バトルフェスティバル 美波・夕凪side
「二人一組?」
「うん。そうだよ。そう言えばまだ言ってなかったね。勿論美波は僕と一緒に出るよ」
「それはともかく……あんたが学校に行く条件がこの大会での優勝だけど、あんた真面目にやるの?」
そういう風に私が訊くと、分かってないなと夕凪は方をすくめた。やれやれ、などと言わんばかりの表情で微笑んでいるのが少しだけ腹立たしい。
「美波よりも僕の方がこの大会で優勝したいんだから、本気でやるに決まってんじゃん。今回こそは、ソーヤとシラギのコンビと一緒に無課金旋風を巻き起こすんだ」
無課金旋風という謎の造語に私は呆れるが、一か月後のフェスティバルを楽しみにしている夕凪の眼中には入っていないらしい。それにしても、楽しそうな表情だな、と家族としては微笑ましく感じられる。
だがしかしこのイベントで勝ち進むのは並大抵のことではないだろうと、少し危惧している。確かに夕凪は強い。今まで一緒に進めてきた間に何度か戦闘シーンを見たが、素人目にも凄いと分かった。
極力私に戦わせるために自分は攻撃しないが、敵の特徴を淡々と語りつつ攻撃を悠々と回避したり、体力が多いはずの敵を一撃で倒したりと、無双していた。
「っていうか美波も相当化け物じみた強さだけどね。一応ビッグバードって初めて戦う場合三十分はかかるんだけど」
「そうなの? 的が大きいから攻撃が馬鹿みたいに当たってすぐに終わったんだけど」
「いやいや、その分結構速くて狙いにくいんだって」
そう言われても、大したスピードではなかったし、スピードと向きで相手の動きを予測すればそこに撃てば良い話だ。大して難しい話でもない。
「まあ良いや。じゃあ、ここから先、バトフェスに向けての強化計画を説明するよ」
「分かったわ」
とりあえず、いくらプレイヤーの技術が向上しても、装備のクオリティが段違いの場合、どう足掻いてもランキング上位のプレイヤーには勝てないようだ。一部の武器のスキルの中には、攻撃範囲が広く、ほぼ必中する技もあるという。
それに、雑魚とばかり戦っても大してレベルは上がらない。レベルが上がらないと武器を使った技、ジョブスキル、最大HP、MP、スタミナの値が低すぎて話にならないのだとか。
「以上の問題を一気に何とかするために、美波はこれからずっと僕と一緒にクエストに参加してもらうよ。クエストは僕のストーリーの進行具合で出てくる超高難易度に分類されるから、気を付けてね」
「勝てるのそれ?」
「まあ、最初の二、三体は僕一人でやるけど、その後はびっくりするぐらいレベルが上がるから、スキルを一気に習得して美波にも戦ってもらうよ。一応弓の技を使いなれておいてくれないと困るしね」
敵と自分のレベルが離れているほど多くの経験値を獲得できるシステムらしい。そのため、今の私の低レベル状況で、夕凪が高レベルのモンスターを倒して一気にレベルを夕凪に近づけようという訳だ。
ちなみに、クエストの報酬として貰える素材を使って、対人戦で有利な装備を作ったり、強力なモンスターとの戦闘で私の戦闘技術を磨くことも意識しているようだ。
「とりあえずは、一気にスキルを習得したいところだね。“居合撃ち”ぐらいは欲しいかな」
クイックドロウというのは技の名前なのだろうが、初心者である私はそれがどのような技なのかはさっぱり分からない。
「最終的な目標は、ジョブレベルを最大の3まで解放、弓スキルは“殲滅の大剛弓”の習得、装備は頭がオリハルコンのティアラ、腕がアポロンのガントレット、体が天照の羽衣、アクセサリが月読の首飾り、武器がスサノオの弓、靴が韋駄天の草鞋って所かな」
「えっと……装備品をごちゃごちゃ言われても分かんないんだけど?」
まあ、その内覚えられるでしょ。そう言って夕凪はクエストを探しに行く。紫色の髪飾りを付けた係員風のキャラクターが、依頼を広げる。その中から夕凪は三つの依頼を抜き取った。
「さてと、じゃあ今晩はこの三体を狩って、スキル習得して終わろっか。明日からは美波にも戦ってもらうからね」
討伐の目標はそれぞれ竜王、戦神の眷族、魔王の従者となっていた。
名前から既に強そうな匂いが漂っているが、夕凪はお構いなしだ。過去に一人で倒した経験もあるのだろう。
その気合いを現実でも使ってくれたらなぁ、と溜め息を漏らしたのは、言うまでも無い。
昨日に引き続き予約投稿です。
全部月曜日(学校の代休)に書きました。
ずっと行っていますが、書くのを楽しみにしているストーリーが近づいて来て、勝手に大盛り上がりしています。
次回は親父と先生の二人組。
果たして、彼らは誰と組むのでしょうか。
ちなみに、月曜段階ではまだ彼らの話は書いてないので来週になると思います。




