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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
32/79

いざ、戦場へ


 コクーンの中に入るとすぐに、睡眠導入ガスの効果で私はQuest Onlineの世界へと移行した。もう一ヶ月もこれを続けてきたので、この感覚には慣れっこになっている。静かなコクーンから、人のひしめく喧騒の中に切り替わるギャップは、初めはとても違和感を感じたものだが。

 本来ならば、夜になってゲームを始める際には前日に中断したストーリーモードかターミナルタウンのいずれかからスタートするはずだ。だが、今日はそうではなかった。見慣れないコロシアムの観客席に立っていた。

 古代ローマのコロッセウムのような場所だ。一番下、とても広い競技場となっている部分では今もう既に一回戦が始まっている。そして、それを取り囲むように観客席が階段状に設置されている。その席の数は異常に多く、一体何万人の観客がいるのか、さっぱり数えきれない。

 天井を見上げてみると、それは大画面のスクリーンのようになっていた。上の方の座席ではほとんど見えないから、それに対する配慮として選手たちが闘っている様子がアップで映っている。

 会場は目の前で行われている試合に釘付けになり、これ以上なく興奮していた。おそらくその理由は、現在闘っているのがソーヤとシラギだからだろうか。

 相手の人たちは必死にくらいついているが、ソーヤ達は実力なんてまだまだ見せていないだろう。いたぶるまではいかないが、遊んでいるように見えなくもない。

 そこで、シラギが飽き飽きしたかのように、深い溜め息を一つ吐き出した。遊びは終わりで、重い腰をようやく持ち上げた、というのが伝わってきた。

 ソーヤを右手で制して、手を出すなと示唆して、シラギは手をブラブラとさせた。準備体操であり、ルーティーンでもあると、夕凪がこの前言っていた気がする。

 たちまち、シラギの姿が消える。正確には思わず消えてしまったかと感じるほどのスピードで移動している訳だが、その動きが見えない人にとっては消えたようにしか見えない。

 直接相対している二人組も例外ではなく、突然の事に慌てふためく。次の瞬間、真横から突きをくらったその二人は大きく吹き飛んだ。いつの間にか、さっきまでその二人がいた位置にはシラギが現われていた。

 途端に、今まで既に膨れ上がっていた観衆の興奮が爆発した。拍手と歓声で他の音が全く聞こえなくなる。それほどまでにこの二人の実力は認められていて、羨望の的となっている訳だ。


「美波、僕らはB競技場だよ」


 いつの間にか隣に夕凪が現われていた。自分の出番が待ちきれないのか、銃を片手に持て余しているようだ。私と武器以外の装備は一緒なのだが、基調となるジョブが違うので、風貌にも違いが見られる。

 きっと夕凪もこの観衆のようにソーヤ達に魅せられてしまったのだろう。ついには待ちきれないと口にしだす始末だ。


「予定では後三十分って所ね。良い頃合いだし行こうかしら」


 遅刻しても多少は許されるらしいが、やはり時間には厳しくして行動するべきだろう。真っ赤な袴を翻して、私は夕凪の背中を追いかけた。





 競技場は全部で三十五個設置されている。AからZの二十六、そして1から9の九つだ。一番最初に私達がやってきたのはその中でもA競技場だった。

 競技場と競技場との間はワープサークルを用いる。ワープサークルとは、薄い青色に発行している円形の床で、乗ると任意の場所に瞬間的に移動する。任意の、とは言ったが正確にはワープサークルから任意のワープサークルへと移動する。

 そうして私達が訪れたB競技場も、超満員だった。ソーヤ達が闘っていた時のような爆発的な興奮こそないが、多くの人が競技場の中心を一心に眺めている。

 そこで闘っているのは二組とも知らない人たちだった。名前すらも知らないので、夕凪の要警戒人物のリストにもいなかったのだろう。

 実際に見てみると、手前味噌な発言だが私や夕凪と比べると動きがせわしなく、精細もない。技を使うタイミングやコントロールも並みで、MPやスタミナのペース配分もできていない。

 しばらくして、あっさりと勝敗は決した。一方のMPが完全に枯渇し、回復アイテムがルールで禁止されているため、その後そちらの方は為す術が無くなった。そのため自分から降参した訳である。

 試合が終わると、両チーム合わせて四名とも、ステージから姿を消した。スムーズに競技場を次の試合のために空けるために、運営が強制的にワープさせているらしい。

 天井のスクリーンに、次の対戦の組み合わせが張り出された。片方のチームは私と夕凪、対する敵は二人の成人男性だ。


「やっと出番がきたね」


 自分の顔写真が張り出されたせいで、会場がどよめいたのも気にせずに、夕凪は嬉しそうに笑った。これ以上なく楽しそうに笑う夕凪の顔立ちに、近くにいた女子は釘づけになっていた。


「もうすぐ私達の出番ね」

「うん。もうすぐ強制的に選手控え室に飛ばされるよ」


 そう、夕凪が言い終わるやいなや、いつの間にか私達はその選手控え室に立っていた。開戦まで後五分と、デジタル時計が告げている。

 先ほど見た二人の敵選手の写真が手元に届いた。これで装備や職業、武器を察せということなのだろう。

 片方は、重鎧に身を包んだ色黒の男性だ。おそらくは騎士で、武器は槍だ。装備は見たことがないので分からない。ランキングは日本で二千七十三位となっている。

 もう一方は、カジュアルな服装で右手に筆、左手にパレット、頭にはベレー帽という、いかにも画家のような服装だ。武器が見当たらないことから筆なのではないかと検討をつける。装備は辛うじて、天照の羽衣だけ分かった。


「まあ、実力的には多分僕と美波は大して変わんないからさ。このぐらいなら楽勝だって」


 夕凪は私が緊張していると思ったのか、そのように励ましの言葉をくれた。実際のところ緊張なんてサラッサラしていないのだが、厚意は黙って受け取ることにした。

 大喝采の中での初めての試合、その方向へと加速し続けている。もう、宴はすぐそこまで迫っている。


「賭けの事、忘れないでよ夕凪」

「分かってるって」


 そして私達は、戦場へと足を踏み入れた。


いやー、やっぱりシラギは強いです。

敵さんも何が起こったのかさっぱりでしょう。

ですが、彼らの出番はしばらく少ないです。

いつかこの二人で番外編みたいなのをしてみたいです。


次回は美波、夕凪の一回戦。

果たしてその実力や如何に……という話。

次回もよろしくお願いします。

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