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Quest Online――体感式アクションオンラインゲーム――  作者: 狒牙
開幕、バトルフェスティバル
31/79

開会!

この話以降は、タイトルに『~~side』などは入りませんが、誰視点なのかはここで明記したいと思います。

今回は美波が視点です。

今回は、というよりもしばらく美波視点ですのでそう思っておいてください。


 それは確かに、ゲームの中でのイベントに過ぎない。全てのユーザーの中で最も強い者を決める大会、言ってしまえばそれだけの話だ。

 しかしそのゲームはほとんど社会現象を起こすほどに、多くのプレイヤーを抱え込んでいる。その数実に世界人口の二分の一、年配の人達はプレイ率は低いが、中高生のプレイ率は九割近い。社会人に至っては先方と話を合わせるコミュニケーションツールとしても用いられたりもする。

 よくもそれだけの人数がプレイしているにも関わらず、私やお父さん、梶本先生や藤村がしていなかったものだと少し驚いていた。

 しかし今はそれよりも、このゲームの規模が凄まじいと気付く。そう、Quest Onlineの話題が気になる人は全人口の半分だ。つまり、テレビとしてはこれ以上ない視聴率を叩きだす絶好の機会だという訳だ。

 そのため、もうすぐバトルフェスティバルが開催されるとあって、各種テレビ局がこぞって有力選手に声をかけ、インタビューを行った。バトルフェスティバルの本戦が始まる日の夕方、つまりたった今からそのインタビューのまとめを開会直前の特番として放送される。

 無論、無課金の帝王の名前を持つ夕凪も引っ張りだこ。それならまだしも、コンビを組んだ私も巻き込まれる始末。明日は確実にクラスの人から騒がれることだろう。


「始まったよ、美波」


 考え事で意識が飛んでいると思ったのか、夕凪が私に話し掛ける。夕凪の提案で他の有力選手の情報を仕入れよう、とのことだ。

 画面の中では複数人のアナウンサーが話し込んでいる。彼ら一同もユーザーのようだが、選抜クエストでふるい落とされたようだ。


「今回の選抜は、例年よりもかなり難易度が下がったようです。例年ならば千組そこそこしか残らないのに対して今年はなんと一万もの組が残っているのですから」

「いや、むしろ腕の立つプレイヤーが増えたと考えるのでは?」

「そうですね。では早速ピックアップ選手の紹介に参らせて頂きます。まず最初は言わずとしれたこの人です」


 画面が暗転し、一人の男性の顔写真が出てきた。顔つきからして筋肉質で堅そうな顔で、現実世界でも力仕事をしていそうだな、と思った。年齢は二十後半といったところだろうか。


「シデン、この名前だけなら聞いたことのないユーザーはいないと言っても良いでしょう。日本ランキング一位、世界ランキングでは五位、日本人では最高です」


 やはり上には上がいるものだと思い、夕凪の様子を窺う。きっとこの人は課金プレイヤーなのだろう、夕凪より上の順位ということは。


「前回の大会では後に紹介するコンビに敗退し、国内ベスト4で終わりました。今回はその雪辱を晴らしにくるのでしょう。パートナーは日本ランキング三十位のカナリアさんです」


 隣に現れた顔写真には、彼よりも一回り若い女性だ。金色の髪の毛だが、所々緑の髪がまざっている。金色の中で、数少ない緑の髪は美しく映えていた。

 途端に画面はまたしてもアナウンサー達の方に戻る。たくさんのプレイヤーを紹介するため、時間に余裕が無いらしい。

 このシデンという人物のインタビューは番組後半に回されるようだ。だが、その時間帯は私達は一回戦の準備のためにゲーム内へ入る、つまりは寝ていないといけない。


「二組目に紹介するのはこの二人組です。ランキングはそれほど上位には位置しておりませんが、実力は折り紙つき。クエストモードの覇者、“皇帝”ソーヤとその相棒であるシラギさんです」


 画面に、あの二人の姿が映った。得意げな顔つきでソーヤは楽しげな笑いを漏らし、シラギはというと冷めた目で達観しているようにも見えた。あれ以来、私は夕凪とずっとクエストモードに入り浸っていたのでこの二人とももう大分打ち解けてしまった。

