矢”で完全に回避。それ以上の追撃を許すことなく、“居合い撃ち”と弓の奥義で速攻で決着を付けた。

 頭が良いだけでなく、運動神経も抜群。多彩な才能に秀でている神崎 美波は、ゲームの中でもそのポテンシャルを遺憾なく発揮した訳だ。これが身震いしないでいられようか。


「……悔しい」

「どうしたの?」


 隣で観戦していた沙羅が、ポツリと悔しいと漏らした。何事かと思って声をかける。すると、眉間にしわを寄せたガラの悪い表情でこちらに向き直った。少し竦むような思いがしたが、それもいたしかたない。

 スイッチの入った沙羅の顔は、あくまで表情だけだがこの上なく怖い。根が優しいから実際はそこまで怒られはしないが、この形相は普段の美しさの面影も無く、修羅のようだ。


「さっきあの画家が言ってた“メテオレイン”なんだけど……私が作ったんだよね」

「知ってるよ。何回その自慢話聞いたと……」

「あ? 自慢?」

「ごめんなさい」


 本当に、自慢話にしか聞こえなかったんだから仕方ないだろう。内心でツッコミを入れるが、口に出す訳にはいかない。もう一度言うが、見ているだけならこの人は鬼だと間違えられてもおかしくはない。怖すぎるんだから反論もくそも無い。

 クエストモードなどで沙羅が“加速弓”、“剛弓”、“弓矢の雨”の合成技を使う度にその逸話を聞かされたのだ、私が作ったのだと。そして難易度の高さからそういう呼び名がついたのだとも。何だかんだで、沙羅を含めて使える人は大していないらしい。


「でもさ、弓使いがそもそも少ないんじゃあ……」

「潰されたいの?」

「ごめんなさい」


 そう、遠距離武器は極めれば結構強いと言われているが、いかんせん人気が無い。誰もが、変わり種の武器を使いたがる。オーソドックスな武器をチョイスするにしても皆剣や槍を使いたがる。結局、遠距離武器人口は少なくなる。

 にも関わらず列強勢にはかなりの遠距離武器使いが集結している。要するに、結局機会を窺いながら攻撃する方が堅実でいて強い訳だ。だが、やはり依然として刃の付いた武器は人気を博している。

 なぜか。平和なこの世界では刃物に限らず、武器を振るう機会なんて全然ない。せいぜいが野球部のバットぐらいだ。犯罪を起こそうものなら三秒後に逮捕される、それが現在いまだ。

 そのため、おおっぴらに武器を振り回す解放感が良いのか、大人気を保っている訳である。


「そもそも、ガンナーは使い慣れないと狙い通り撃つのすら無理なのよ。それなら使いたくもなくなるわ」

「それで言うと俺らって二人とも馬鹿だよね」

「そうね」


 そこでようやく、沙羅は笑った。こうしてると綺麗なんだけどなあ……そう思いながら見とれている自分に気づく。その思いを振り払うように両頬を叩いた。少なくとも今は、そんな事を考えている場合じゃない。そもそも沙羅が、どこにいる誰なのかも分からないんだ、そんな事は考えない方が良いに決まっている。

 俺が両手で頬を叩いたのは、試合に対する集中のためかと勘違いしたのか、沙羅は「そろそろだね」と言った。そうだ、夕凪たちの次の、さらにその次にここで試合をするのは、他ならぬ俺たちなのだから。

 この試合ももうすぐ終わりそうね。今競技場にいるのは、四人中三人が女性だった。そして四人中四人全員が剣、または槍を手にしている。


「俺の力はどこまで通じるのかな?」

「大丈夫、通じるわよ。なんてったって師匠が」

「『この私なんだから』、だろ?」

「正解」


 また、沙羅が笑みを漏らした。先程のような無邪気なものではなく、好戦的な笑顔に、彼女の闘いに対する集中力が見受けられる。そうして、自分も同様に浮足立ちそうな自分の心を静めた。


「そう言えば、藤村が勝ちたいって言ってたのはあの少年だよね?」

「あの、って?」

「神崎 美波のコンビ」

「ああ、そうだよ。……って、何で神崎さんの事知ってんの!?」


 驚いた俺はバッと沙羅の方を振り返る。なぜ俺がこんなにも驚いているのか彼女は理解していないのか、首を傾げた。


「言ってなかったっけ? 私神崎さんとは面識あるよ」

「はあ? いつ?」

「去年。……そして、あの時は実力で勝てなかった」


 でも、今度は実力で勝ってみせる。意気揚々と沙羅はそう宣言したが、俺には何の事だかさっぱり分からない。どうして彼女が神崎さんの事を知っているんだろうか。


「もっとも、少年の方は知らないけどね」


 どういう理由なのかは時間が無いからか、今は口にするつもりはないらしい。だが、本名を言い当てたということは、知り合いであるというのは確定させて良さそうだ。

 突如、俺達の身体を、光が包み込んだ。おそらく、これから試合会場に転送されるのだろう。


「負けねえからな、絶対。お前とるまでは」


 誰にでもない、自分でもない、空に向かって高々と俺は宣言した。

次回、藤村と沙羅の試合です。

沙羅と美波に関してはまた追々……。

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