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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
34/79

龍、討伐


 空中に現れた龍は、広い競技場の中で異質な存在感を放っっていた。鎧のように頑強でいて、刃のように鋭い鱗、一メートルはありそうな長い牙、とぐろを巻くほど長い胴体からは、二本の細く短い腕が伸びており、三本の爪が生えている。

 口から漏れ出る吐息は赤い炎を帯びており、目つきはとても殺気だっていて、まるで逆鱗に触られたかのようだ。


「とびきり怒り狂った東洋龍ね……」

「その通り。激昂する龍を描き、具現化した」


 まあ、僕にはモンスターを従える能力が無いからこうするしかないんだ。そう続けたインクは、先程私達と夕凪を分断した強化ガラスをもう一度空中にスケッチした。そして今度は、自分を包み込む壁としてその場に張り巡らせた。

 なるほど、自分は安全な所にいつつ、怒り狂うモンスターの力で勝とうという訳だ。少し卑怯な気がしないでもないが、立派な戦術だろう。

 しかし、これには一つだけ欠点があった。


「つまり、その龍はそのガラス板を砕けないのよね?」

「そりゃそうだよ。じゃないと僕の身が危ない」


 インクは当たり前のようにそのように言ってのけるが、それが間違いだと未だに気付いていない。


「さっき言ってたわよね、奥義級の威力じゃないと壊せない、って」

「言ったよ。それが何なの?」


 自分の方が圧倒的優位に立っているのに、余裕ぶって質問している私のことが気に食わないのだろうか、彼は少しムッとした。

 だが皮肉にも、そのせいで私はより余裕を持つことができた。


「じゃあ、この龍大したことないのね」


 それが聞こえたのか、怒り狂った龍の方が動きだした。一応は自我を持っているらしく、今の言葉を侮辱と捉えたのだろう。金色に輝いていた目が、赤く燃えている。

 空中高く座した状態から、長い尻尾をしならせて叩きつけてきた。さすがにサイズがサイズな上、体力の所も分からないので、回避せざるを得ない。足の装備品の追加効果を発動する。

 私の足装備は、夕凪に進められた通りに韋駄天いだてん草鞋わらじを装備している。防御力は皆無と言って良いが、スピード補正が異常なほどにかかる逸品だ。その速度たるや、現実世界での人間では到底及ばないものである。

 一瞬で私は地面を蹴り、加速する。まだ尻尾は高い位置にあるが、もう既に私自身は射程圏外だ。さらに私は胴体の装備である天照の羽衣の効果も発動する。まるで空中に足場があるかのように空中を走り抜けたり、天女の如くそのまま天空へと舞いあがることができる。

 ようやっと、龍の尾が地面に叩きつけられた。地鳴りが響くが、空中にいる以上は関係無い。矢を錬成し、弓につがえる。勿論、スタミナの消費量は通常の矢よりも多くしてある。


「“ごうきゅう”!」


 通常のものよりも、サイズも威力も一回り大きい矢が放たれる。弓から飛び出した矢は、龍の胴体へと突き刺さった。苦しそうな悲鳴が、裂けるような口から零れ落ちる。

 私はその隙を逃さず、追撃を図った。間隙を与えるとそのまま逆転される可能性もある。相手が痛みをこらえようとしているうちに、次の剛弓を発射した。

 だが、間一髪それに感づいた幻獣は、一見か細く見えるその腕で弾いた。その辺りはやはり人間でなくモンスター、といったところだろうか。

 だが、それでも相手の方が遅いことに変わりはない。間一髪剛弓を弾いた直後には、もう既に次の攻撃に移っていた。


「“ガトリングアロー”……技合成ミキシム炸裂バーストアロー”!」


 一本だけつがえられた矢が、弦と接しているうちに分裂、増殖する。見かけ上は一本の矢にしか見えないが、一本撃たれても弓の傍から矢は消えない。次の瞬間にはもう一本同じ矢が飛んでいき、次々と何十本もの矢が連射される。

 “連続弓”は“レインボウアロー”と違って、攻撃範囲は狭いが、一点突破という意味ではより強力だ。

 そして既に口にした通り、ただの“連続弓”でもない。

 着弾地点から次々と、青白い爆炎が上がる。一つ炸裂すると、また一回炸裂する。一撃一撃、確実に相手の体力を削っていく。

 おおよそ五十発程度の爆発に、偉大な姿の龍ですら耐えきることはできなかった。苦しそうな断末魔を上げて、ストーリーなどに出てくるモンスター同様、青い煙となって消えた。


「次はあなたの番よ」

「……どうかな?」


 得意げに笑ったインクは、またしても次の絵を描き終えていた。

 いつの間にかガラスのバリアを消し去っている。そして、次にインクが描き上げたものを私はじっと見つめた。


「……爆炎?」

「その通り」


 そして、その爆炎を具現化するために、大気中のキャンパスは強い光を放った。


「色々あったけど、まずは一人かな?」


 競技場内を、爆音が駆け抜けた。

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