 それでいて分かったのだが、この二人は小さい頃からずっと一緒に育ってきた親友で、通っている学校も同じなのだとか。親の中も良いらしい。


「さっそくですがお二人に質問です。今回の抱負は何でしょうか?」


 マイクを向けられて、シラギは少し面倒くさそうな顔をした。それを察したのか代わりにソーヤがベラベラと語りだした。


「二連覇、だな。相手が誰だろうと負けるかよ」

「流石、強気の発言ですね。ところで……今回一番の注目選手は誰でしょうか?」


 ソーヤはそう問いかけられると、顎に手を添えた。少し答えかねているようで、いくつか候補が上がっているらしい。誰にしようか悩むその様子を尻目に、今度はずっと黙っていたシラギが口を開いた。


「イザナギと、イザナミ」


 まさかそちらから返答がくるとは思っていなかったのか、インタビュアーの方も少し動揺しながら、そちらにマイクを向け直す。どうやら、こういう機会ではシラギは基本的に口を開かないと有名になっているようだ。


「イザナギ選手と言えば、無課金の帝王の異名で名高いプレイヤーですね。日本ランキング二位、世界ランキング十位という、まだ若い少年とは思えない人物です。ですが……イザナミ選手とは?」


 そう訊き返された途端に再びシラギは黙り込んでしまった。慌てる質問者をなだめようと、ソーヤが再びバトンを拾った。


「どうせ今度そっちにも行くんだろ? その時にはっきりするさ」


 もうちょっとクエストに行きたいんだけれど……そう言って二人は遠まわしに帰ってくれと告げた。それに気づかないほど彼らは疎くなく、面倒がられる前に取材を切りあげた。

 そして、次に画面に映ったのは夕凪の姿である。最強の中学生、見出しはそれだった。昨年の成績がついでに表示される。前回はさっき出てきたシデンとカナリアに負けてベスト8で終了。


「今年こそ、狙うは優勝ですか?」

「もちろんだよ。そうじゃないとつまんないじゃん」

「これはこれで強気な発言ですね。ところである方々から、イザナミ、という名前を聞いてきたのですが」


 ソーヤ達だなと、ちょっとムッとした表情で夕凪は下唇を突き出した。このタイミングで明かして、去年とはパートナーが違うと驚かせたかったようだ。

 だが、次の瞬間にはそんなことも忘れて、あっけらかんとした表情で私を呼んでいるその様子を見るのが二度目とはいえ、少し呆れた。

 これ以降の話はもう既に経験済みなので聞き流す。そして、その後に何組分かの選手紹介を見た後に、夕凪は早めに第一試合の準備を始めようと、部屋に戻ろうとした。


「ちょっと待って夕凪」


 私は、ある人物がテレビに出てきたので咄嗟に夕凪を呼びとめた。この人物だけは夕凪に知らせておこうと思ったからだ。


「えっ、何で……って、英明ぃ!?」


 そう、そこに映っていたのは私のクラスメイトでもある藤村 英明だ。夕凪の親友で、サッカー仲間。一応彼にも私と同じようにQuest Onlineを始めるように誘導したのだが、本当にここまで勝ち上がってくるとは予想外だった。

 ただ、そんな事よりも私が気をひかれたのは、そのパートナーの沙羅という人物だ。どこかで会ったような気がしてならないのだが、思い出せない。


「何で英明がいるのさ……。美波、何かした?」

「別に、私はゆかりにあのゲームを始めるって話しただけよ」


 怪しいなぁ……。怪訝そうな目で睨みつけてくる夕凪の鋭さは全く可愛らしくない。私もあまり人の事は言えないが。


「まあ良いよ。とりあえずもう時間だよ」


 そう言った夕凪を、今度は私は止めなかった。私も準備を始めた方が良いだろうと思ったからだ。テレビの電源を消して、部屋へと戻る。

 当初の目的を私は見失っていない。夕凪との賭けに勝つために私は絶対に勝ちあがる。

 ただし、今から始まる闘いの宴を心待ちにしている自分がいるのもまた、否定できなかった。


「いくよ、美波」


 今晩、私達の闘いは始まるんだ。拳を軽く握り締めて、私は決意を新たにして、コクーンの中へと向かった。

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